8月6日 



祠堂は美形が多い、というのが麓の女子高生たちの間での常識だ。
そのダントツトップはギイこと崎義一で、休日に街へ出かけると、必ずと言っていいほど誰かから声をかけられる。
「最近チャレンジ精神旺盛な女の子が多いなぁ」
ついさっき、半ば無理やり手紙を押し付けられたギイを見て、矢倉が感心したように大きくうなづく。
「こんな面倒な男のどこがいいんだろうなぁ。見た目に騙されるよなぁ」
「おい矢倉、面倒って何だ」
「面倒じゃないって思ってるあたりが面倒だよな、お前」
二人で行きつけの喫茶店に入り、互いの連れがやってくるのを待っていた。
「けど、ギイが手紙を受け取るなんて珍しいな」
「受け取ったわけじゃない。押し付けられたんだ」
「まぁ人目のある街角で冷たく突き返すっていうのもできないか」
「そんなとこだな」
「でもそれどうすんだよ。奥様が見たら怒るんじゃねぇの?」
矢倉が揶揄すると、ギイは嫌そうな顔をして矢倉を睨んだ。
「お前、託生に余計なこと言うなよ?」
「さぁてどうすっかなー」
ギイが大切に大切にしている恋人の葉山託生。
ギイが浮気するなんてありはしないが、それでもラブレターをもらったと知ればさすがにいい気はしないだろう。
「目の前で痴話喧嘩が見れたりするのかなぁ」
矢倉が言うと、ギイはうーんと首をかしげて言った。
「いや、託生はこれくらいのことじゃ怒ったりしないと思うけどな」
「まさか」
矢倉は嘘つけと思ったが、果たしてそれは真実だった。
遅れてやってきた託生と八津。
冗談めかして、ギイがラブレターをもらったということを話すと、託生はへぇと目を見開いた。
「今日はハンサムの日なんだって。だからみんなギイに手紙を渡そうって思ったのかな」
「・・・・・」
託生の反応に、矢倉とギイは顔を見合わせて、やれやれと肩を落とした。
ハンサムの日って何だよ、とか。
自分の恋人がラブレター貰ったんだからちょっとは拗ねてやれよ、とか。
その余裕っぷりは逆にちょっと腹が立つ、とか。
そもそも自分の彼氏のことを臆面もなくハンサムだなんて言うな、とか。
まぁ言いたいことは山ほどあったが、喧嘩されるよりはましかと思い直す。
「ハンサムの日かぁ、で、矢倉は何も貰わなかったの?」
八津がからかうように矢倉を見る。
ギイがぶはっと笑いだす。
天然コンビ二人には勝てないと思い知った矢倉だった。




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あとがき

ハンサムの日だそうな!ギイの日?!(笑)託生くんの余裕っぷりがカッコいいわ。