「ギイ、今日が何の日か知ってるか?」 矢倉ががしっとギイの肩に手を回した。 高身長の二人だが、ギイの方がわずかに高い。ちらっと横目で矢倉を見たギイが、眉をひそめる。 「さぁ、何の日だ?」 「駅弁記念日」 「・・・へぇ」 「やったことあるか、ギイ?」 「食べたことあるかの間違いだろ」 「いや、まぁそっちもだけど・・・」 「そっちもってどういうことだ?」 惚けている様子に見えないギイの表情に、矢倉はまさか、と目を見開いた。 「おいおい、ギイ、本当に知らないのか?」 「だから何がだ?」 こんなアンビリバボーなことがあるのだろうか。 あのギイが!本当に駅弁を知らないだなんて? 矢倉はまじまじとギイを見つめ、そういえば一応こいつはアメリカ人だったかと低く唸った。 自分はしたことがないそれを、ギイならきっとやったことがあるだろうから、ちょっとあれこれ教えてもらおうかと目論んでいたというのに。がっかりである。 「マジか。葉山が知ってるとは思えないしなぁ。いや、案外知ってたりすると尊敬するが。ギイ、今晩、葉山に教えてもらえ、な?」 胡散臭そうな目のギイの肩をぽんぽんと叩いて、矢倉はじゃあなと言ってその場を離れた。 しかし、である。 あのギイが本当に知らないなんてことがあるのだろうか、と再び疑問が浮かんだ。 あのギイである。 すっとぼけた演技をしただけなのかもしれない。 「読めないな、ギイ」 まぁ明日の朝、葉山託生の様子を見ればわかるだろう。 駅弁記念日。もし知っていたら、あのギイが何もしないはずがない。 矢倉はうんうんと一人納得したのだった。 |