「そもそも日本における男色っていうのは古代からあって、江戸期の武家社会においては衆道と言われていたし、そういう意味では日本じゃポピュラーなものだったはずだよね?宗教的にも禁じられていたわけでもないんだろ?そうそう先日、近くのギャラリーで春画展をやっていて、そこにも男色の作品がいくつか出ていたよ。少しもいやらしいものじゃなくて、綺麗だったなぁ。男色は少しも恥ずかしいことじゃないし、むしろ高尚な嗜みだったんじゃないのかな。どうなの、タクミ?」 ど、ど、どうと言われましても!!! 「だいたいギイみたいなゴージャスな恋人がいて、恥ずかしがることなんてないし、むしろ自慢した方がいいと思うよ」 さっきから流れるような日本語でぼくに意見を求めてくるのは、いきつけのサロンの美容師だ。NYで生活するようになって、ギイに紹介されたサロンで髪を切るようになった。 日本じゃいわゆる理髪店で適当に髪を切っていたのだけれど、ギイに勧められるまま、このどこまでもお洒落なサロンに通うことになった。 それはいいのだけれど、ギイのパートナーなのかと尋ねられて、しどろもどろになったぼくに、彼はやれやれというように、男色とは何たるものかを語り出したのだ。 いや、別にぼくは男が好きというわけではなくて、好きになったのがギイだっただけで、そんな大昔からの日本における男色の歴史を語られても困ってしまう。 「タクミはキュートだし、とてもギイと同い年には見えないな」 さらりと髪をかき上げられて、首筋をきゅっと揉まれた。 「こらこら、人の恋人を何誘惑しようとしてんだよ」 先にカットを済ませたギイがいつの間にか背後に立っていた。 「日本人はシャイなんだ。人前で恋人の自慢をしたりしないんだよ」 「何てもったいない。ああ、それにしてもギイが誰かのものになるなんて、想像したこともなかったなぁ」 心底残念そうに言って、はい出来上がりだよ、と彼はぼくの肩を叩いた。 「タクミ、男色は奥深いんだよ、今度時間を作ってくれれば、レクチャーするよ。恥ずかしいことなんて何もない。あれは本当に・・・」 また始まりそうな気配に、ギイが間に割って入る。 「はいはい。いいか、オレに無断で託生に声かけたりするなよ。行くぞ」 わざとらしくぼくの肩に腕を回したギイとともにサロンをあとにする。 「ねぇギイ、あの人ってそういう人なの?えーっと、男色・・・が趣味とか?」 「ゲイじゃないんだけどなぁ、日本文化に造詣が深いというか。まぁちょっと変わったヤツなんだ。カットの腕はいいんだけどな」 「そっか、でもやっぱりギイのこと狙ってたのかな?」 「オレじゃなくて託生だろ。お前、気をつけろよ」 「大丈夫だよ、男色家?じゃないから」 そりゃそうか、とギイは笑って肩をすくめた。 |