※今回R18描写あります。 ※ギイ託にエロは不要という人はご遠慮ください。 ギイが昔っから自信満々で、わが道を行く人だということは重々承知だったけれど、あれはあんまりな言い草じゃないかと、あれから2日たった今でも苛立たしい気持ちはおさまらなかった。 確かにギイの言う通り、気持ちいいことには違いない。 だけど、あんな恥ずかしいこと、好きで口にしているわけじゃないのだ。そういうこと言わせてるのはギイのくせして、それなのに、昔の方が良かったみたいな言い方されてはぼくの立場はどうなるんだ。 「ギイのばかっ」 もう何年ギイと一緒にいると思ってるんだろう。 数え切れないほどキスもした。数え切れないほどセックスもした。 今さら何も知らなかった頃になんて戻れるはずもない。 ぼくは不協和音を鳴らしたバイオリンを肩から外してため息をついた。 こういう苛立った気持ちでバイオリンなんて弾くもんじゃない。楽器って弾いている人の気持ちをそのまま表現するから、今の音は本当に耳障りな音でしかないだろう。 今日の練習はここまでにしようと決めて、ぼくは片づけを始めた。 あの日以来、ギイはわざとそうしているかのように、夜は日付が変わってからしか帰ってこない。 いくら仕事が忙しいからといって、深夜にまでなることなんてないはずだから、これは絶対にぼくへの当て付けだ。 いい歳して、そういう子供っぽい怒り方するなよな、とぼくはまた苛立ってしまう。 「馬鹿馬鹿しい」 さっさと謝ってしまえば、ギイのことだから笑って許してくれるに違いない。 いや、ぼくが悪いってことじゃなくて、こういう仲違いをしたままの状況は嫌なだけだ。 たぶんギイだってそう思ってるだろう。 けど、ああ見えて案外と頑固なギイのことだから、自分からは謝ったりはしないはずだ。 周りからは万年バカップルだなんて揶揄され、喧嘩なんてしたことないだろうなんて笑われることも多いんだけど、実際には小さな喧嘩なんてしょっちゅうしている。 傍から見たら喧嘩には見えないかもしれないけれど、ぼくにしてみれば立派な喧嘩で、だけど仲直りも早いから引きずることなんてない。 だから今回だってどうせ仲直りするってことは分かってるんだけど。 だけど、じゃあどっちから先に謝る? (・・・・もう寝てしまおう) どうせ今日もギイは遅いに違いない。 バイオリンの練習に使っている防音室の扉を開けると、そこに人影があって、心臓が止まるほど驚いた。 もちろん立っていたのはギイである。 ちょうど帰ってきたところのようで、まだスーツ姿のままだった。 お互いまさか顔を合わせるとは思っていなかったので、びっくりした顔のまま立ち尽くす。 「・・・おかえり」 「・・・ただいま」 挨拶は基本だから、喧嘩をした時でもちゃんとする。 ギイはふいっとぼくから視線を外してそのままリビングへと向かった。仕方がないのでぼくもそのあとをついていく形で廊下を歩いた。 ギイは無言のままキッチンに入ると、冷蔵庫からミネラルウォータを取り出し、キャップを開けてそのまま口をつけた。 ご飯食べたのかな、とちょっと気になったけど、どうやら少しアルコールが入っているようだから、仕事の付き合いで済ませてきたんだろう。 だとしたら、もうぼくがしてあげられることはない。 散らかっていた雑誌を形ばかり整えて、ぼくはそのままリビングを出た。 ひんやりとした寝室はやけに広く感じられて、ぼくは寂しさを忘れるためにさっさとベッドに潜り込んだ。 NYでギイと暮らすようになってから、当然ベッドは一つしかなくて、普段はぜんぜん問題はないんだけど、こうして喧嘩した時はちょっと気まずい。 ベッドサイドの灯りだけを薄く灯して目を閉じていると、しばらく後にそっと扉が開いてギイが入ってきた。 ぼくが眠っていると思っているのか、音をさせないように気をつけてくれているのがわかって胸がちくりと痛んだ。 こんな風に喧嘩していても、ギイはやっぱり優しくて、それが余計に辛く感じてしまう。 つまらないことで喧嘩しちゃったなという自覚はあるけど、けどまだぼくの怒りだって収まってはいないのだ。 ギイは灯りを消すと、ベッドの中に入ってきた。 いつもなら抱き枕よろしくぼくの身体を抱き寄せて眠るのだけれど、さすがにここ数日はそれもない。 体温が感じられないくらいの僅かな隙間を空けて、ギイが小さく息をついたのが聞こえた。 ぼくはそんな彼に背を向けたまま、何とか眠ろうときつく目を閉じた。 次の朝目覚めるともうギイは出かけたあとだった。 こんなことじゃあ一生仲直りできないじゃないか、と勝手な言い分だとは思いながらも、胸の中でつぶやいた。 ふとテーブルの上を見ると、そこにはメモが一枚載っていて 「今日は遅くなる」 と書いてあった。今日は、じゃなくても今日もだろ、とぼくはメモを手にとってひらひらを振った。 やっぱりこんなことじゃだめだ。 そりゃあギイは忙しい人だから、こんな風にすれ違うことだってしょっちゅうだけど、だけど、それでほっとするようなのは嫌だ。 今夜、ギイが帰ってきたらちゃんと話をしようと思った。 その日はぼくも仕事が入っていたから、夜までペントハウスに戻ることはできなかった。 戻ってみるとやっぱりまだギイは帰っていなくて、まぁそれは想定内のことだったから、さして落胆することもなく、ぼくは遅い夕食を一人でとって、先にシャワーを済ませた。 広いリビングで一人で見るともなくテレビを眺めて、ギイが帰ってくるのを待った。 日付が変わってもギイは戻ることなく、ぼくは仕方なくまた一人でベッドに横になった。 時計の音だけがやけに耳について眠れなかった。 どうしても今夜話をすると決めているのは、意地になっているだけだと分かっていたけれど、これ以上こんな状況を続ける気にはなれなかった。 (絶対にギイをつかまえてやる) そしてちゃんとお互いの気持ちを伝えて、話をして、仲直りをしなくちゃならない。 そんな風に思っていたのに、いつの間にかぼくは睡魔に負けてうとうとと眠りの淵に落ちていってしまった。 眠っていたのはそんなに長い時間ではなかった。 ぎしっとベッドが揺れた気がして目が覚めた。 寝返りを打つと、ちょうどギイがベッドに入ろうとしていたところだった。 「・・・ギイ?」 「ああ、ただいま」 「おかえり・・・」 ぼくが起き上がろうとすると、ギイは寝ろよと一言言った。 おやすみのキスもせずに、ぼくに背を向けて横になるギイがどうにも我慢できなくて、ぼくは腕を延ばしてベッドサイドの灯りを点けた。 「何だよ」 「ギイ、いい加減ちゃんと話しようよ」 「最初に喧嘩吹っかけてきたのは託生だろ」 「吹っかけてなんかない」 ギイは起き上がると、がしがしと髪をかき乱した。 「話、な・・・で、何を話せばいいんだよ」 「何って・・・」 「言っておくが、オレは悪くないぞ」 「じゃあぼくが悪いって言うの?」 ギイは黙ってぼくを見た。 ここのところずっと帰りが遅かったから疲れてるだろうな、それなのにこんな話し合い持ちかけて悪かったかなぁとぼんやり思った。 ギイはしばらくじっとぼくを見ていたけれど、やがて、いや、と首を振った。 「別に託生は悪くない。自分の意見を主張しただけだからな。ああいうのは何が正しいかなんて答えはないんだし。ちゃんと話し合おうとしなかったのはオレも悪かった」 ようやくいつものギイらしい言葉が聞けて、思わずほっと肩の力が抜けた。 「ぼくもいきなりもうしないなんて言って話を切り上げちゃってごめん」 ギイはぼくと向かい合って胡坐をかいた。 「で、託生は何をそんなに怒ってたんだよ」 「だって、ギイが昔のぼくの方がよかったなんて言うから・・・」 怒ったというよりは、傷ついたという方が正しいかもしれない。 自分がだんだんと変わってきているのは分かっている。 だけど、ぼくのことをこんな風に変えてしまったのはギイなのに、昔の方がよかったなんて言われて、やるせない気持ちになったのだ。 「なぁ、どうも誤解されてるみたいだから言うけどさ、オレは別に昔の託生が良かったなんて思っちゃいないんだぜ」 「・・・でも」 「昔の託生がよかったんじゃなくて、昔の託生も良かったってこと」 「・・・・」 何となくいつものギイの言葉のイリュージョンに騙されてるような気がしないでもないけど、それならまだちょっと救われるような気もした。 「託生も言ったよな、オレたちもう付き合い始めてずいぶんになるし、何度もセックスしたって」 「・・・うん」 思わずうつむくと、ギイはじりっとぼくへと近づいた。 「だけど託生は何も変わってないって思ってるよ」 「・・・」 「相変わらずオレに抱かれる時はどこか気恥ずかしそうにしてるし、いつまでたっても慣れない様子で、そういうのってたぶんこれからも変わらないんだろうなって思ってる」 「でも・・・」 「うん、でもちょっとづつ変わってる部分もあるよな。ちゃんと気持ちいいことがどういうことかも分かってるし、何をされれば感じるかも知ってる。好きな体位とかやり方とか・・」 「ギイっ!」 あまりにもあからさまな言葉に、ぼくは思わずもういいよ、と遮った。けれどギイは真面目な顔をしてぼくの手を取った。 「オレが知ってるだけじゃなくて、託生も知ってるだろ?オレの好きなこと」 「・・・・・」 「別におかしなことじゃない。だってオレとしてることなんだから」 「・・・っ」 顔を上げると、ギイが優しく微笑んだ。 「託生のことを一番愛してるオレとしてることだから、気持ちよくなって当然。オレのこと、欲しいって思うのも普通のことだし、求められるままにやらしいこと口にしたって、ぜんぜんおかしなことじゃない。オレはそういう託生も好きだし、むしろ嬉しいし・・・それに・・・」 ギイは膝立ちになると、ぼくの耳元に唇を寄せた。 「それに、託生の口からやらしい言葉を聞くと、すっごく興奮する」 ぞくりとするような甘い声で囁かれ、ぼくは馬鹿と言ってギイの胸元を叩いた。 「昔みたいにいつまでたっても恥ずかしがる託生も、小悪魔ちっくにやらしいこと口にする託生も、オレはどっちも好きなんだよ」 ギイがさらりとぼくの髪を撫でる。 うん、とうなづいてぼくはギイの胸に頬を寄せた。久しぶりに感じるギイの体温と大好きな花の香り。 ああ、やっぱりほっとする。 まともに顔も見れなかったこの数日間、こんな風にギイに触れることができなくて、やっぱりすごく寂しかったのだと今さらながらに気がついた。 ぼくはギイと同じように膝立ちになると、彼の頬を両手で包み込んでキスをした。 (どうしよう) きっとギイはすごく疲れてるに違いない。 毎日深夜に帰ってきて、朝は早くに出かけていて。 今だって、もうこんな時間で、早く眠ってしまいたいに違いないって、そう思うのに・・・ 「ギイ・・・」 「うん?」 「・・・しよっか?」 小さく言うと、ギイは「いいよ」と笑った。 ぼくはその言葉に誘われるように、もう一度ギイに口づけた。 何度も何度も角度を変えては、より深く唇を重ねていく。 差し込まれた舌先に自分の舌を絡めて、その甘さを味わう。 ちゅっと音をさせて唇を離すと、ギイはふっと肩の力を抜いて、ぼくの首筋に顔を埋めた。 「託生の匂いがする」 いい匂い、とうっとりとつぶやくギイに、ぼくは困惑する。 「ギイみたいにコロンなんてつけてないから、いい匂いなんてしないよ」 「うん、そんな人工的な匂いじゃなくて、託生自身の匂い」 くん、と鼻を鳴らしてギイがぼくの腰を引き寄せる。 「オレ、セックスしたあとの託生の匂いも好きなんだけどな。オレとお前の匂いが混ざっててさ、ああ、こういうとこでも交わることができるんだなぁって、ちょっと感動したりする」 「ギイ、それちょっと変態っぽい」 思わず笑うと、ギイはいたく真面目な顔でぼくを見た。 「でも託生、セックスって五感をフルに使った方がより快感を得ることができるものだぜ?」 「五感?」 「そ。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚」 「あー、うーん」 そうなのかな。少し考えていると、ギイはくすっと笑った。 「だからさ、耳から聞こえる相手の声とか言葉とかって重要ってこと」 「・・・それ、結局ぼくにやらしいこと言わせたいってことかい?」 「オレが言ってもいいけど?」 言うのと言われるのとどっちがいい?と試すようにぼくに尋ねる。 どっちでも気持ちよくなれるはずだけど、とギイが低く笑う。 どっちも恥ずかしいような気がするんだけど、とぼくも笑う。 だけど、しようって誘ったのはぼくの方だ。 ギイのことがすごく欲しいと思った。 ギイに触れられなくて寂しかった。 ギイとキスできなくて寂しかった。 だから誘った。 それなのに、嫌だ嫌だと口にするのはずるいのかもしれない。 「ギイが好きだよ」 「・・・・」 「喧嘩して、腹立つなーなんて思っても、でもやっぱりギイのことを嫌いになんてなれないし、何だかいろいろ誤魔化されてるような気がしないでもないけど・・・」 「誤魔化してなんかないって」 ギイが苦笑してぼくの頬にキスをする。 「うん。でもまぁそれでもいいんだ」 「・・・託生」 「ギイと、こんな風に・・・」 ぼくはちゅっとギイの唇にキスをする。 「・・・こんな風にキスできないのは嫌だ」 「・・・」 「触れることができないのは嫌だ。キスの先も・・・できないのは、やだ」 ギイはよく出来ましたとでも言わんばかりに目を細め、ぼくの頬に手を添えて深く口づけた。 「ギイ・・・」 唇が離れると、ぼくはそっとギイの肩を押してベッドに横になった。 体重をかけないようにギイの身体を跨いで、彼のシャツの胸元を寛げた。 身を屈めて喉元から胸へと口づけを繰り返してみる。 ふわりと立ち上るギイの匂いに、くらりと眩暈がしそうになった。 シャツの裾から手を忍び込ませてギイの肌に触れてみる。 さらりとしてずっと触れていたいような心地よい肌触りにため息が洩れる。 シャツのボタンを全部外して、ぼくはギイの無駄な脂肪など少しもついていない綺麗な身体を眺めた。 「綺麗・・・」 確かに視覚というのは大切なのかもしれない。 ギイは容姿はもちろんだけれど、身体のどこもがとても綺麗で、男相手に綺麗だなんて言葉を使うのはおかしいって思うんだけど、何度目にしても、その都度ぼくはその美しさに見惚れてしまうのだ。 ぼくはむき出しになった肌に吸い寄せられるように何度も口付けを落として、這わせた唇を徐々に下へと移動させた。 パジャマの下衣に手をかけると、ギイは片肘をついて上半身を起こした。 「見てていい?」 ギイはこれからぼくがしようとしていることを見ていたいと言う。 いつもなら恥ずかしくて嫌だって言うところだけれど、ぼくは無言のままギイの屹立に手を添えた。 舌先で先端を舐めてみると、ギイはほんのちょっと腰を引いた。 手の中で熱く形を変えていくものを、するりと咥内へと含んでみる。 苦味のある知った味がじわりと口の中に広がり、溢れそうになる唾液を何度か飲み込んだ。 「託生・・・」 伸ばされた指先がぼくの頬に触れる。 続けて、と促されて、ぼくは唇と舌でギイを愛撫した。 その形も味も、もう何度も味わっているもので、どんな風にすればギイが気持ちよくなれるかも知っている。 含みきれない部分を指で擦り上げて、ギイが気持ちよくなれるように口を上下させた。 しばらく続けていると、ふぅっとギイがため息をついた。 「気持ちいい・・・」 頭上から聞こえるギイの声色で、その言葉が嘘じゃないことが分かる。 上手くできてる自信なんてないけど、ギイがもっと気持ちよくなれるように、ぼくは夢中で舌を絡めた。 「んっ・・・」 口の中でどんどん硬度を増す昂ぶりに苦しくなってくる。ちゅくっと音をさせて先端を舐め上げると、ギイは低く唸ってぼくの口から自身を引き抜こうとした。 「託生、離せっ・・」 やだ、というように首を振ると、ギイは何かを堪えるように大きく息を吐き出した。 溢れ出した先走りを啜って、きゅっと吸い上げる。 今までギイは口での愛撫で最後までイったことはない。 ぼくのことを気遣ってだとは思うけど、逆は何度かあるのだから、ギイばかりはずるいと思う。 少し強めに唇で擦ると、びくびくと咥内の熱が震えた。 「だめ、だ・・っ・・出る・・・」 「んっ・・・ぅ・・」 どくりと脈打った屹立は最後の最後で半ば無理矢理口から離された。 けれど一瞬遅く、温かい飛沫がぼくの唇を濡らした。 「馬鹿っ、離せって言ったのに」 慌てるギイを見るなんてこと、本当に滅多にないことで、どうしてそんなに慌てるのか、ぼくの方が驚いてしまう。 口の中に残るギイの味を飲み込んで、身体を起こした。 顎を伝うとろりとした白濁を指先で拭うと、ギイはぼくを引き寄せて、強引に口づけてきた。 咥内に残るものを舐め取るようにして舌を動かす。 「んっ・・・ぅ」 「・・・吐き出せばよかったのに」 唇が離れるとギイはどこか気まずそうに言った。 「どうして?ギイだって、ぼくの、飲んだことあるのに」 「オレはいいんだよ」 「じゃぼくだっていいよ」 「お前、おかしなところで強気だな」 くすくすと笑ってギイはぼくの身体を組み敷く。 しっとりと口づけられて、気持ちよさに目を閉じた。 お互いに身につけているシャツを脱がせあって、素肌を合わせる。ギイの指が脇腹から腰のあたりを 何度も撫でて、下衣も下着もすべて剥ぎ取ってしまう。 ぼくも同じようにギイの滑らかな背中に手を這わせた。 「託生のせいだからな」 「え」 「このあと長いぞ、覚悟しとけよ」 どれだけ我慢しようとしても声が零れるのを堪えることができない。 背中から横抱きに抱きしめられて、ギイの指が胸の尖りを何度も擽る。その度に腰の辺りに言いようのない痺れが走った。 「う・・・っん・・・やだ・・・」 ちゅっと音を立ててギイが首筋にキスをする。 ぬるりと舐め上げるように耳元へ。肩先へと戻ってまたきつく吸い上げられる。 背を反らすとできる僅かな隙間さえ許さないというように、ギイの片手がぼくの腹部を強引に引き戻した。 「託生・・・濡れてきた」 「・・・っ」 身体を引き寄せた片手がまたぼくの先端を捉える。さっきからずっと中途半端に嬲られて、じんじんとした熱ばかりが燻って、けれど放ってしまうこともできず、ぼくは何度も身を震わせてはギイの指の動きに翻弄されていた。 ちゅくちゅくと耳に聞こえるいやらしい音が耐えられなくて首を振ると、ギイが耳元でくすりと笑った。 「託生の、めちゃくちゃ硬くなってる」 「や・・だっ・・」 「ここ・・こうされるの好きだろ?」 「・・・っ」 ぐるりと先端を撫でられて、ぼくはぐずぐずとした快楽に泣きそうになる。 ぼくの身体でギイが触れてないところなんてどこもなくて。 どこをどんな風に触れば気持ちよくなるかもすべてお見通しだ。 「なぁ、さっき託生がしてくれたみたいに、オレも託生の舐めてもいい?」 「・・・やっ・・・駄目・・・っ」 「どうして?手でするよりもずっと気持ちよくなれるのに?」 根元から先端へとゆっくりと擦り上げられる。 何度も何度も。 もういっそイってしまいたいと思うのに、ギイは決定的な刺激は与えてくれず、じれったく弄ぶばかりだ。 「ギイ・・・っ」 「舐めてって言って?」 「・・・っ・・何で・・・っ」 思わず涙声になって身を捩る。 勃ち上がった形をなぞるように指で撫でられた。 表面を掠めるほどの微妙な触れ方が絶妙で、ぼくは思わず声を上げた。 「託生のしたいようにしてやるから。なぁ、恥ずかしいことなんて何もないだろ?オレとお前しかいないんだから。うんとやらしいこと言ってみて、託生。言っただろ、その方が興奮するって」 ぎゅっと緩く握られて、ぼくはギイの手首を掴んだ。 絶対にこれはこの前の仕返しに違いないと、肩越しにギイを睨む。 「・・・ギイのばかっ・・・」 「ばかでけっこう。託生が言うまでイかせないからな」 ギイはくるんとぼくの身体をひっくり返すと、食らいつくようにしてぼくの喉元に噛み付いた。 猫の甘噛みみたいに肌を舐め、両の二の腕を押し上げて胸元の尖りに吸い付いた。 「あっ・・・」 「ここも好きだろ」 わざと音をさせてしゃぶるようにして舌を這わせる。それだけでもうどうにかなってしまいそうなほど感じてしまって自然と腰が揺らめいてしまう。 「やぁ・・・だっ・・・ふぅ・・・ん」 どれだけ嫌だと言ってもギイはやめてくれなくて、余計にきつく吸い上げられる。 言葉にして、そうして欲しいことを素直に言えばいいだけだと自分に言い聞かせる。 どんなことを言ったって、おかしなことじゃなくて・・・。 (だって、ギイとしてることだから) そう思ったら、ふいに泣きたくなるほどの愛しさが込み上げた。 「ギイ・・・っ」 「なに?」 尖りを引っかくようにして舌先が蠢く。ぼくは大きく胸を喘がせて、乾いた唇を舐めた。 「お願い・・・っ、ギイ・・・」 「・・・」 「ぼくの・・・して・・」 ギイがゆっくりと顔を上げる。ゆるゆると瞼を開けると、ギイと目が合った。 ぼくは許しを請うようにギイの唇を指で撫でた。 「・・・ギイに、して欲しい・・・」 「どんな風に?」 どんな風にって、何を言えばいいのか分からなくてぼくはうろうろと視線を彷徨わせた。 こういう時、ギイはとことん意地悪くなる。 ぼくが恥ずかしくて言えないことを知っててそういうことを言うのだから性質が悪い。 だけど、追い詰められて、ぼくの中にある一線を越えてしまうと、もうどうでもよくなってしまうのだ。 相手がギイならいい、ってそう思えてしまう。 ぼくはごくりと喉を鳴らして口を開いた。 「ギイ・・・いっぱい・・・気持ちよくして」 言ってしまうとやっぱり恥ずかしくて、両腕で顔を覆った。ギイが身体をずらしてぼくの脚を押し上げる。熱い息がかかって、張り詰めた屹立を舌先で舐められた。 「う・・・ぁ・・」 二度、三度と根元から先端へと舌を這わせたあと、さらに奥に濡れた感触を感じて、ぎくりとした。 いつもギイを受け入れる場所をねっとりと舐められて思わずギイの髪を掴んだ。 「ギイっ、やだっ・・・そこは嫌だっ・・」 「気持ちよくしてって言ったくせに」 「ちがっ・・・んっ、あぁ・・やめ・・って」 湿った音を立ててギイがそこを濡らしていく。ぞくりと背筋を駆け上がる快感にぼくはきつく首を振った。 「やだやだっ。お願い・・ギイ・・っ」 そうされるのが初めてだというわけでないけれど、どうしても羞恥心が勝ってしまって素直に身を任せることができない。 ギイは身体を起こすと、ぼくの顔を覗きこんだ。 見つめられて、ゆっくりと瞬きすると、我慢していた涙が眦から流れ落ちた。すんっと鼻を鳴らすと、ギイは困ったようにぼくの閉じた瞼にキスをした。 「泣くほどのことじゃないだろ?しょうがないヤツ」 だって、と口ごもると、ギイはわかったよと苦笑した。じゃあ代わりにキスしてとねだられ、うんとうなづいて、ぼくはギイの首筋に手を回した。 深く口づけて、その心地よさに互いに夢中になる。 ギイは手を伸ばして 「これならいいだろ?」 と、枕元からいつも使ってるジェルを取り出した。慣れた手つきで中身を指に取って、奥へと手を差し入れる。 「んっ・・・」 ぬるりとした冷たい感触に身をすくめる。 「息吐いて・・ほら、いつもみたいに力抜いて?」 「ふ・・・ぅ・・」 深呼吸をするように息を吐き出すと、ギイの指が中へと入り込む。 ゆっくりと奥へと奥へと押し込まれて、圧迫感に息が詰まった。 「やっ・・・っ、あっ・・・」 「ああ、きついな・・」 ぐるりと中を広げるように指を動かされた。長い指が抜き差しするたび、ちゅくちゅくと水音が響いて、その度に無意識のうちに声を上げていた。 ギイは緩急をつけて注挿を繰り返す。荒い息がぼくの耳元を掠め、時折耳朶を甘く噛まれて、気持ちよさにまた声が出る。 「託生・・・中、柔らかくなってきた・・・」 「・・・っ・・ふぅ・・・ぁ」 「何本入ってるか分かるか?」 「・・・んんっ・・・」 中でとろとろと溶け出したジェルがギイの指を伝ってシーツへと流れていく。 感じる場所を突かれるたび、きゅっとギイの指を締め付けてしまうのが自分でもわかって、恥ずかしくてならなかった。 指が抜かれると、また冷たいジェルと共に最奥を犯される。 ギイは決して焦ることなく、ぼくがギイを受け入れられるようになるまでそれを何度も繰り返した。 下半身の感覚はもうなくて、ただギイの指が蠢くたびに背筋を言いようのない快楽が走り抜ける。 これ以上されたら、きっとおかしくなる。 ぼくはギイの肩に額を押し当てた。 「ギイ・・・もっと・・」 「もっと?」 「指じゃやだ・・・もっと奥に・・ギイが欲しい・・・」 もう何も考えられなくて、素直にギイが欲しいと口にした。 ギイが指を引き抜くと圧迫感がなくなって楽になったはずなのに、どこか物足りなさも感じてしまい、ぼくはきっと物欲しげな表情をしていたと思う。 ギイはぼくに小さくキスをすると、腕を伸ばして避妊具を取り出した。 ぼくは短い躊躇のあと、ギイの手から包みを奪った。 「いらない・・・」 「うん?」 「これ・・・いらないから・・・」 「・・・・」 ぼくはギイの腰から背中に手を這わせて引き寄せた。 「そのままでいい・・・ギイのしるし・・ぼくの中に残してよ・・・」 言ったとたん、ギイは乱暴な仕草でぼくの脚を抱え上げ、焦らすことなく一息に硬い屹立を突き入れた。 「は・・・!・ぁ・・ああ・・っ」 あまりに突然だったのでついていけず、ぼくは思わず身を反らして上へとずり上がろうと肘をついた。 すぐさま強い力でギイに引き戻されて、さらに奥深くを揺さぶられる。 「あっ・・や・・・っ・・ギイっ・・・」 「ふ・・・っ・・」 興奮した息を吐いて、ギイが腰を打ち付けてくる。 さんざん指で慣らされたおかげで、何の痛みもなく最奥まで熱が届く。 激しい律動にベッドが軋んだ音を立てた。 焼けつくような刺激に何も考えられなくなる。頭の中がぼぅっと白くなっていくような気がして、ぼくは怖くなって縺れる舌でもうやめて、と声を上げた。 蕩けた内部を掻き混ぜるようにしてギイが腰を回して、大きく胸を喘がせたあと動きを止めた。 「は・・ぁ・・」 抱えられた脚が中途半端に煽られた快感で震える。 ギイはふぅと細く息を吐くと、ぼくの両膝に手をかけて左右に押し広げ、一度奥まで差し入れた自身をぎりぎりまで引き抜いた。そしてまたゆっくりと奥へと埋め込んでいく。 それまでとは打って変わった緩やかなリズムを何度か繰り返しているうちに、とろりと中から溢れてきたジェルが腿を伝ってシーツを濡らした。 その何ともいえない感覚に、ぼくはギイの腕を掴んだ。 「ギイ・・・っ・・」 「何?」 浅い場所を小刻みに擦り、ギイはどこかうっとりとした表情でぼくを見つめる。 ぐっと、またギイが屹立を奥へと埋め込んできて、ぼくは自分でも分かるくらい感じ入った声を上げた。 「すごい託生・・・中、ぐちゃぐちゃになってる・・・」 「・・・っ」 「そのくせオレが入るとさ、ぎゅって締め付けて・・・ああ、気持ちよすぎてイっちまいそうだ」 ギイの指先がぼくのものに触れ、先端から溢れた蜜を掬うようにして撫でる。それだけで簡単に煽られて、ぼくもこのまますべてを吐き出してしまいそうになる。 「動いて欲しい?託生」 聞かれて、ぼくは逆らう気力もなくて、こくこくとうなづいた。 「じゃあ教えて、託生」 「・・・んっ・・・はぁ・・・」 「オレの、託生の中でどうなってるか、教えて?」 ギイが甘くぼくに強請る。 その言葉に、身体の中で脈打つギイの存在感を意識してしまって、ぼくはまたギイを締め付けてしまう。 「くっ・・・託生、ちょっと緩めて」 「む、りだよ・・・だって・・っ、あ、ギイ・・・っ」 ゆっくりとギイが奥まで突き入れてくる。もう無理だと思う場所まで入れてしまうと、ギイはぼくの首筋に顔を埋め、耳元で低く囁いた。 「どんな感じ?オレの、託生の中でどうなってる?」 相変わらずぼくにそういうことを言わせようとするギイの背中をばしんと叩いた。 「いてっ」 「も・・う・・ギイのばかっ、何でそんなことばっかりっ!」 それでなくてもギイを飲み込んだ部分はじんじんと熱を持っていて、こんな状態でいったい何を言えというのだ。 「だって、託生の口から聞きたいから。うんとやらしいこと言ってみて?」 耳朶を舐められて、ほら、と促される。もう諦めて、ぼくは大きく深呼吸をした。 「・・・っ・・ギイの・・・カタくて・・・いっぱい・・奥まで入ってて・・・」 ぼくが口にすると、中のギイがどくりと形を変えた。 びくびくと脈打つギイの熱さに、そこからじわりと快楽が広がっていく。 「・・すごく・・熱くて・・・気持ちよくて・・溶けそう・・・」 「オレも、溶けそう」 ギイが上体を起こして、ぼくを見下ろす。 「託生の中、とろとろで熱くて、めちゃくちゃ気持ちいい」 「・・・っ」 「ずっとこうしてたいくらい、気持ちいい」 嫣然と微笑み、ギイが再び突き上げを始めると、あとはもうお互いに無言のまま与え合う快感に夢中になった。 余裕なくギイが最奥を抉る。迸る蜜が下肢を濡らしていく。ギイと2人で溺れるように身体を繋げる。 どこに果てがあるか分からないほどの欲望にただ忠実に従って、ぼくたちはきつく指を絡めてあって、一緒にその瞬間を待った。 「ああっ・・もぅ・・・イく・・・っ」 「名前・・・呼んで・・託生っ・・・」 ギイに乞われて、ぼくは掠れた声でギイを呼ぶ。 「ギイ・・・っ・・ぁあ・・。義一・・・っ」 好き、と熱に浮かされたように紡ぐと、ギイはくっと小さく呻いて背筋を硬直させ、ぼくの中に解き放った。 「ふ・・・っ・・あぁ・・」 しとどに内側が濡れていく感覚に、ぼくも同じように昇り詰めた。 ぶるりと胴を震わせてすべてを注ぎ込むと、ギイはそのままぼくの上に覆いかぶさった。 身体を満たしていく充足感にふっと意識が遠のいていくような気がした。 けれど、次の瞬間には、自身を引き抜いたギイに身体をうつ伏せにされて、腰を引き上げられた。 「ちょ・・っと・・待って・・ギイっ・・」 まさかまだするの?とぼくはたった今味わったばかりの絶頂感も吹き飛ぶほどに驚いて、ギイを振り返った。 「もちろん。する」 「・・・っ、もうやだっ、って・・・」 ギイが起き上がろうとするぼくの汗ばんだ肩を押して、背中に口付けを落とした。 ひたりと押し当てられて息を呑む。 「ギイのばかっ」 言い捨てて、だけど結局ギイを受け入れるしか他になくて、ぼくは諦めて柔らかな枕に顔を埋めた。 眩しい朝の光に瞼の裏までちかちかしていた。 いや、このちかちかは、昨夜さんざんギイに抱かれたせいに他ならない。 ぼくはだるい身体を起こすと、隣にギイの姿がないことに軽く頭を振った。 ふらふらと寝室を抜け出してギイを探す。まだ早い時間だから仕事に行ったってことはないだろう。 「ギイ?」 キッチンを覗くと、そこには下着にシャツ一枚の姿でギイが立っていた。 ぼくを振り返って、静かに微笑む。 「おはよう、託生」 「おはよ」 ぼくはぼんやりとギイを眺めた。 真っ白い光に満ちたキッチンに立つギイはやっぱりすごく綺麗で、眩しい光のせいではなくて、ぼくは目がちかちかとしてきたような気がして、ぎゅっと一度目を閉じた。 「コーヒー飲むか?」 「うん、ありがと」 ギイは慣れた手つきでコーヒーメーカーから出来立てのコーヒーを淹れてくれた。 あたりに充満したコーヒーのいい香りに、ぼくは空腹感を感じた。 「身体、大丈夫か?」 「・・・喉痛い」 「すみません」 苦笑したギイの長い腕が、ふわりとぼくを包み込む。 「気遣ってくれるなら、ああいうことする前にしてほしいよ」 恨みがましくギイを睨むと、ギイはごめんと笑ってぼくの頬にキスをした。 「だけど、仲直りエッチってすごく刺激的だった」 「・・・ギイ」 朝っぱらからおかしなこと言うな、とぼくはギイの素足を踏んづける。 けれど懲りないギイは、なおもぼくの身体を抱き寄せて、甘えてくる。 「託生は?」 「なに?」 「オレに好き勝手されても平気だった?」 今回の喧嘩の原因ともなった言葉に、ぼくは思わず笑ってしまった。 「ほんと、ギイはいつでもぼくのこと好き勝手に抱いてくれるよね」 「確かに昨夜はちょっとやりすぎたって反省してる」 殊勝な台詞にやれやれとぼくは肩をすくめる。 「いいよ、ぼくだって本気で嫌な時はちゃんとそう言うし・・・」 ぼくは両手を伸ばしてギイの首筋に回すと、そっと引き寄せた。 「好き勝手だなんて、ほんとはそんな風に思ってないよ。だって、ギイ・・・」 そのあと、ぼくがギイの耳元で告げた言葉に、ギイは少し驚いたように目を見開いて、だけど嬉しそうに笑った。 「すっごい殺し文句だな。託生、もう一回ベッドに戻る?」 「やだよ。朝はやっぱり清く正しく一日の始まりの準備をしなくちゃ」 くすくすと笑ってキスを交わす。 甘くて蕩けそうな口づけが一日の始まり。 毎日がそうだったらいいのに。 だってギイ。 Only you can take me to the Heaven. |