「ちょ、っと待って待って、矢倉、ストップ!」 俺の制止に、矢倉はぴたりと動きを止めた。 「なに?」 途中で遮られた矢倉は不機嫌そうな声を出して顔を上げた。 「何って・・・な、何するつもり?」 久しぶりのゼロ番の夜。 もちろん甘い雰囲気になって、何度も口づけを交わした。 シャツの上から身体中を触られて、いつの間にかベルトを外されていた。 相変わらず手が早いな、なんて思ってると、下衣の中へと手が忍び込んできてぎょっとした。 思わず手首を掴んだけれど、あっさりと跳ね除けられて、そのあとは意地悪く焦らされて、簡単にはいかせてもらえず、ぐずぐずとした快楽だけを与えられいた。 もうやだ、と言うと矢倉は何を思ったのか、首筋に埋めていた顔を下へ下へとずらしていった。 慌ててストップをかけた。かけるだろう、普通は。 「矢倉、ちょっと・・・なに?」 「何って、八津が我慢できないっていうから」 「そうだけど・・・」 「だから気持ちよくしてやろうと思ったんだけどな」 矢倉は悪戯っぽく笑うと、ぺろりと舌を出して唇を舐めた。 とたんにその意味が分かって、自分でも驚くくらい顔が熱くなるのが分かった。 「わ、すげー、真っ赤だ」 「な、何考えてるんだよっ!!矢倉の馬鹿っ」 思わず枕を投げつけると、矢倉はますます不機嫌そうな表情になる。 「馬鹿とは何だ。せっかく気持ちよくしてやろうと思ったのに」 「い、いいよ、そんなのしなくていい」 「どうして?手でするより絶対キモチいいぜ?」 「・・・何で、そんなこと分かるんだよ」 うっかり声が低くなる。 矢倉はそんな俺を見て、とたんに嬉しそうに目を細めた。 「なに、経験談じゃないかってヤキモチ焼いた?」 「・・・・」 そうだ、とも、そうじゃない、とも言うのは憚られた。何となく悔しいし。 矢倉は黙る俺の頬に音をさせてキスをした。 「安心していいって。そういうの、してもらったこともないし、したこともないから。けど、男なら想像できるだろ?」 「・・・・でも」 矢倉の言いたいことは分かる。 男だから、そりゃそういうのって、きっと気持ちいいんだろうなって思うけど。 だけどやっぱりちょっと、それは抵抗があるというか、恥ずかしすぎてきっと死にそうになる。 俺が口ごもっていると、矢倉は大仰に肩をすくめてみせた。 「あーあ。せっかく俺の初フェラを八津に捧げようと思ったのに」 「ちょっ・・・恥ずかしいこと言うなよっ!!!!」 顔から火が出るくらい赤くなってるのが分かる。 もう顔なんて見れなくて、矢倉に背を向けて枕を抱え込んだ。 そんな俺の背中に矢倉はキスをした。ぎゅっと抱きしめられて、ますます恥ずかしくなる。 「なぁ、何でそんなに恥ずかしがるんだよ。別に普通だろ?」 「普通?」 「八津、するのとされるのなら、どっちがいい?」 「・・・・・さいてー」 「だから何で!?」 何で、って何でそういうこと平気に口にできるのか、そっちの方が何で、だよ! 矢倉は背中から片手で俺の身体を抱き寄せて、もう片手で中断されていたコトを続けようとする。 「矢倉っ」 「もう黙ってろって」 「・・・っ」 しばらく互いに無言のまま、時折微かな吐息が零れ落ちた。 「なぁ、八津」 「・・・・ん・・・」 「今度はさせて?」 「・・・・ほんっとさいてー・・んっ・・・」 まだ言うか、と腕の中で暴れたら、きゅっと握りこまれて、息がつまった。 「んじゃ、八津がしてくれる?」 どこか興奮したように声色が耳元で聞こえる。 俺が黙ってると、矢倉はそれじゃあさ、と耳朶を食んだ。 「一緒にしよっか。それなら恥ずかしくないだろ?」 「一緒・・・・?」 言ってる意味が分からなくて戸惑っているとと、矢倉が困ったように苦笑したのが聞こえた。 「八津って案外と深窓のお嬢様?そういうとこも可愛いけど、あ、そういや今日って6月9日かぁ。ちょうどいいし、やっぱり一緒にしよっか?」 「・・・」 いったい何がちょうどいいのか分からない。 だいたい6月9日がどういう関係があるんだろう。 ぐるぐると考えすぎて、その日はちっとも気持ちよくなれなかった。 後日、矢倉がしたいと言っていたことが何なのかが分かり、呆然としてしまった。 来年の6月9日には絶対するからな、と矢倉に笑われて、卒業しても一緒にいられるのかと思うと嬉しかったけれど、本当にする気だったらどうしよう、と今から少し不安になってしまった。 |