7月10日




「たーくーみ」
妙に猫なで声のギイに、ぼくの危険察知センサーが作動した。
咄嗟に逃げようとしたぼくの手首を、ギイが素早く掴んだ。
「こらこら、何で逃げるんだよ」
「だって、嫌な予感がしたんだよ」
「失礼なヤツだな〜」
いや、そんなことはないはずだ。
だって、ギイの目、すんごく何かを企んでる目なんだもん。
「今日、何の日か知ってるか?」
「え、知らない・・けど。またキスの日とか言い出すんじゃないだろうね」
「あれはもう終わっただろ。今日は、潤滑油の日なんだってさ」
「・・・・・え?」
ぼくは何かの聞き間違えかと思って、思わず聞き返してしまった。
「だから、潤滑油の日。710を逆さにした英語のオイルになるだろ?」
「あー、なるほど。いろいろ考える人がいるんだねぇ」
よくそんなところに気づくなぁ。
「だからさ、やっぱり消費しなくちゃなって思うだろ」
言うなりギイはぼくをあっさりとベッドに押し倒した。
「え、消費って?じ、潤滑油の?」
「そりゃそうだろ。今日は潤滑油の日だし」
「マ、マッサージしてくれる、とか?」
淡い期待を抱いて尋ねると、ギイは満面の笑みを浮かべた。
「気持ちいマッサージもして欲しけりゃいくらでも」
「えーーーっ!」
もう絶対にやだ!!と逃げようとするぼくを押さえ込んで、ギイが取り出した小さなボトル。
何しっかり用意してんだよ、ギイのばかっ。
「ほら、今日のために特別に用意したんだ。これ、めちゃくちゃいい匂いでさ、託生も好きそうかなって」
確かに仄かに香る匂いは、すごくいい匂いだけど・・・。
「な、試してみようぜ」
「・・・・」
「絶対キモチいいからさ」
「その自信はどこからくるんだろうね」
半ば諦めたぼくのシャツを脱がせて、ギイはにっこりと笑った。
「そりゃ、オレめちゃくちゃ記憶力いいもん。託生のどこが感じるかぜーんぶ覚えて・・・いてっ、おまっ・・本気で殴るなよ」
「ギイが恥ずかしいこと言うからだろっ!!」
「あーうるさい」
ふいに訪れるとろりとした液体の冷たさに身をすくめたけれど、ギイの言う通り、それはすごく甘くていい匂いで、思わずうっとりと深呼吸をした。
「その気になった?」
優しく口づけられて、それ以上に優しい眼差しで見つめられたら、嫌だなんて言えるはずもなくて、ぼくはギイの手からボトルを奪い取ると、手のひらに取ってぺたりとギイの胸元を濡らした。
「イイ匂いだろ?」
「・・・うん」
「ちなみにこれ、口にしても安全だから」

やっぱり企んでる!!!!!

結局その夜は初めて使う潤滑油に煽られて、いろいろと初めての経験をすることになった。
キスの日に引き続きの潤滑油の日。もうこれ以上ギイが喜ぶ日がないことを祈るばかりのぼくだった。


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あとがき

7月10日、エロい日だと思った自分がちょっと悲しかった。