祠堂は美形が多い、というのが麓の女子高生たちの間での常識だ。 そのダントツトップはギイこと崎義一で、休日に街へ出かけると、必ずと言っていいほど誰かから声をかけられる。 「最近チャレンジ精神旺盛な女の子が多いなぁ」 ついさっき、半ば無理やり手紙を押し付けられたギイを見て、矢倉が感心したように大きくうなづく。 「こんな面倒な男のどこがいいんだろうなぁ。見た目に騙されるよなぁ」 「おい矢倉、面倒って何だ」 「面倒じゃないって思ってるあたりが面倒だよな、お前」 二人で行きつけの喫茶店に入り、互いの連れがやってくるのを待っていた。 「けど、ギイが手紙を受け取るなんて珍しいな」 「受け取ったわけじゃない。押し付けられたんだ」 「まぁ人目のある街角で冷たく突き返すっていうのもできないか」 「そんなとこだな」 「でもそれどうすんだよ。奥様が見たら怒るんじゃねぇの?」 矢倉が揶揄すると、ギイは嫌そうな顔をして矢倉を睨んだ。 「お前、託生に余計なこと言うなよ?」 「さぁてどうすっかなー」 ギイが大切に大切にしている恋人の葉山託生。 ギイが浮気するなんてありはしないが、それでもラブレターをもらったと知ればさすがにいい気はしないだろう。 「目の前で痴話喧嘩が見れたりするのかなぁ」 矢倉が言うと、ギイはうーんと首をかしげて言った。 「いや、託生はこれくらいのことじゃ怒ったりしないと思うけどな」 「まさか」 矢倉は嘘つけと思ったが、果たしてそれは真実だった。 遅れてやってきた託生と八津。 冗談めかして、ギイがラブレターをもらったということを話すと、託生はへぇと目を見開いた。 「今日はハンサムの日なんだって。だからみんなギイに手紙を渡そうって思ったのかな」 「・・・・・」 託生の反応に、矢倉とギイは顔を見合わせて、やれやれと肩を落とした。 ハンサムの日って何だよ、とか。 自分の恋人がラブレター貰ったんだからちょっとは拗ねてやれよ、とか。 その余裕っぷりは逆にちょっと腹が立つ、とか。 そもそも自分の彼氏のことを臆面もなくハンサムだなんて言うな、とか。 まぁ言いたいことは山ほどあったが、喧嘩されるよりはましかと思い直す。 「ハンサムの日かぁ、で、矢倉は何も貰わなかったの?」 八津がからかうように矢倉を見る。 ギイがぶはっと笑いだす。 天然コンビ二人には勝てないと思い知った矢倉だった。 |