「では次、今世紀最後の発見と言われているバイオリンの名器ストラディバリウスです。現存するバイオリンの中でも保存状態がいいと評判の逸品です。では入札を始めます」 目の前のバイオリンはそれはそれは見目美しい。 ギイに貸与されているsubrosa。 それでさえぼくにはもったいないと分かっている。 分かっているけど、ああ、あのバイオリンはいったいどんな音が出るんだろうか。 きっと澄んでいて、自分が上手くなったと勘違いするほどに素晴らしい音がするんだろうな。 ぼくがうっとりとバイオリンを眺めていると 「入札スタート額は500万ドルからです」 との声が聞こえた。 えーっと、500万ドルっていくになるんだっけ。 1ドルが120円だとして、えーとえーと6億円??え、6億であってる? ぼくは頭の中でぐるぐると計算をし、そして、その途方もない金額に愕然とした。 確かに名匠の逸品だから、それくらいの値段がしてもおかしくはないけど。 庶民には手の届かないよなぁ。 ああ、だけど一度でいいから弾いてみたいなぁ。 こんな金額で、いったい誰が買うというのだろうなんて思っていたのに、次から次へと手が上がり、みるみるうちに値が上がっていく。 怖すぎる、と思っていると、すぐ隣に座っていたギイが 「1000万」 とありえない金額を口にした。 1000万ドル!!!って、いったいいくら!? えーとえーと120円だとして・・・・ 「ギイっ!いったいそれいくらだと思ってるのさっ!!」 思わずシャツを引っ張ると、 「12億円だろ?」 ギイの声に、ぼくは我に返った。 我に返ったというか、夢から目が覚めた。 横を見ると、一緒に寝ていたギイが肘をついた格好で不思議そうにぼくを見ている。 「・・・12億円?」 「お前、いったいどんな夢見てたんだ?ずっと1ドル120円で、ってぶつぶつ言ってたぞ。俺に1000万ドルっていくら?って半分寝言で聞いてきた」 くすくすと笑って、ギイがぼくの額にキスをする。 ああ、夢か。そうだよね、夢だよね。あんなのどう考えても現実じゃない。 たぶん寝る前にストラドがオークションにかけられるっていうニュースを見たせいだ。 あああ、もう何て心臓に悪い夢だ。 だって、ギイなら本当に1000万ドルで手を上げそうだ。 「ギイ、無駄遣い禁止」 「は?お前、まだ寝ぼけてるだろ?」 楽しそうに言って、ギイは横になるとぼくを腕の中に抱きしめた。 「12億円の無駄遣いか。ちょっとやってみたいよな」 なんていう怖い独り言は聞かないふり! |