6月9日 その3



「ちょ、っと待って待って、矢倉、ストップ!」
俺の制止に、矢倉はぴたりと動きを止めた。
「なに?」
途中で遮られた矢倉は不機嫌そうな声を出して顔を上げた。
「何って・・・な、何するつもり?」
久しぶりのゼロ番の夜。
もちろん甘い雰囲気になって、何度も口づけを交わした。
シャツの上から身体中を触られて、いつの間にかベルトを外されていた。
相変わらず手が早いな、なんて思ってると、下衣の中へと手が忍び込んできてぎょっとした。
思わず手首を掴んだけれど、あっさりと跳ね除けられて、そのあとは意地悪く焦らされて、簡単にはいかせてもらえず、ぐずぐずとした快楽だけを与えられいた。
もうやだ、と言うと矢倉は何を思ったのか、首筋に埋めていた顔を下へ下へとずらしていった。
慌ててストップをかけた。かけるだろう、普通は。
「矢倉、ちょっと・・・なに?」
「何って、八津が我慢できないっていうから」
「そうだけど・・・」
「だから気持ちよくしてやろうと思ったんだけどな」
矢倉は悪戯っぽく笑うと、ぺろりと舌を出して唇を舐めた。
とたんにその意味が分かって、自分でも驚くくらい顔が熱くなるのが分かった。
「わ、すげー、真っ赤だ」
「な、何考えてるんだよっ!!矢倉の馬鹿っ」
思わず枕を投げつけると、矢倉はますます不機嫌そうな表情になる。
「馬鹿とは何だ。せっかく気持ちよくしてやろうと思ったのに」
「い、いいよ、そんなのしなくていい」
「どうして?手でするより絶対キモチいいぜ?」
「・・・何で、そんなこと分かるんだよ」
うっかり声が低くなる。
矢倉はそんな俺を見て、とたんに嬉しそうに目を細めた。
「なに、経験談じゃないかってヤキモチ焼いた?」
「・・・・」
そうだ、とも、そうじゃない、とも言うのは憚られた。何となく悔しいし。
矢倉は黙る俺の頬に音をさせてキスをした。
「安心していいって。そういうの、してもらったこともないし、したこともないから。けど、男なら想像できるだろ?」
「・・・・でも」
矢倉の言いたいことは分かる。
男だから、そりゃそういうのって、きっと気持ちいいんだろうなって思うけど。
だけどやっぱりちょっと、それは抵抗があるというか、恥ずかしすぎてきっと死にそうになる。
俺が口ごもっていると、矢倉は大仰に肩をすくめてみせた。
「あーあ。せっかく俺の初フェラを八津に捧げようと思ったのに」
「ちょっ・・・恥ずかしいこと言うなよっ!!!!」
顔から火が出るくらい赤くなってるのが分かる。
もう顔なんて見れなくて、矢倉に背を向けて枕を抱え込んだ。
そんな俺の背中に矢倉はキスをした。ぎゅっと抱きしめられて、ますます恥ずかしくなる。
「なぁ、何でそんなに恥ずかしがるんだよ。別に普通だろ?」
「普通?」
「八津、するのとされるのなら、どっちがいい?」
「・・・・・さいてー」
「だから何で!?」
何で、って何でそういうこと平気に口にできるのか、そっちの方が何で、だよ!
矢倉は背中から片手で俺の身体を抱き寄せて、もう片手で中断されていたコトを続けようとする。
「矢倉っ」
「もう黙ってろって」
「・・・っ」
しばらく互いに無言のまま、時折微かな吐息が零れ落ちた。
「なぁ、八津」
「・・・・ん・・・」
「今度はさせて?」
「・・・・ほんっとさいてー・・んっ・・・」
まだ言うか、と腕の中で暴れたら、きゅっと握りこまれて、息がつまった。
「んじゃ、八津がしてくれる?」
どこか興奮したように声色が耳元で聞こえる。
俺が黙ってると、矢倉はそれじゃあさ、と耳朶を食んだ。
「一緒にしよっか。それなら恥ずかしくないだろ?」
「一緒・・・・?」
言ってる意味が分からなくて戸惑っているとと、矢倉が困ったように苦笑したのが聞こえた。
「八津って案外と深窓のお嬢様?そういうとこも可愛いけど、あ、そういや今日って6月9日かぁ。ちょうどいいし、やっぱり一緒にしよっか?」
「・・・」
いったい何がちょうどいいのか分からない。
だいたい6月9日がどういう関係があるんだろう。
ぐるぐると考えすぎて、その日はちっとも気持ちよくなれなかった。

後日、矢倉がしたいと言っていたことが何なのかが分かり、呆然としてしまった。
来年の6月9日には絶対するからな、と矢倉に笑われて、卒業しても一緒にいられるのかと思うと嬉しかったけれど、本当にする気だったらどうしよう、と今から少し不安になってしまった。




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あとがき

八津くん乙女(笑) 69、来年こそはー!がんばれ矢倉。