「妹の日なんだから、ちょっとは妹孝行してくれてもいいでしょ?」 何だそりゃ、とギイが呆れたように眉を顰める。 久しぶりに三人でランチでもしましょう、と誘われて、最近人気だというイタリアンの店にやってきた。 ほとんど女子ばかりの店の中、それでなくても男は目立つというのに、ギイの容姿は相変わらずなものだから注目の的で、おまけに一緒にいる絵利子ちゃんもレベルが高いものだから、さっきから何とも居心地の悪い思いをしているのだが、2人はまったく気にした様子もない。 「だいたい妹の日って何なんだ?」 「子供の日みたいなものでしょ?」 「あのな、子供の日っていうのは『こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに母に感謝する日』だ。子供孝行をする日じゃない。だから妹の日はあれだな、兄に感謝する日に違いない」 立て板に水といった感じでギイが目の前の絵利子ちゃんに言い切る。 思わず吹き出したぼくに、絵利子ちゃんが唇を尖らせた。 「なによー、託生さんまでギイに感謝しろなんて言うつもり?」 「そうじゃないけど、仲いいなーって思って」 「この年になって仲いいっていってもねぇ」 いや、だからこそなんじゃないかなって思う。 30代になって、お互いに新しい家族を持って仕事をしていて。 頻繁に会うことはなくても、会えば何も変わらずに冗談が言えて。 「ぼくも妹欲しかったなぁ」 「あら、託生さんはギイのパートナーだもん、だったら私は託生さんの妹でしょ?」 にっこりと笑われて、言葉を失くした。 そうか、家族になるってそういうことなんだ。じわりと胸の奥が温かくなってぼくは何だかすごく嬉しくなってしまった。 「じゃあ今日はぼくが妹孝行してあげるよ」 「わーい。だから託生さん大好き」 絵利子ちゃんがギイに見せ付けるようにぼくの腕に手を回す。 渋い表情のギイは、結局そのあと強請られるままに、絵利子ちゃんが欲しいと言った発売されたばかりの新作バッグを買ってあげていた。 何だかんだ言っても、ギイも妹のことは可愛いのである。 |