週末の夜、遅い夕食が終わった頃、章三くんに電話がかかってきた。
「嫌な予感がする」 「?」 章三くんは電話に出ると、すぐにちらっと私を見て、ごめんというように片手を上げた。 そしてそのまま何やら怖い顔をしてソファに座り込んだ。 漏れ聞こえてくる会話からして、どうやら相手はアメリカにいる崎さんのようで、 ということは、たぶん葉山さんと何かあって、章三くんを頼ってきたということかなと 当たりをつけた。 相変わらず仲いいなぁ、なんて言えば、きっと章三くんは呆れるんだろうけど、実際 3人はすごく仲がいいと思う。 夕食のあと片づけが終わる頃、ようやく電話を終えた章三くんが大きくため息をついた。 「崎さん?」 「ああ、まったく、いい加減にしろっていうんだ。ぼくはあいつらのカウンセラーじゃないんだぞ」 「ふふ、章三くんしかいないんでしょ。何でも話せる相手って」 崎さんにしても、葉山さんにしても、何かあると章三くんに電話をしてくる。 そのたびに章三くんはぶつぶつ文句を言って、でも突き放したりしないでちゃんと相手をしている。 やっぱり仲がいいな、と羨ましくなる。 「新婚旅行、NYにしろよって言われた」 「いいんじゃない?私も行ったことないし」 崎さんと葉山さんにいろいろ案内してもらえそうだし、と言うと、章三くんは何だか複雑そうな表情をした。 「奈美の行きたいとこでいいんだぞ?」 結婚式にしても新居にしても、章三くんは私の意見をすごく尊重してくれる。 せっかくの新婚旅行だから2人きりの方がいいんじゃないか、って、きっと考えてくれている。 だけど、私は崎さんたちといる時の章三くんを見るのが好きなのだ。 そんなことを言えば、きっと章三くんはすごーく嫌な顔をしそうだから言わないけれど。 「楽しみね。久しぶりに4人でデートできる」 「やっぱり考え直す」 章三くんはきっぱり言うと、テーブルの片隅に詰まれた旅行のパンフレットを手にした。 私はそんな章三くんをどう説得しようかな、とあれこれ考えることにした。 |