プライバシーなんて、祠堂の中ではあってもないようなものだった。 何しろ朝から晩まで同じ敷地内で暮らしているのだ。寮での出来事なんて本当にあっという間に全員が知ることになる。 けれどそこにはある程度の秩序はあった。 どうってことのない出来事は面白おかしく尾ひれがついて飛び回ったが、それ以外のことは知る人ぞ知るといった感じで、密やかに水面下で広まるのだ。 ある意味その方が恐ろしい。 「ギイと葉山の仲は公然の事実って感じだったかな」 章三の言葉に、託生は無言で溜息をついた。 そりゃああれだけ人目を気にせず好きだ好きだと言っていたのだから、最初は冗談だと思っていたとしても、やがては本気なんだろうと思ったに違いない。 「2人がデキてるって確信してたヤツらも、どうせ卒業したら終わりだと思ってただろうけど、でも結局貫いてるんだからな。それはそれですごいって思うんじゃないか?」 「ほほお、章三も大人になったもんだ」 ギイが感心したように大きくうなづく。 泣く子も黙る風紀委員長は筋金入りのストレートだというのに。 章三はふんと鼻を鳴らして、ギイを睨んだ。 「ここまできたらもう諦めた。しかし20年ぶりの同窓会かー、みんなギイと葉山がまだ付き合ってると知ったら驚くだろうなぁ」 「あ、赤池くん、そんなの黙ってればバレないことだから、おかしなこと言わないでくれよ!」 「託生、おかしなことって何だよ。オレとのことはおかしなことなのか?」 「あー。もう、うるさいよ、ギイは!」 「おかしなことではあるが、もう諦めろ。20年だぞ。ある意味貴重だ。奇跡だと言ってもいい。どうせなら堂々と宣言したらどうだ」 「赤池くん、面白がってるだろ」 うんざりとしたように託生が肩を落とす。 こんな風に面白がる人間がいるから、祠堂ではプライバシーなんてあってないようなものだったのである。 |