ギイと同居することになり、家は紆余曲折の結果、小さな庭のついた一戸建てを見つけることができた。
託生にしてみれば少し贅沢かなと思えるほどの立派な家は、ギイの手にかかり防音設備や室内リフォームなどを経てさらに快適な空間へと生まれ変わった。 「さて、あとは必要な家具やら家電やら揃えないとな」 まだ空っぽの新居をぐるりと見渡して、ギイがやけに楽しそうに言う。 「託生はどういうコンセプトの家にしたい?」 「コンセプト?」 「ほら、和風とかアジアンちっくとか北欧風とか」 「あー、居心地が良ければどれでも。あ、でもあんまりごちゃごちゃとした感じは嫌だな。シンプルイズベスト」 まぁそんなこと言わなくてもギイもそれは分かっているだろう。 祠堂で一緒に過ごした部屋も、他の人が呆れるほどにさっぱりあっさりとした部屋だった。 「オレもシンプルなのがいいな。よし、今度の休み、一式見に行くか」 「できればギイに任せたい。ぼくにはそういうセンスないし。どういうのがいいかよく分からないしさ」 「ダメだって。一緒に使うものだからちゃんと二人で選ばないと」 ぴしりと言われて、確かに、とうなだれた。 家のこともほとんどギイにお任せだった。 もちろんインテリアについても任せっきりにするつもりはないのだけれど、ただギイが気に入るような素敵なセンスは自分にはないだろうなと自覚しているだけだ。 「じゃあさ、オレが適当に候補をピックアップしておくから、現物を見て託生が気に入るものを検討していこう」 「うん」 さすがギイ。 負担にならない提案をさらりとしてしまうあたり、頭のいい人は違うなと今さらながらに感心してしまう。 「楽しみだな」 「うん。でもけっこう大変だよね。一緒に住むってこんなにいろんなことをしなくちゃいけなかったんだ」 しみじみとつぶやくと、ギイは小さく笑った。 「確かに全部二人で決めていかなきゃいけないし、忙しい中時間も取られるし大変だけど、でもオレは楽しいよ」 ギイは玄関にカギをかけて、行こうと託生をうながす。 「いろんなことを二人で決めていくのって、これからの生活のための準備だろ?一緒に長く使えるものを選んだり、お気に入りのカトラリー選んだり、そういうことを託生と二人でできると思うと、すごく嬉しいし感動する」 「感動?」 それはまた大げさなと思ったけれど、だけどここまで来るために、託生が想像できないくらいの努力をギイがしてきたのだろうと思うと、ギイの言うことには重みがある。 そして大変なことは一切口にせず、ただ嬉しいと言ってくれるギイに、託生の方こそ感動してしまうのだ。 「ねぇギイ、ぼくは正直言うと、一緒に暮らすためにやらなきゃいけないことがいっぱいあって、上手くいかなかったり、ギイと喧嘩したり、もう嫌だって思うこともあったけど、ギイと一緒だと不思議とそういうことも楽しく思えるんだ。祠堂にいた時からそうだった。ギイはぼくの想像をはるか上を行くことをさらっとしてくれるから、すごいなって思うのと同時にすごく楽しかった。今も楽しいよ。たぶんギイとすることなら何でも楽しいんだと思う」 「そっか」 少し照れたように笑うギイの袖口をきゅっと引っ張って、託生はありがとうと言った。 面倒な手続きなんてギイだって好きなはずはないのに、不本意ながら託生よりは得意だからと茶化してあっという間に済ませてくれる。 一緒にと言いながらも、たぶんギイの方が負担は大きい。 いつまでたっても頼りっぱなしで申し訳ないと思うけれど、たぶんギイに任せた方がいろいろと早く物事が進むだろうから大目に見て欲しい。 次の休みまでにギイが必要なものについては当たりをつけ、託生もいいなと思うものがあればピックアップしておくことを互いに約束してその日は別れた。 とは言うものの、普段の生活にどういうものが必要かなんて意識したことがないので、とりあえず必要かなと思うものに気づいたら、その都度メモをしておくようにした。 まぁ暮らし始めてから足りないものがあれば買っていけばいいし、今は必要だと思っても、実際にはいらないものだってあるだろうから、必要最低限のものさえあればいいだろう。 次の週末、ギイと二人してまずは家電関係をひと揃えして、そのあと家具を見に行った。 店内に一歩足を踏み入れたとたん、うわーと託生はたじろいだ。 何しろギイがセレクトした店なので、託生が知るような家具屋とは雰囲気が違う。 何だかとっても高級そうだなぁと思いつつ展示されている家具を眺めていく。 テーブルやらソファやら。とりあえず値段は見ないことにして、託生がいいなと思ったものをいくつか告げると、ギイは頭の中で何かをシミュレーションするかのように少し考えたあと、じゃあこっちと決めてくれる。 たぶん、部屋の中にそれらの家具を並べてみて統一感があるかとか瞬時に判断しているのだろう。 単品でいいなと思っても、並べてみると統一感のないものになってしまうことはよくあるので、ギイの抜群の記憶力はこういう時にはありがたい。 「託生、ベッド見に行こう」 エスカレーターで階を一つあがると、そこにはずらりとベッドが並んでいる。 「すごい。でも何かどれも同じように見えるんだけど」 「見た目はそうかもな。でもマットレスとかいいものは寝心地がいい」 ギイは通路を奥へと歩いていく。 「ねぇギイ、どこ行くの?このあたりのベッドがいいんじゃないかなって思うんだけど」 シンプルイズベストって言ってたよね?だとすればここにあるベッドなんてちょうどいいと思うのだが。 託生がギイを呼び止めると、ギイの方がきょとんとした顔をした。 「託生、このあたりのベッドはシングルだぞ。ダブルはあっち」 「え、ちょっと待って、ダブルベッドを買うつもり?」 すたすたと先を進むギイを託生があわてて追う。 「ギイってば、ちょっと待って。本気でダブルベッド?」 「あ、キングサイズにするか。その方がゆったりと眠れるか」 キングサイズでダブルよりも大きいヤツだよね? ベッドは必要だが、シングルを二つ買うつもりだった託生としては、ダブルだのキングだのは想定外だ。 だいたい男二人でベッドを買いに来てるだけでも目立つだろうに、キングサイズのベッドなんて買ったら変に思われるに違いない。 「ギイ、シングル二つでいいんじゃない?寝室広いし、二つ置けると思うんだけど」 遠慮がちに言ってみると、予想通りギイは首を傾げた。 「何で?一緒に住むのにシングル二つだなんてありえないだろ」 「でも祠堂でも別々のベッドに寝てたし、それに慣れてるっていうか・・・」 「祠堂でシングルベッドなのは当然だろ?ダブルの方がびっくりする」 ギイの言葉にはさすがに吹き出した。 そりゃあ寮のベッドなのだから、ダブルだなんてあり得ない。 「だいたいな、託生、あの頃だって一緒に寝ることあっただろ?」 「ちょ、ギイってば声が大きい」 託生はきょろきょろとあたりを見渡す。 一方のギイは誰に何を聞かれてもまったく平気なようだが、託生へと一歩近寄って心持ち声のトーンを下げた。 「あの時めちゃくちゃ狭くて大変だったじゃないか。いやまぁ狭いのはそれでそれでくっつけていいんだけどな。あ、もしかしてシングルでくっついて寝たいとかそういうことなのか?」 「違う!」 「即答?!」 がっくりと肩を落とすギイに、託生は慌てて言った。 「いや、あの、くっつきたくないわけじゃないんけど・・でもダブルって・・」 ダブルベッドが嫌なのか?と聞かれたら、そんなベッドで寝たことがないから分からない。 でも確かにギイの言う通りせっかく一緒に暮らすようになるというのに、同じ部屋で別々のベッドというのもどうなのだろうか。 そもそも寝るところを誰かに見られるわけでもないのだから、恥かしがる必要もないかもしれない。 「ギイ、ベッドはダブルでもいいけど、でも、その、一緒に買うところを人に見られるのは恥かしいよ」 託生の言葉にギイははぁとため息をついた。 「恥かしいって・・別にベッドを買うのは恥ずかしいことじゃないだろ。託生の言いたいことは分かるけど、そんなこと気にしてたら何もできないだろ・・って昔もこんなこと言ったような気がするぞ」 「確かに言われたような気がする」 あれはクリスマス直前、街中でギイに肩を抱かれてそれはそれは恥ずかしい思いをした時だ。 人の目を気にしすぎる、とギイに言われた。 だけど分かってはいるが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 ギイはやれやれというように託生の額をつんと突いた。 「わかったよ。じゃあ一緒に選んだら、あとはオレが手配する。ならいい?」 「うん、ごめん」 「オレと恋人同士だってことを知られても平気なくせに、どうしてベッド買うくらいで恥かしがるのかね」 謎だ、とギイがしきりに首をひねる。 それはやっぱりモノがベッドだからじゃないだろうか。 男二人でダブルベッド、というだけで何となく気恥ずかしい。もっともそんな風に思う方が自意識過剰なんだろうなとは思う。たぶん店の人はそこまで深読みはしないだろう。 「託生、これは?」 ギイがベッドに座って、ぽんぽんとその隣を叩いて託生を呼ぶ。 同じように腰を下ろすと、硬くもなく柔らかくもない絶妙なスプリング具合に笑みがこぼれる。 ちょっと横になってみようとギイが店員の許可を取ってから、二人してごろんと寝転がった。 「やっぱりダブルでもいいかな。キングだと微妙に距離が遠い気がする」 「冬には布団の取り合いになったりしてね」 「託生寒がりだもんなぁ。まぁ一緒のベッドなら漏れなくギイくんが暖めてやるからご安心を」 「むしろ不安・・・」 「何でだよ!」 くすくすと笑って、託生はすぐ隣に寝転がって目を閉じているギイの整った横顔を見つめた。 あと少しすれば、毎晩こうして大好きな人の横顔を好きな時に見ることができるのだ。 そんなことができる日が来るなんて、あの頃は想像もしてなかった。 いや、あの頃は小さな祠堂の寮の部屋で、すぐ向こうのベッドにギイがいた。 そんなことありえないのに、ずっとそんな風に一緒にいられると思っていた。 そうなるには、お互いに努力と忍耐が必要なのだと、あの頃は気づかなった。 でも今なら分かる。 「ギイ」 「うん?」 「これにしよう」 よいしょと起き上がって、ギイを見下ろして微笑んだ。 それから少し離れた場所で様子を伺っていた店員に、託生が声をかけた。 「すみません、これにします」 「託生」 恥かしいだなんて言っていたのに自分から店員に声をかける託生に、ギイはちょっとびっくりしたように目を見開く。 「恥かしいんじゃなかったっけ?」 「恥かしいよ」 だから早く済ませようと、揶揄うギイを急かして、託生はあとから知って後悔するほどにいいお値段のダブルベッドを購入した。 その日二人で購入した家具や家電は10日もすればすべて新居へと運び込まれ、がらんとしていた家はあっという間にこれから住む家として息を吹き込まれた。 まだまだ足りないものはあるだろうが、とりあえず生活を始めるに必要最低限のものは揃ったように思うので、二人が休みとなった土曜日にそれぞれが自分の荷物を運びこんで、ようやく同居がスタートする運びとなった。 荷物は少ないと言いながらも、それなりに片付けるものはあり、託生は水回りを中心に片づけをしていた。 ふと、リビングを片付けていたはずのギイがいないことに気づいて、首を傾げた。 「ギイ?」 いったいどこへ消えたのか。 そろそろ一休みしようかなぁと思っていた託生は、ギイを探しにキッチンを出て寝室の扉を開けた。 思った通り、ギイはそこにいた。 中はまだあちこちに段ボールが積み上がっていたけれど、ベッド周りだけはやけに綺麗に整えられている。 何だろうこの偏り方は。 「ギイ、一休みしない?ちょっとは片付いた?」 「とりあえず今夜寝るのに必要なものだけはだろ?やっぱりこのベッド正解だったなぁ」 部屋の真ん中に置かれたダブルベッドは店で見たよりもずいぶんと大きく感じる。 ベッドの周りに大きな観葉植物といくつかのルームライトが置かれている。ルームライトだなんて今まで使ったことないけれど、どうやら海外では部屋の灯りはルームライトがメインで部屋全体を明るくすることはしないらしい。寝室のインテリアは任せろとギイに言われたので本当に100%お任せだったが、想像以上にお洒落な空間に仕上がっていた。 これで段ボールが全部片づけ、きっと素敵な寝室になる違いない。 「託生、こっちこっち」 ほらほらと手招きされて綺麗にベッドメイキングされたベッドに並んで横になった。 売り場で寝転んだ時とは全く違って、ここは二人の家なのだと思うとすごく落ち着いた。 「ずいぶんと静かだったから、サボってどっか行っちゃったのかと思ったよ」 託生が言うと、ギイはまさかと笑った。 「託生に気に入ってもらえるようにって、せっせと巣作りしてたんだって」 「巣作り?」 言われてみれば心地よいものばかりが部屋にあってすごく落ち着く。 寝るだけの部屋だと思っていたけれど、ここだとリラックスして眠れそうな気がする。 特にベッド周りは綺麗に片付けられている。 本当に鳥の巣を作るみたいに、ギイがせっせとこの部屋を作っていたのかと思うと笑いが漏れた。 ベッド周囲しか片付いてないくらいだから、力の入れようが分かろうというものだ。 ギイが真剣に巣作りしている様子を想像すると子供みたいだ。 「何だよ」 「だって」 いつでもカッコよくで、何でもできて、何でも持っていて。 誰が見てもギイはスペシャルな人だと思うのに、居心地のいいベッドのために頑張っていたのだと思うと可愛いなぁと思ってしまったのだ。 隣で横たわるギイのさらさらの髪に触れてみる。 そのまま少し身を寄せて、託生はギイの白い額にそっとキスをした。 「巣作りのご褒美?」 「うん、そんな感じ。ギイって可愛いなぁって思って」 「可愛い!託生に言われるのは何だか腑に落ちない」 「カッコいいのに、ギイは時々子供みたいで可愛い」 そして大好きだなぁと、今更のように思い知らされて、ぎゅうぎゅうと抱きしめたいような、めちゃくちゃに抱きしめられたいような気持ちになった。 託生は片肘をついて上体を起こすと、そのまま覆いかぶさるようにしてギイに口づけた。 託生からそんなふうに口づけるなんてあまりないことなので、ギイはちょっと驚いたように目を見開いて、けれどすぐに嬉しそうに微笑むと、そのまま託生を引き寄せた。 いつもならこんな昼間から、と抵抗を試みるのだけれど、そんなことよりもギイに触れたいという気持ちの方が強い。何度も角度を変えて口づけを交わしているうちに、それだけでは満たされない衝動が沸き上がって、託生はギイへと両腕を回した。 「珍しいな、託生から誘ってくれるなんて」 「そんなことないよ」 確かにあからさまに口にして誘うことはなくても、そんな気分の時は、それっぽい行動を取っているつもりの託生である。ギイに言わせれば目で誘うから、というところだけれど、託生はそんなつもりはまったくない。 だいたい目で誘うってどういうことなのかも分からない。 ギイが託生のシャツをたくし上げて、露わになった素肌に唇を這わせていく。 「んっ・・・」 ギイに触れられたところはどこもかしこも気持ち良くて、うっとりとその心地よさに身を任せた。 もう何度もこんな風にギイと抱き合っているのに、いつもドキドキするのはどうしてだろうか。 あっという間に着ていたものを脱がされて、託生もおぼつかない指先でギイのシャツを脱がせようとした。 「積極的な託生っていいな」 「もう黙っててよ、ギイ」 「いや、何か滅多にないことだからさ、満喫しようかと」 まるでいつも手を抜いているかのような言われっぷりに、託生はむぅと唇を尖らせて、勢いのままにギイの身体を反転させた。 そのまま脚の間にしゃがみこみ、ベルトを外して履いていたジーンズの前をくつろげた。 また何か言いたそうにしているギイを目で制して、託生は現れた昂ぶりにおずおずと手を添えた。 口に含むのはもちろん初めてではないけれど、かといって慣れているわけでもない。 だけど決して上手ではない口淫でもギイはいつも気持ちいいと言ってくれるから、それはちょっと嬉しかったりもするのだ。 「ふ・・・ぅ」 先端の膨らみに舌を這わせると、ギイの腰が微かに動く。 気持ちいいのかなと思うと、もっと感じて欲しくなって、さらに深く呑み込んで緩く顔を前後させた。 ギイの指先がくすぐるように託生のこめかみから耳元へと滑る。さらりと前髪をかき分けられて、恥ずかしさから思わずその手を払った。 「何だよ、顔見たいのに」 「・・・ぅん・・」 嫌だよ、と小さく首を振るとその刺激にギイがため息を漏らす。 大きく口を開いてももう全部含むことができなくて、指で支えながら先端だけを何度も舐めあげた。 「託生・・・」 もういいから、というようにギイが託生の肩を押して、そのまま託生の身体を引き上げる。 「まだ、なのに」 「んー、これ以上されたらうっかりいっちまいそうだったから」 それでもいいのにと託生は少しばかり不満に思ったけれど、ぎゅっと抱き寄せられて素肌が触れ合うと気持ち良さに笑みが零れた。 互いにあちこち触りあいながら、何度も深く口づけた。もうそれだけで満足できそうなくらいだったけれど、もちろんそれだけで済むはずはない。 「あー、このまましていい?まさかこれでお預けだなんて言わないよな?」 切羽詰まった声色でギイが託生の耳元で訴える。 「でも、何もないし・・・」 そうしたいのは山々だけれど、何の準備もなくこの続きをするのはちょっと無理がある。 自分から始めたことで申し訳ないけれど、こればかりはどうしようもない。 そもそもこんな昼間から最後までするつもりはなくて、あまりにギイが可愛かったからちょっとそんな気になってしまって、だからギイが気持ちよくなってくれたらいいなと思ってただけなのだ。 「大丈夫」 ギイは言うなり長い腕を伸ばしてベッドの脇に置かれたサイドテーブルの引き出しから必要なものを取り出してみせた。 「えー」 あまりの用意周到さに託生は言葉を失う。まだ荷物がそこらに山積みだというのに、どうしてこんなものだけちゃっかり用意しているのだろう。 「だから言っただろ。せっせと巣作りしてたんだって」 「何それ」 自信満々に言うものだから笑ってしまう。ギイは笑う託生の頬にキスを繰り返した。 じれったいような甘いキスに託生は身を捩る。 「託生といちゃいちゃするための巣作りだからさ。そりゃ完璧にするだろ。おまけに今日は引っ越し初日だから、夜はいちゃいちゃするつもり満々だったし。だけど思いもかけず託生からお誘いがあって、びっくりしたけど嬉しかった」 「わ、わ、ちょっとギイ・・・っ」 託生を組み敷いて、ギイはすんなりとした託生の足を押し広げた。 「託生、オレとしたかった?」 「・・・え、えっと・・うん」 それはもちろん。 思わず顔を赤くしながら頷いた託生に、ギイははぁと感慨深げにため息をついた。 「託生も大人になったよなぁ、昔なら絶対頷いたりしなかったのに」 「・・・っ」 「それが今じゃちゃんとしたいって言ってくれるし、自分から誘ってくれるし」 「もう、うるさいよ、ギイ」 そういうこといちいち言わなくていいよ、とそっぽを向くと、ギイは背後からぎゅうと抱きしめてきた。 「恥ずかしがってばかりだった託生も好きだけど、言葉と態度で示してくれると、オレのことちゃんと欲しいって思ってくれてるんだなぁって分かるから嬉しい」 「・・・」 「オレも今すぐ託生としたい」 耳元で囁かれて、託生はますます顔を赤くした。 「はは、すぐ赤くなるのは昔のままだな」 「ギイが恥かしいことばかり言うからだろ」 はいはい悪かった、とあまり悪いとは思ってない口ぶりでギイが言い、おしゃべりはここまでな、と赤く染まった託生の首筋にちゅっとキスをした。 ゆっくりと時間をかけて中を柔らかく溶かされたから、ギイの熱が奥深くまで入り込んでも痛みなんてぜんぜんなかった。しばらくそのままじっとしていたギイがふっと息を吐いて、託生の膝頭に手を置いてぐっと胸元へと押し上げた。 「んっ・・・やっ・・」 さらに奥まで浸食されて、ゆるゆると前後に動き始めるとその振動がダイレクトに体中に伝わってそうしたくなくても勝手に声が漏れた。 「すごい・・・気持ちいい」 託生は?と問われて、素直に頷く。 角度を変えて敏感な場所を突かれると痺れるような心地よさに泣きたくなる。 託生の弱いところなんて全部知っているくせに、ほんの少しそこをずらしてギイは何度も擦り上げてくる。 「も・・っ、ギイ・・・・・」 「ん?なに?」 薄く笑うギイに託生が力なくその胸を叩く。 時々こんな風に意地の悪いことをしては託生が焦れるのを楽しむのだ。 早く、と言えばそうしてくれるだろうけれど、言葉にするのは恥ずかしい。 だけど結局我慢できなくなって、小さくねだると、ギイはゆっくりと上体を倒して唇を合わせてきた。夢中で熱い舌先を味わっている間も、ギイは休むことなく律動を繰り返し、託生を高みへと連れて行く。 「ん・・ぅ、あぁ・・・え、ちょ・・・」 ぐっと力を込めてギイが託生を抱き起こした。 繋がりあったまま向かい合わせに座り込む形になり、託生はぱっと頬を赤くした。 「これやだ、ギイ」 少しでも力を抜けばギイをさらに奥深くに飲み込んでしまいそうで怖い。 目の前のギイを少し見下ろす形で汗ばんだ肩に顔を伏せた。 「力抜いて、託生。ゆっくりするから」 「やっ・・」 突き上げられてじわじわと下腹部が熱くなってわけが分からなくなる。 必死にしがみついたギイの首元からはいつもの甘い香りがする。託生が好きだと言ったらから、ギイは昔からずっとこの香りを使っている。 大きく息を吸い込んで吐き出すと、ほっとする。 気持ちいい。思わずつぶやくと、ギイが笑ったような気がした。 広げた脚をさらに開かされてぐっと前に引き寄せられた。もうこれ以上無理と思うくらい奥深くまでギイを飲み込んで、きつく揺さぶられて何も考えられなくなる。 「ギイっ・・・」 だめ、と引き絞るように声を上げると、互いの下腹部の間で擦りあげられていた先端からぱたぱたと蜜が溢れた。ぎゅっと強く抱きしめられたそのままベッドに押し倒された。 「託生・・・」 切羽詰まった呼吸に託生も煽られたように力の入らない腕をギイの背に回した。 何をしていても大好きだなと思うけれど、こうして一緒に同じ快楽を味わっている瞬間は言葉にできない不思議な感情が込み上げてくる。 この人しかいないんだなぁという今さらのような気持ち。 「ギイ・・・好き・・」 思わず言うと、ギイが託生のなかで大きく脈動した。 「は・・・ぁ・・」 離れがたいというようにギイが何度も託生にキスをする。 しばらくしてお互いの呼吸がおさまると、急に恥ずかしくなって託生はわたわたと脱ぎ散らかした服を集めた。 「何だよ、もう着ちゃうのか?」 「だって」 昼間っからまさかこんな展開になろうとは。 そりゃそういう気持ちになったのは託生の方が先だったし、自分から仕掛けてしまったけれど、我に返るとあまりにもいきなりすぎたと反省してしまう。 「まぁまだ片付けも残ってるしな。あー、腹減ったな。お茶にしよっか」 ギイがよっと起き上がり、優雅な仕草でシャツを身につけ始める。 相変わらずのカッコよさで見惚れてしまいそうになってしまいそうになって、慌てて視線を外した。 「ごめん、せっかく綺麗にベッドメイキングしてくれたのにぐちゃぐちゃになっちゃったね」 「大丈夫。夜までにちゃんとまた巣作りしておくから」 ぱちんと上手にウィンクして、ギイは得意げに笑い、さぁ今度こそ本当にお茶を淹れて一休みしようと託生の髪にキスをした。 新しい家はどこもかしこも綺麗で見慣れなくて。 まだ自分の家だという実感が持てないから戸惑うばかりだけれど、この大きなベッドのある部屋はいち早く二人でいて落ち着ける空間になってしまった気がする。 引っ越し初日の思い出としてはちょっといかがなものかと思わないでもないけれど。 「あ、そうだギイ、まだ食べるものは何もないよ、コーヒーしかない」 「えっ、嘘だろ。何かあるだろ」 「何もありません。片付けが済んだら買い物に行こうって言ってたじゃないか」 がっくりと肩を落とすギイもまた可愛くて、託生はくすくすと笑った。 部屋を出る時、くしゃくしゃになってしまったベッドが視界に入って、わーっと居たたまれなくなったし、やっぱりまだちょっとダブルベッドは恥ずかしいけれど、たぶんそれも普通のことになっていくんだろう。 好きな人と一緒に暮らすというのはきっとそういうことなのだ。 |