※このお話はシブで開催された「尚人祭り2015」の参加話です。 以前にも、もしも尚人が生きていたらでお話を書きましたが、今回さらにイレギュラーなお話です。 エロありですので、尚託が苦手な人は回れ右。心の広い方のみどうぞ。 夏休みになって、託生は祠堂から帰省した。 「おかえり、託生」 「兄さん、ただいま。外すごく暑いよ」 少し会わない間に、託生はそれまでの子供っぽい顔立ちから少し大人びた顔立ちに変わり、ほんの少し背も伸びたように思えた。 けれど、尚人に向ける笑顔は昔のままで、相変わらず何の屈託もなく可愛らしいものだった。 シャツの裾をぱたぱたさせながら、託生はリビングのソファに座った。 エアコンの温度を少し下げて、尚人が託生の隣に座る。 「GWぶりだな、ほら、よく顔見せて。元気にしてたかい」 柔らかな頬に手を置いて自分の方へと向けると、託生はきゅっと唇を尖らせた。 「3ヶ月くらいじゃ何も変わらないよ。すぐ子供扱いするんだから」 「いろいろ心配してるんだよ。おかしなヤツにおかしなことされてないかって」 「何、おかしなことって」 託生がくすくすと笑う。 託生が祠堂で同室の崎義一という男と親しくしていることくらい、尚人だって知っていた。 電話で話を聞いている感じでは、どうやら向こうがずいぶんと託生に熱を上げているように思えて、尚人にしてみれば気が気ではなかった。 小さい時から大事に大事にしてきた託生は、高校は実家から遠く離れた全寮制の男子校を選んだ。 実家を離れるだなんて夢にも思っていなかった尚人にしてみれば青天の霹靂で、いったいどうしてそんな学校を選ぶんだ、と託生を問い詰めると、 『だって、いつまでも家にいない方がいいかなと思って』 と、託生は言った。 意味が分からずにいる尚人に、託生は何か言いかけて、けれどそれ以上は何も説明せずに中学を卒業すると家を出て行った。 そして1年が過ぎ、2年に進級すると寮の部屋が同じになった崎義一の話がよく出るようになった。 アメリカからの留学生。とんでもない美形で頭が良くてスポーツも万能で。 女からも男からも人気があって、教師からの信頼も厚い。 天は二物も三物も与えてしまったようなパーフェクトな男は、ずいぶんと託生のことを気に入っていて、去年の文化祭で見た2人はひどく仲が良さそうに見えて、尚人はじわりと胸の奥に焼け付く痛みを感じて戸惑った。 考えてはいけないと、もう何度も何度も自分に言い聞かせ、見ないふりをしてきた感情が、崎義一の登場で再びその姿を現し、尚人のことを悩ませるようになった。 冷たい麦茶と羊羹を乗せたトレイを持ってリビングに入ってきた母親が、はぁ涼しいわねぇとほっとした表情を見せた。 尚人と三人、久しぶりにあれこれと近況報告をしていると、思い出したように母親が言った。 「託生、お母さんたち明日からご近所の皆さんと一緒に温泉旅行に行くのよ」 「温泉??こんなに暑いのに?」 「そうだけど、お父さんのお休みがここしか取れなかったし。温泉はまぁ二の次で、みんなとワイワイ楽しく旅行っていうのが目的なのよ。尚人と2人で留守番できるでしょ?」 「お母さん、ぼくはもう高校二年生なんだよ?留守番くらい一人でだってできるよ」 「あらそう?小さい時は尚人がいないとすぐ泣いてたから」 隣でくすくすと笑う尚人の横腹を肘でついて、託生はいつまでたっても子供扱いされることにぶつぶつと文句を言う。 親元を離れて寮生活を送っているのだから、身の回りのことは自分でしなくてはならず、実家で何でも母親にしてもらっている高校生と比べれば格段にしっかりしているはずなのに、家を出て行った小さな姿のまま時間が止まっているせいかいつまでたっても託生は守るべき存在として葉山家では認識されている節がある。 「お土産買ってくるから、ご飯は適当に食べててね」 「大丈夫だよ、二泊三日だろ?それくらい何とでもなるから」 尚人が言うと、そうよねぇと母親はうなづいた。 その夜は久しぶりに家族4人で食卓を囲み、託生は祠堂での出来事をあれこれと楽しく話した。 そこでもやはり崎義一の話題が出てきて、彼のエピソードを話すときの託生のどこか嬉しそうな表情に、尚人はもやもやとした言いようのない気持ちになった。 「そうそう、尚人に彼女ができたのよ、託生」 「え?」 託生がぴたりと箸を止めて尚人を見る。 「違うよ、あれはただの友達」 どこまでも冷静に尚人が答える。人当たりの良さとそこそこ整った外見のおかげで、これまでだって何度も女の子から告白されたことはあるものの、心が動いたことはなかった。 綺麗な子も可愛い子もいた。いったいどこが不満なんだと友人に呆れられたこともある。 友達の延長のようなお付き合いは単純に楽しかったけれど、満たされることはなかった。 「兄さん、ほんとに彼女いないの?」 夕食が終わり、尚人の部屋のベッドでごろごろしていた託生が思い出したように尋ねた。 「どうして?」 託生に背を向けて机に向かっていた尚人は書き物をする手を止めずに聞き返す。 「だって兄さんモテるのにそういう話ぜんぜん聞かないし。でもさっきお母さんも彼女が、なんて言ってたから」 「僕に彼女ができたらどうする、託生?」 「え?・・・それは、別に・・良かったなって思うよ・・・」 どこか戸惑ったようにぽつぽつと託生が答える。 本心のようなそうでないような託生の言葉。尚人はふうんとうなづいて、手にしていたシャーペンをくるりと回した。 「でも、ちょっと寂しいかも」 託生が小さく言った言葉に、尚人が苦笑する。 「そういう託生は好きな人いるのか?」 「え?」 きしっと音をさせて椅子を回して尚人が託生に向き合う。 託生は手にしていた雑誌を胸に伏せて、少し考えるように黙り込んだ。 本当は聞かなくても知っている。 託生が好きなのは祠堂の寮で同室のあの男だ。 託生は隠しているつもりでも、尚人にしてみればバレバレだった。 帰省すると毎日あいつと電話で話をしている。 親は単純に仲がいいとしか思っていないが、あの男が託生のことを邪まな思いで見ているのは明らかだ。 どういう関係なのかと、はっきりと聞くのは躊躇われた。 分かっていはいても、託生の口から聞きたくはない。 尚人は再び椅子を回すと託生に背を向けた。 「託生、勉強に集中したいからそろそろ自分の部屋に戻って」 「え、あ・・うん・・」 のろのろと起き上がり、託生は何か言いたげに尚人を振り返った。 「兄さん、あのさ・・・」 「おやすみ、託生」 「・・・・うん、おやすみ」 ぱたんと小さな音をさせて扉が閉まる。 尚人は大きく溜息をつくと、そのまま机に突っ伏した。 翌日、両親はお土産買ってくるからと言って、にこにこと出かけていった。 料理なんてまったくできない息子たちのために、作り置きのおかずを何品か用意して。 託生は楽器店に行きたいからと言って、午後になると出かけていった。 一人家に残った尚人は書きかけのレポートに没頭して、おかしな考えにはまってしまわないようにしていた。 託生が帰省するのは間違いなく嬉しいことなのに、ここのところ少し複雑な思いが入り混じる。 それもこれもすべてあの男のせいだ、と尚人は思っていた。 開け放たれた窓の外から、時折子供の笑い声が聞こえてくる。 楽しそうな声にふっと集中していた意識が途切れた。 凝り固まった背筋を伸ばして、窓辺に近づき外を眺める。 小学生くらいの子供たちが水鉄砲を持ち出してはしゃいでいるのが見えた。 「ああ、懐かしいな」 自分の小さい時に託生と一緒に水鉄砲で遊んだことを思いだした。 上手く水が飛ばなくて泣きべそかいていた小さな託生の姿は、今でも鮮明に思い出すことができる。 年が離れているせいか、何をするにも尚人のあとをついてきた。 可愛くて可愛くて、ずっと自分だけのものにしたいと思っていた。 どうすればそうできるのか真剣に悩んだ時期もあった。 託生が屈託なく懐いてくれるのが逆に辛く感じることもあった。 けれど、どれほど思い悩んだところで、託生を自分のものになどできやしないのだ。 そう思って諦めようとしていたのだけれど、その考えはあの男が現れてから少しづつ変化していった。 あんな男に託生を奪われてしまうくらいなら・・・。 (くらいなら、どうする?) 大事にしたいと思う反面、めちゃくちゃに汚して自分だけのものにしてしまいたいとも思う。 大切な弟だというのに、こんなことを考えるなんてどうかしていると分かっているのに。 「あれ・・・雨か・・」 さっきまでの綺麗に青空に、あっという間に重い雲が現れて、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。 やがてそれは地面で雨粒が跳ね返るほどの激しい雨に変わった。水鉄砲で遊んでいた子供たちが嬌声を上げて家へと逃げ帰っていく。 託生は傘を持ってたかなと考え、迎えにいこうか腰を浮かせたとき、ばしゃばしゃと水しぶきをあげて託生が走ってくるのが見えた。 「やれやれ、少し待ってれば止むのに」 尚人は立ち上がるとタオルを手にして玄関に向かった。 玄関先で立つ託生は当然ずぶぬれで、小さなハンカチでせっせと濡れた身体を拭っていた。 「おかえり、託生」 「あ、兄さん。すごい雨だよ。びっくりした」 「通り雨だよ。少し待てば止んだのに」 「でももうそこまで帰ってきてたんだよ」 しょうがないなとタオルを渡すと、託生はごしごしと顔を拭いた。 「床が濡れるからシャツと靴下、そこで脱いで。ちゃんと拭いてそのままバスルームへ行って」 「うん。うわー下着までぐっしょりだよ」 託生は足元を拭ってスリッパを履くと尚人に言われたように、その足でバスルームへと向かった。 「託生、着替えは?持ってくる?」 「うん、何でもいいから」 託生の部屋からTシャツとハーフパンツを手にして尚人が洗面所の扉を開けた。 「ほら」 「ありがと」 「ちゃんと髪乾かさないと、風邪ひくぞ」 「うん」 濡れたシャツを脱いだ託生の素肌に思わず視線が止まる。 昔からつるりとした綺麗な肌をしていたけれど、それは今も変わらなくて。 首筋に張り付いた濡れた髪がやけに艶かしく見えて言葉に詰まった。 目を逸らそうとした一瞬、託生の肩先に残っている赤い印にぎくりとした。 「託生」 「うん?」 間近で見ると、それが何なのかは一目瞭然で、そして託生にそんなものをつけたの相手なんて一人しか思いつかない。 (ああ、やっぱりそういうことか) そんな気はしていた。けれどそれを確信することは怖くてできなかった。 「・・・あいつだな」 「なに?」 人差し指でその赤い印をなぞった。託生は何も分からないようできょとんと尚人を見返した。 その様子でギイの意図が読めた。 託生の知らない間にこんなものをつけて、託生は自分のものだとでも宣言したつもりなのか。 ふいに焼け付くような怒りが込み上げた。 「キスマーク」 「え?」 「つけたのはあいつだろう?崎義一」 はっとしたように託生は一歩あとずさって、尚人の手を払った。 「あいつと寝たのか?」 「・・・・・」 こういう時は嘘でもそんなことはないって言わないといけないのに、黙り込む託生に腹が立った。 そんなことはないと、笑って言えばいいのに。 そうしたら騙されたふりもできるのに。 もっとも、そんな嘘はすぐに分かってしまうのだろう。 託生は小さい頃から嘘がつけなくて、すぐに顔に出る。特に尚人には絶対に嘘はつけない。 あいつと寝たのか。 思いを寄せていることは気づいていた。けれど、まさか本当にそんなことになっているなんて。 笑い出したいような、泣きたいような、自分でもどうにもできない感情が湧きあがって、気づくと尚人は託生の手首を掴んでいた。 「兄さん・・っ」 「・・・」 無言のまま洗面所から連れ出し、尚人の手を振りほどこうとするのを許さずに、そのまま自室へと連れ込んだ。 嫌がる託生をベッドに突き飛ばし、起き上がるのを許さずに肩を押さえ込む。 「兄さんっ・・・どうしたの?」 「あの男、頭はいいって聞いてたけどそうでもないな」 「・・・なに?」 いつも柔和な尚人の表情は一変してどこまでも冷たいもので、託生は怯えたように身をすくめた。 尚人に怒られたことなんてない託生にしてみれば、笑顔の消えた尚人のことを怖いと思っても当然のことだ。けれど尚人にしてみればこちらが本当の顔なのかもしれないと思っていた。 託生の前ではいつでも優しい兄を演じていた。 託生に嫌われないように、託生の中で一番でいられるように、いつでも託生の味方でいた。 けれど、そんなことに一体何の意味があったのだろうか。 託生はどんどん離れていくばかりだ。 「あいつ、託生はオレのものだって、僕を牽制するつもりだったのかな」 「牽制?」 「僕が託生に手を出さないようにって」 「・・・・なに言って・・・」 強く肩を抑えつけたまま、尚人はゆっくりと身を屈めた。 息がかかるほど間近に顔を近づけると、託生は大きく目を見開いた。 唇が触れると、託生はぴくりと身を震わせて、次の瞬間には尚人のことを強い力で押し返していた。 「兄さんっ・・・冗談はやめてくれよ・・・」 「冗談じゃないよ。僕はずっと託生のことが好きだったんだから」 託生は聞きたくないというように首を振る。 そんな託生の耳元で尚人は静かに告げた。 「ずっと託生だけが好きだった。託生だって本当は知っていたんだろう?」 口には出さずにいた想いを、ずっとそばにいて感じないわけがない。 知っていて、気づかないふりをしていたのだ、お互いに。 認めれば、どうなるか分かっていたから。 一線を超えるなんて、本当はとても簡単なことなのだ。 どちらかが簡単なことだと自覚すればいい。 「離して、兄さん」 「嫌だよ。託生が普通の恋をするのなら、僕はこの気持ちは永遠に封印するつもりだった。 だけど、あんな男に奪われるくらいなら、何も我慢することなんてないよね」 託生は尚人の真剣な眼差しから逃げるように視線を外した。 「駄目だよ・・・」 「何が?」 「ぼくは・・・ギイが好きなんだ・・・」 「・・・」 「だからお願い。兄さんのこと・・・嫌いになりたくない・・・」 尚人は薄く笑うと、すっかり冷えた託生の肩先に残された赤い印に口付けた。 ギイが残した痕跡を上書きするように強く吸い上げる。 ぴりっとした痛みに託生は眉を顰めた。 そのまま首筋に唇を滑らせて、腕の中に託生を閉じ込めた。 「託生・・・」 「嫌だ・・・」 手首を掴まれたままシーツに組み伏せられ、託生は何度も首を振った。 泣き出しそうな表情は、尚人の嗜虐心を煽った。 「好きだよ。僕の方が先に託生のことを好きになった。託生だって僕のことが好きだっただろ。 どうしてもっと早くこうしなかったのかな」 ひんやりと冷えた肌をゆっくりと辿って、顔を背ける託生の顎を掴んだ。 「あいつに奪われるくらいなら、先に奪っておけばよかった」 「兄さん・・・っ」 噛み付くように口付けると、託生は喉の奥で呻き声を上げた。 強く結ばれた唇をこじ開け逃げようとする託生の舌先を絡め取ると、その甘さに眩暈がしそうだった。 夢中になって味わうようにして咥内を舐め尽した。 必死に抵抗していた託生はやがて諦めたように大人しくなった。 「ん・・・っ」 苦しそうな息遣いでさえ尚人を興奮させるには十分なもので、きつく舌を吸い上げて、忙しなく託生の素肌を撫で擦った。 やがて辿りついた胸の尖りを指で優しく擽ると、すぐにぷっつりと立ち上がったことに尚人はくすりと笑った。 「気持ちいいんだ?」 「・・・・っ」 ぱっと頬を染めた託生をさらにいじめたくなって、尚人は舌を伸ばして胸元をざらりと舐め上げた。 「やだっ・・・あ・・・」 ぴちゃっと音をさせて嬲ると、託生はそのたびに逃げようと身を捩った。 ほんの少しの愛撫にさえも敏感に反応するのが楽しくて、尚人は執拗にそこばかりを責め立てた。 「可愛い、託生」 するりと脇腹を辿って、そのままハーフパンツの上からやんわりと形を確かめるように触れてみる。 「やっ・・・」 逃げようとする託生の腰を強引に引き寄せる。 「何だ、託生の硬くなってる。ほら、やっぱり気持ちいいんだろ?」 「そんなこと・・ない・・・っ」 口では違うといっても、実際には尚人が与える刺激に素直に反応を返してくる。 ゆるゆると撫でるとひくっと震えてさらに形を変える。 尚人はそのまま下着の中に手を差し入れると、何の遠慮もなく直に触れた。 とたんに託生は大きく身をくねらせた。 「んっ・・あ・・・」 「すごいな、もうぬるぬるだ・・・」 わざと口にして言うと、託生は真っ赤になって泣き出しそうな目をして尚人を見た。 「兄さん・・・もうやだ・・・っ」 「どうして?もっと気持ちよくしてあげるよ」 尚人はちゅっと音をさせて首筋から胸元、脇腹へと舌を這わせると、そのまま下衣に手をかけてあっさりと託生の両脚から引き抜いた。 「や・・・っ」 「じっとして」 柔らかな腿を押し上げて、薄いピンク色の花芯を指でなぞった。 「ああっ・・」 「可愛いな、ひくついてる。ほら、溢れてきた」 「やだっ、兄さん・・・、やめて・・」 「うんと気持ちよくしてあげるよ」 あんな男よりも。 尚人は舌を伸ばすと、根本から先端へとゆっくりと舐め上げた。 「・・っ!・・やめ・・・」 思ってもいなかったことをされて、託生が必死で尚人の肩を押し返そうとするけれど、まったく気にせず尚人は何度もそれを繰り返した。 託生は両腕で顔を隠して、与えられる刺激に必死に耐えていた。 とろりと先端から蜜が溢れ始めると、尚人は温かな咥内にそれをくわえ込んだ。 「んっ・・・・やぁ・・」 暴れる託生の脚を抱え込んで舌を絡めると、次々に蜜が溢れてくる。 唇を窄めて上下に扱くと、どんどんと形を変えてひくひくと脈打つ。 素直な託生の反応に尚人は低く笑うと、次々に溢れてくる蜜をじゅっと音をさせて啜りあげた。 「やだ・・もう、や・・・」 自分が何をされているのか考えたくないというように、何度も首を振って、しゃくりあげるように託生が小さく喘ぐ。 尚人は口を離すと、指の腹で丸く円を描くようにして濡れた先端をくすぐった。 「すごいな、ほら託生、やらしい音してるの聞こえる?」 「やぁ・・・ん・・・あぁ・・」 「あいつにも同じことされた?」 尚人の言葉に、託生はぎゅっと目を閉じた。 否定しない託生に、尚人が眉を顰める。 「されたんだ。あいつに舐められて、こんな風に感じた?」 「・・・っ」 「じゃあ僕も同じようにしてあげるよ」 言うと、尚人は再び託生のものを口にして、先を促すように激しく上下に顔を動かした。 託生は耐えられないというように身を捩り、それを尚人が引き戻す。 ちゅぷっとわざと濡れた音をさせて託生を追い上げていくと、やがて大きく背を反らせて託生が泣き声を上げた。 「嫌だ・・・も・・出る・・・っ・・・出ちゃう・・っ」 半ば悲鳴のように声を上げて、けれど尚人から逃げることもできない。 やがて与えられる愉悦に耐え切れず、託生は大きく胸を喘がせ白濁の蜜を吐き出した。 「あ・・・は・・ぁ・・・」 ひくりと腿を震わせて、託生はくったりと強張らせていた身体を弛緩させた。 尚人は託生が吐き出したものを飲み込むと指先で唇を拭って上体を起こした。 託生の脇に手をついて、薄く頬を上気させた託生の目を覗き込んだ。 頬に手を添えると、託生は嫌がるようにふいっと横を向く。 「託生?」 「・・・どうして、こんなこと・・・」 涙声でつぶやくと、託生ははらはらと涙を溢れさせた。 そして尚人から逃げるように、きゅっと身体を丸めると、大きくしゃくり上げた。 「ひどいよ・・・兄さん」 「だって、託生のことを愛してるから」 「・・・・っ」 「僕の方があいつより先に託生のことを好きになった。託生のことなら何でも知ってる。誰よりも一番愛してる。託生だって僕のことを愛してるだろ?」 尚人はそっと託生のこめかみに口づけて、頬に、肩先に、何度も唇を押し当てた。 さっきまで冷えていた身体が熱を孕んでいることに気づいて、尚人は嬉しくなる。 託生がちゃんと感じてくれたことに言いようのない高揚感が込み上た。 けれど託生は顔を背けたまま両手で顔を覆った。 「駄目だよ・・・兄さんのことは、もちろん好きだよ。だけど、それは・・・違うよ。こんなことをしちゃいけないんだ」 託生の言葉は、尚人には今さらなことだった。 そんなことはもうずっとずっと昔に何度も自分に問いかけたことだった。 兄弟で、それは間違ったことなのだろうか、と夜も眠れないくらいに思い悩んだこともあった。 無邪気に自分を慕う託生を失うことが怖かったから、思いは封印するつもりだった。 できると思っていた。 あの男が現れるまで、そう思っていた。 「託生、僕のことが好き?」 「・・・好きだよ、だけど・・・」 「だけど兄弟だから駄目だって、託生は僕から逃げたんだろう?」 託生はのろのろと顔を覆っていた手を外すと、どこか胡乱な目で尚人を見つめた。 その目を見て、尚人は自分の考えが間違っていないと確信した。 「やっと分かったよ。託生は僕から逃げるために祠堂に入学したんだろう?あのまま一緒にいたらいつかこうなるって分かってたから。僕が求めたら拒めないって分かってた。だから逃げた。僕から、逃げたんだろう?」 託生はじっと尚人を見つめていた。 息苦しいほどの沈黙のあと、 「・・・そうだよ」 溜息のように託生が掠れた声で答えた。 涙が溢れてそのまま耳元へと流れていく。 「兄さんが好きだよ。小さい頃からぼくの憧れの人だった。兄さんは何でもできて、優しくて、ぼくのことを一番に愛してくれた。だけどそれは、恋じゃない」 「・・・」 「恋であっちゃいけないんだ」 「託生」 「ぼくはギイのことが好きなんだ」 託生は自分に言い聞かせるように言い切った。 尚人は託生に覆いかぶさると、ぎゅっと抱きしめた。 それはきっと嘘ではなくて、託生はあの男のことが本当に好きなのだろう。 「だけど託生、それは僕を忘れるためだろ?」 「違う・・・」 「違わない。だって託生、もし僕たちが兄弟じゃなかったら?託生はどうしたの?僕が託生のことを好きだと言ったら、僕のことを選んだだろう?」 耳元で言い聞かせるようにしてつぶやいて、そのまま柔らかな耳朶を食んだ。 上半身を撫でながら、そのまま腰から脚の付け根へと辿る。 「・・・っ」 両脚を開かせて、先ほど放ったばかりのものを緩く握りこんだ。声を上げようとした託生の唇を塞いで、もう一度じわじわと刺激を与えていく。 「んッ・・・・んー」 拳で肩を叩かれ、それでも尚人は許すことなく、飢えたような口付けを繰り返した。 滑らかな肌を余すところなく擦って、託生の息を乱れさせていく。 「託生・・・抱きたい・・」 「駄目だよ・・・」 駄目だと言っても、嫌だとは言わない。 託生の中では尚人と抱き合うことは許されないことだと認識されているだけで、決して嫌なことではないのだ。 そう思ったらどうしても欲しくなった。 誰にも渡したくない。あの男だけじゃなくて、他の誰にも渡したくない。 尚人は託生の肩先に顔を埋めると、吐き出すようにして願いを告げた。 「一度でいい」 「・・・っ」 「一度だけでいい。託生のこと全部欲しい」 託生を好きになってからそれだけが願いだった。叶うことなどないと自分に言い聞かせ、けれど時折力づくで奪ってしまおうかと思ったこともある。 「託生は悪くない。悪いのは全部僕だから。誰にも秘密にする。だから僕のことが好きだったら、一度だけ抱かせて?」 搾り出すように尚人が思いを告げる。 長い間秘めていた思いをようやく打ち明けることができた。 尚人はお願い、ともう一度言った。 「ずるいよ・・・そんな言い方・・・」 「うん。ごめん」 尚人がごめんな、と耳元で囁くと、託生は諦めたのかのように身体の力を抜いた。 もう何かを考えるのは嫌だとでもいうように、尚人の口づけを拒むことなく受け入れた。 ゆったりと首筋から胸元へと唇を這わせると、託生は顎を反らせた。 背中に回した指先をほっそりとした腰からその先へと下ろして、何度も撫でてはその肌の感触を味わった。 濡れた屹立に触れると、託生の身体がひくりと跳ねた。 「気持ちいい?」 答えなんて聞かなくてもとろとろと蜜を溢れさせていることで、託生が感じてることは分かった。 薄く頬を染めて、漏れそうになる声を必死に押し殺している様がとてつもなく可愛くて、尚人はその先を促すように強く中心を扱いた。 「やだ・・・っ」 さっきイったばかりでまたすぐ煽られて。託生はぎゅっと尚人のシャツの胸元を握り締めた。 「可愛いな・・・託生」 「んんっ・・・はぁ・・」 あっという間に二度目を迎えて、託生はぐったりと尚人の腕の中で脱力した。 息を整える時間も与えず、尚人は片足を持ち上げると、濡れた指先を奥へと差し入れた。 「ひっ・・・あ・・・」 託生が放った蜜でぬるぬると最奥を探ると、託生はそれから逃れようと身を捩る。 「ああ、もうちょっと濡らした方がいいかな」 ベッドサイトに手を伸ばして冬場に使っていたハンドクリームを手に取った。 ジェル状のハンドクリームなら十分役立つだろうと、尚人はチューブから中身を手に取ると、もう一度指を奥へと滑らせた。 「兄さ・・・っ」 「力抜いて・・ほら、入る」 花びらを捲くるようにして、指先が中へと沈み込む。 熱く締め付ける感触に尚人は感嘆したように笑みを漏らした。 けれど、こんな風に託生の身体を変えたのがあの男かと思うと嫉妬でおかしくなりそうになる。 誘われるままにゆっくりと指を含ませていくと、託生は掠れた様な悲鳴を上げた。 「痛くないよね?あいつにも同じようなことさせた?答えて、託生」 「・・・っ」 「何回したの?あいつはどんな風に託生のこと抱いたの?」 想像しただけで嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。けれど乱れた託生の姿を想像すると言葉にできない興奮を覚える。 指を抜き差しを始めるとちゅくちゅくと濡れた音が響いた。自分の指が深々と託生の中に入っていく様に、尚人は高揚した。 ぐるりと中で回すと、入口が引きつれて広がる。 「あ・・・っ・・」 「すごいな、託生の中、すっごく熱い・・・」 「やだ・・・っ、も・・・」 「もうちょっと我慢して」 まだ受け入れるにはきつすぎるからと囁くと、託生はまた涙を溢れさせた。 駄目だと分かっていても、与えられる快楽には逆らえずに白い喉を反らす。 素直な身体が愛しく思え、二本、三本と指を増やすと、託生の屹立がまたひくりと震えて蜜を溢れさせた。 「やらしい・・・気持ちいいんだ、託生・・・」 「ちが・・んッ・・・う、ん・・・」 「どこが気持ちいいか教えて?」 閉じようとする脚をさらに割り開いて、ぐっと奥深くまで指を飲み込ませた。 苦しそうに息を吐く託生に労わるように口づけて、深々と貫いた指で中を蕩かせていく。 「ああ、ぐじゅぐじゅだね、もういいかな」 「兄さん・・・っ、も・・やだ・・・いや・・」 淫らに身をくねらせて、じれったいほどの快楽から逃げようと託生は尚人の肩をつかんだ。 感じる場所をしつこく擦られ、それだけで達してしまいそうになる託生を見ていると、あの男もこの姿を見たのかと腹の底が熱くなるのを尚人は感じた。 我慢しきれず手早く前を寛げて、すでに蕩けきっている中へとゆっくりと先端を押し込めていった。 「嘘・・・あっ・・・あぁ・・」 両脚を大きく開かせてそれを抱え上げ、吸い付くように収縮を繰り返す狭い場所を貫いていった。 あまりの心地よさに眩暈がしそうな気がして、尚人は大きく息を吐いた。 「気持ちいい・・・すごく・・・」 やっと手に入れた。 想像していた以上の悦楽に我慢などできなくて、尚人は根本まで納めきるとすぐにまた腰を引いた。 託生は両腕で顔を覆い、与えられる刺激にただ耐えているように見えた。 それでも抜けきらぬうちに再び埋めていくと、ひくりと脚が震え、もっとと強請るように内壁が蠢いた。 「託生・・・凄くいい・・ああ、我慢できない」 「うごか、ないで・・・やっ・・」 託生の腰に手を置き、ゆっくりと繰り返していた抜き差しを次第に早いものに変えていく。 開かされて、突き入れられて、わけの分からなくなるような快楽に託生はしゃくりあげるような呼吸を繰り返した。 「あ・・・もういっぱい・・・くるし・・い・・」 「中、気持ちいい?」 「ん・・・っ」 「もっとして、って言って?」 託生はゆるゆると首を振る。尚人はぐっと上体を倒すと、より一層奥深くまで屹立を埋め込んだ。 「ひぁ・・・っ」 「託生・・・好きだよ・・」 「託生は、僕のことが嫌い?こんなことをする僕は嫌?」 託生はきゅっと唇を結ぶと、おずおずと両腕を尚人の首に回した。 「嫌いなら・・・こんなこと、しない」 「・・・っ」 好きだとは言えない。 けれど嫌いだとも言えない。 何て馬鹿な託生。 尚人はぎゅっとしがみつく託生の耳元で囁いた。 「嫌いだって言えば良かったのに」 どうして言わなかった? そうすれば手離してあげられたのに。 蜜に濡れた下肢をゆるりと回すとちゅぷっと水音がして、託生はぎゅっと目を閉じた。 いやらしい音は腰を動かすたびに大きくなっていく。 託生のすすり泣きはやがて甘い嬌声に変わっていった。 「んっ・・・ふ・・ぁ・・」 尚人は腰から下が溶けるんじゃないかというくらいの快楽にうっとりと目を閉じた。 手を伸ばしてすっかり濡れそぼった託生の屹立に指を絡め、突き上げるリズムと同じように上下に動かす。 ぽとぽとと蜜が溢れだして、託生はふるふると首を横に振った。 「やだ・・もう・・いや・・・っ」 「いいよ、イって、託生」 強めに握ると、託生はくっと息を飲んで尚人の手の中に解き放った。 だらりと崩れ落ちそうになる託生の足を濡れた手でもう一度抱えて、尚人はそれまでよりも早いピッチで抽挿を繰り返して、やがて大きく息を吐き出しながら中で吐精した。 快楽の余韻に浸りながら、尚人はゆっくりと託生に口づけた。 「託生が好きだよ。誰よりも。世界で一番託生が好き」 ずるりと昂ぶりを抜きとると、託生は小さい声で言った。 「ぼくも、兄さんが好きだよ」 冷たい飲み物を手に部屋に戻ると、託生はぐっすりと眠り込んでいた。 ベッドの端に腰掛けて、頬に残る涙のあとを指でなぞった。 一度だけではおさまらなくて、もう一度もう一度と身体を繋げた。 誰からも許されることのない交わり。 自分でもどうかしていると思う。けれどどうしても託生のことを諦めることができない。 託生が好きなのはあの男だと分かっていても。 尚人は両手で顔を覆った。 一度だけ。 これで最後にしようと思っていたのに。 託生は静かに眠りについている。 もし託生が目を覚ましたら、どうなってしまうか分からない。 安らかな寝息が聞こえる。 託生はまだ目を覚まさない。 この恋路の果てには何が待っているのだろうか。 |