「託生、気分どうだ?」
利久の心配そうな表情に、託生はうん、とうなづいた。 「もう平気だよ。ありがとう」 夕食も食べずに横になっていたおかげで、気分はもうずいぶんとよくなっていた。 保健室で目覚めると、ギイはもういなくて代わりに校医の中山先生がいた。 午後の授業は出なくていいから少し眠っていくようにと言われ、ありがたくそうさせてもらった。 授業がすべて終わると、利久が迎えにきてくれて、一緒に寮へと戻った。 部活を休もうかとまで言ってくれる利久に 「一人で寝てるから大丈夫」 と言って、託生はベッドに横になった。 ぎりぎりまで迷っていた利久だったが、託生に早く部活に行くようにと言われて、渋々ながら部屋を出て行った。 「託生、これ、差し入れ」 「え?」 利久が差し出したのは、タッパーに詰められた今日の夕食だ。 「どうしたの、これ?」 「ギイからの差し入れ」 「え?」 「ギイ、託生のこと心配してたぞー。何も食べないのは身体によくないからって、食堂のおばちゃんに頼んで作ってもらったみたいだぜ」 「でも・・・」 食堂での食事は衛生上、基本的にはそこでしか食べられないはずで、こんな風にタッパーに入れてもらえるはずがないのに。 「何か、たまたま食堂に一番乗りして誰もいなかったから、内緒でっておばちゃんに交渉したみたいだな。ギイ、食堂のおばちゃんたちにも人気あるからな」 さすがギイだよなー、と利久は感心しきりだ。 託生は渡されたタッパーを開けてみた。 中には消化の良さそうなものばかりが彩りよく詰められていた。託生の嫌いなものは何一つ入っていない。 たぶん、夕食のおかず以外にも、無理を言って詰めてもらったのだろう。 それくらいは託生にも分かる。 「俺、お茶淹れてくるな」 「うん、・・・ありがとう」 明日、教室でギイに会ったら、こんな風に素直にありがとうと言えるだろうか。 いや、ギイの顔を見たら、きっとまた何も言えなくなってしまうに違いない。 だけど、何も言わなくても、ギイはきっと嫌な顔はしないだろう。 いつか、ちゃんとありがとうって言える日が来るのだろうか。 そんな日が来るとはとても思えなかったけれど、1年後にはそんな託生の考えは綺麗に払拭される。 それはまだ少し先の話。 |