7通の手紙 おまけ 

託生にラブレターを書き始めて、6日目、とうとう託生が根を上げてもうラブレターはいらないと言って来た。
仕方ないので、明日、最後の1通を渡すことにしたのだが、どんなものにするかな、としばし考えた。
どうせなら、何かロマンティックなものがいい。
託生がうんと感動するような。
ふとオレはあることを思いついて、ペンを取った。
 
 
託生へ
この手紙を読んでいる託生はいったいいくつになっているのかな。
オレの予想では祠堂を卒業して10年くらいたった頃じゃないかと思うけど、もしかしたらもっと先にならないと読めなかったりするのかなぁ。
お前、ぜんぜん英語勉強する気ないもんな。
もう少し早くに読めるようになってくれているといいんだけどな。
 
これを書いている今、オレたちは高校3年生で、諸事情によって親しい友達のふりさえできなくて、お前に辛い思いばっかりさせてるよな。
本当はいつでも一緒にいたいけど、一緒にいられなくてごめんな。
だけど、未来の託生の横には、ちゃんとオレがいるだろ?
未来の託生は、オレの隣で笑ってるだろ?
そうなるための、今はちょっと試練のときだから、なんて都合のいい言い訳だよな。
 
たぶん、卒業してからはいろんなことがあったと思う。
オレ、託生のこといっぱい泣かせたんじゃないかなぁ。
祠堂にいる時も、共犯者になるって言ってくれた託生に甘えてばかりだったし、卒業してからもそうだったんじゃないのかな。
社会に出てからの、オレたちが付き合っていくことへの風当たりのきつさは、きっと生半可なものじゃないだろうって想像できる。
今、オレが想像してるよりもっと大変だったのかもしれない。
もしかしたら、この手紙を読んでいる未来の託生は、オレとのことで悩んでいる真っ只中だったりするのかな?
いろいろ迷って、傷ついて、これ以上オレと一緒にいるのは無理だって思ってたりするのかな?
だけどな、託生。
もし今、もうだめだって思っていたとしても、周りの連中の勝手な思惑なんかに絶対に負けないでくれ。
オレが絶対にお前のこと守るから。
何があっても、オレのことちゃんと信じてくれていいから。
オレは本当にお前のことを愛してるんだ。
絶対に手離したりなんかしないから。
 
この手紙を書いている時点のオレは、将来起こるであろういろんなことへの覚悟はできているんだけど、それを託生に求めるのはあまりにも酷かなって思ってた。
だいたいがオレのせいで起こる問題ばかりだろうしな。それを託生に押し付けるのはできないって思ってた。
だけどきっと、何も知らないままでは前へは進めない時がやってくることも分かっているから、だから託生は何も考えずに、
「ギイのせいだからギイが何とかしてよ」
って、開き直ってくれていいからさ。
いろんなこと、自分のせいにして、一人で泣いたりしないでくれよ。
 
もし、この手紙を読んでいる託生が、オレのそばで幸せに暮らしているのだとしたら(もちろんそうなっていると信じてるけど)、託生に言いたいことはたった一つ。
ありがとう。
いろんなことに負けないでいてくれてありがとう。
辛い思いもたくさんしただろうけど、オレのそばにいてくれてありがとう。
オレのこと、ずっと好きでいてくれてありがとう。
こんな手紙書いてると、これを読んだときの託生がどんな顔するか想像できて楽しくなるよ。
きっとびっくりして、それで感動してちょっと泣くんだろうな。
当たってるだろ?

こうしていずれくる未来を楽しみに待つことができるのは、すごいことだよな。
託生と一緒に幸せに暮らしてるって想像するだけで、オレはめちゃくちゃ強くなれる気がする。何があっても、負ける気がしない。
人を好きになるって、そういうことなんだよな。
そんな風に思えるのも全部託生のおかげだな。
 
これからもずっと二人でいような。
未来のオレは、今のオレより託生のことを愛してるって自信を持って言える。

そしてこれからもずっと愛してる。
 
大好きだよ、託生。
 
 
 
 
ペンを置いて、ひとつ息をついた。
「ずっと愛してる」
言葉にしてつぶやくと、それは言霊となって不思議な自信へと変わっていく。
未来のことなんて誰にも分からないと人は言うけれど。
人の心なんて移り変わっていくものだと、そんなことは百も承知だけれど。
けれど、オレには自信がある。
この先どんなことがあろうとも、託生への想いが変わることなどありはしない。
その形は変わるかもしれないけれど、愛情が薄れることは決してない。
何年後になるか分からないけれど、託生がこれを読んだときに、今のオレの気持ちが少しでも伝わればいいのにと願いをこめて、オレは封をした手紙に小さく口づけた。






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