夜の食堂で受け取った定食のトレイ。 メニューは鳥丼。 時々登場する丼ではあるのだが、その日は少しばかり様子が違った。 「なに、これ」 託生がまじまじと丼を凝視した。 その隣に立つギイもまた、首を傾げて丼を眺めている。 「何か、今日の丼、小ネギが大量すぎない?」 「丼から溢れそうだな」 「えーっと、何かの間違いかな」 言って、託生が周りの生徒たちのトレイを見渡してみる。 けれど、そこに乗っている丼も小ネギ満載である。 「何ぼんやり立ち尽くしてるんだ」 後ろからやってきた章三が2人を促して、3人でテーブルについた。 「2人して変な顔して、何かあったのか?」 「いや、なぁ章三、この丼、ネギが多すぎないか?バランス悪いだろ」 別にネギは嫌いじゃないが、この量は普通じゃない。 「ああ、まぁしょうがないだろ」 章三は別段驚いた風でもなく、いただきますと手を合わせて丼に手をつける。 「しょうがないってどういうこと?」 託生が聞くと、章三は何だ知らないのかと肩をすくめた。 「今日は5月23日だろ。何の日か知らないのか?」 「今日はキスの日だろ。またはラブレターの日。恋人に優しい日だよな」 なぁ?と甘い視線を送るギイに託生は知らずと赤くなる。 「何言ってんだ、今日は『国産小ねぎ消費拡大の日』だろ。だから食堂の おばちゃんたちが張り切って小ねぎを使ったんだろ」 「小ねぎ消費拡大の日・・・?」 託生がぱちぱちと瞬きをする。すると章三が無言のまま食堂の壁を 指差した。 そこには農家のおばちゃんがネギを持ったポスターが貼られて いて、『5月23日は国産小ねぎ消費拡大の日』とでかでかと書かれていた。 「眼中になかったな。だいたい、何だ、その色気のかけらもない日は」 「別に僕が決めたわけじゃない」 「オレと託生はキスの日に一票」 「えっ、勝手に決めるなよ、ギイ」 託生が一応の反論を試みる。 5月23日。 キスの日であり、ラブレターの日であり、国産小ねぎ消費拡大の日。 |