帰宅して、とりあえずシャワーを浴びて、それほど空腹ではなかったけれど、何か少しは口にしたいなと思いながらリビングに戻ると、テーブルの上にイチゴがあった。 「イチゴ?」 フルーツが常備されているような家ではない。 ということは、これは玲二がもってきたということだろう。 だけど、今までフルーツを買ってきたことなんてあっただろうか。 まじまじと艶やかなイチゴを眺めていると、キッチンから出てきた玲二があれ、というように首を傾げた。 「乃木沢さん、イチゴ嫌いでした?」 「いや、好きだよ」 「ですよね。前にそう言ってたから。なのにそんな不思議そうな顔してるから嫌いになったのかと思っちゃいましたよ」 ほっとしたように笑って、玲二が席につく。 「いやー。ずいぶん高そうなイチゴだなぁと思って」 大粒で色が綺麗で。一度どこかの料亭でこういうイチゴを見たことがある。 一般人の感覚では考えられないような値段だったような気がする。 「高いですよ」 さらりと玲二が言い、 「でもいただきものなので気にしなくていいです」 と、肩をすくめる。 大学教授の玲二の家には、あれこれといただきものが集まるんだろう。 これはその横流しということか。 「でもどうして急にイチゴなんだ?」 「1月5日だから」 「うん?」 「イチゴの日でしょ?」 真面目な顔でそんな可愛いことを言う玲二に顔がにやけた。 硝子の器からイチゴを一粒つまみ上げて、玲二の口元へと運ぶと、素直に口を開けた。 「うん、美味しい」 満面の笑みを浮かべる玲二を引き寄せて、そのまま口づけると、触れた舌先からも甘いイチゴの味がした。 「俺にも食べさせてくれないかい。できれば口移し希望」 言うと、玲二は呆れたように目を見開き、指で摘んだイチゴを口元へと運んでくれた。 「あれ、口移しは?」 「・・・それはもうちょっとあとで」 本当はこういうことは大の苦手なくせに、最近はちょっとずつリクエストに応えてくれるようになってきた年下の恋人が可愛くて仕方ない。 このままずっと一緒にいたら、きっと骨抜きにされすぎて、ぐずぐずになってしまうんだろうな。 「何ですか?」 俺の視線に、玲二が訝しげに眉をひそめる。 「いや、玲二くんのことが好きだなぁと思って」 「・・・・っ」 もう何度も言っている台詞なのに、お約束のように玲二は赤くなった。 イチゴのように染まった頬に、小さく一つキスをした。 |