からからから・・・と聞こえてくる小さな音。
手の中の小箱を眺めては、ぼくは小さくため息をこぼしてしまう。 「まったく、ギイってば・・・」 ぼくは小箱を机の上に置いて、頬杖をついた。 ギイからその小箱を渡されたのは、文化祭が終わって少したった頃だった。 「はい、プレゼント」 そう言ってぼくに差し出されたのは、木で出来た小箱だった。 いったい何のプレゼントだろう、とまじまじと小箱を眺める。だって、別に誕生日でもなければ、クリスマスでもない。何かのお祝い?何かあったっけ?? と、ぼくがあれこれと考えていると、ぼくの考えていることなんてすっかりお見通しのギイがくすっと笑った。 「別に何かのお祝いってわけじゃないよ。ただ託生へプレゼントしたかったんだ」 「え、でも・・・」 「ちょっとした暇つぶしに、な?」 暇つぶし? 言われて、ぼくはその箱に蓋がないことに気づいた。いや、そもそもこれ、箱なのか? 「知らないか?寄木細工だよ」 「寄木細工?」 「日本の伝統工芸。からくりになっててさ、手順通りに動かさないと、開かない仕掛けになってる。ちなみにこの箱は、手順は30手な。ちょっと難しいヤツだけど、それくらいじゃないと面白くないもんな」 「・・・・・パズルみたいなもの?」 「そうそう。で、中にオレから託生へのプレゼントを入れておいた。頑張って開けてくれよな」 そう言って、見目麗しきぼくの恋人は、綺麗にウィンクしてみせた。 今までカリフラワーだとか、クリスマスツリーだとか、ギイからはびっくりするようなプレゼントをいろいろされたけど、今度もまたややこしいものを・・・と、その時ぼくは少し面倒だなぁなんて思ったのだ。 けれど、ギイからのプレゼントはいつもぼくを楽しませて喜ばせるものばかりだ。 中に何が入っているんだろうか。 きっとぼくがびっくりするようなものが入っているんだろう。 ぼくは手にした小箱をからりと振った。 すると、からからと小さな音がした。 「ギイ、中に何が入ってるの?」 「それは開けてからのお楽しみ」 そう言って、ギイは楽しそうに笑った。 最初の5手くらいまではすんなりといった。 スライドさせて、次に中にある板を引っ張って。この調子なら楽勝だな、と思ったんだけど、途中で急に難しくなってしまった。いろいろと試してみても、小箱はうんともすんとも言わない。というか、動かない。 「困ったな」 上から下から、と小箱を眺めていたぼくの肩を誰かがぽんと叩いた。 「よ、葉山。頑張ってるようだな」 「赤池くん」 ぼくの隣の椅子を引き、手元を覗き込むようにして腰を下ろした。 そして、ぼくの足元にバイオリンケースがあるのを見ると、不思議そうな顔をした。ここは温室じゃないのにどうして、という表情だ。 最近、ぼくは可能な限りバイオリンケースを持ち歩くようにしている。 文化祭の時に、誰かが持ち出して行方不明になって以来、できるだけそばに置いていないと不安になるのだ。 あの時、ギイは魔法を使ってバイオリンを見つけてくれた。ぼくのせいじゃないと言って抱きしめてくれた。 けれど、ぼくの認識が甘かったのだ。それが高価なものだと知れば、面白半分にいたずらをしようという人間だって出てきたっておかしくはない。 だから、ぼくはもうギイに迷惑をかけたくなくて、出来る限りの努力と注意をしようと決めたのだ。 ギイの信頼を失いたくなかったから。 何よりこのバイオリンが大切だから。 放課後の学生ホール。 章三は手にしたカップのコーヒーを一口飲むと、ニヤニヤとぼくを見た。 「まだ開かないのか?それ」 「うん。行き詰っちゃったんだよ」 ギイからのプレゼント。ぼくが必死であけようとしていることは、仲の良い級友たちには知れ渡っていて、みんなことあるごとに「開いたか?」と声をかけてくる。 三年生の秋ともなれば、一応受験勉強真っ只中であり、みんな少なからずプレッシャーとストレスを抱えている。だから息抜きのために、何でもいいから楽しめることを求めているのだ。 ぼくと小箱はそのカッコウの餌食となった。 だいたい受験生にこんなものを贈ってよこすギイもギイだよね。 一応ぼくだって受験勉強はしなくちゃいけないっていうのに、かといって渡されたパズルを放っておくのも気になってしまってできない。こうなればさっさと箱を開けてしまおうと頑張っているのだが、どうにもこうにも行き詰ってしまったのだ。 「何手までできたんだ?」 「今、8手。まだあと22手もあるんだよ」 「ふうん、けっこう難しいヤツを選んだんだな、ギイのやつ。葉山が不器用なの知ってるはずなのにな」 「ほんとだよ・・・って、ちょっと赤池くん、何気に失礼なんだけど!」」 ははは、と笑って、章三がちょっと見せてみろよ、と手を差し出す。 ぼくは小箱を章三へと手渡した。 「懐かしいなぁ。昔、親父がお土産で買ってきてくれて、僕も持ってたよ。子供用だったから、ここまで難しいものじゃなくて、確か5手くらいで開いたはずだ」 「ふうん。有名な工芸品なんだね」 「まぁな、けどギイが知ってるなんて、あいつ、ほんと日本人より日本に詳しいよな」 「うん、そうだね」 「葉山、次の1手、動かしていいか?」 「えっ、分かったの?赤池くん!」 ぼくは思わず身を乗り出して章三の手元を覗き込んだ。 「たぶん、ここを、こうして・・・」 章三が思ってもみなかった板を横へとスライドさせる。すると、小箱はかたんと音を立てて形を変えた。 「すごい」 「まぁ、あれだな。こういうのはさ、まさかなぁって思うところを触ってみればいいんだよ。そこは違うよなーって思うところが大抵ビンゴだったりするからさ」 ほら、と章三が小箱を僕へと返す。 そうか、確かにこんな内側の板を動かすなんて思いもしなかったな。章三が1手を動かしてくれたおかげで、そのあとぼくはするすると3手進めることができた。 それにしても、だんだんと複雑になっているような気がしてならない。だって、スライドをして外れた板はたった2枚なんだ。こんな調子で箱は開くのだろうか? 「大丈夫だって、中にはギイからのプレゼントが入ってるんだろ?葉山に開けられないようなものをあいつが贈るとは思えないからな。粘り強く考えればそのうち開くさ」 「そうだね」 「検討を祈る」 章三はぴっと親指を立てると、空になった紙コップをくしゃりと潰してゴミ箱へと放り投げた。 「粘り強く・・・ね」 まったくギイってば何を考えているんだか。 さて、あと18手。 次の日の昼休み。 恒例の弁当会は音楽室で開催された。いつものメンバーで持ち寄ったお弁当を広げる。 ギイのお弁当は日替わり弁当で、ぼくのはハンバーグ弁当。当然のことながら、横からギイの箸が伸びてくる。 「ちょっと、ぼくのおかず取らないでよ、ギイ」 「いいだろ、代わりにオレのおかずやるからさ」 「いらないよ、ピーマンの肉詰めなんて」 「美味いのに」 「いりません」 「おい、そこの馬鹿っプル」 向かい側に座っていた矢倉が心底嫌そうな表情で声をかけてきた。 「ここは二人きりのゼロ番じゃないんですけどねー。って、ギイ、お前最近、惚気すぎだろ。ただ友設定はいったいどこへ行っちまったんだ?」 「別にいいだろ。どうせお前たち、そんな設定信じちゃいないんだし」 しれっと言い放ち、ギイはなおもぼくのお弁当に箸を伸ばす。 確かに矢倉の言う通り、最近ギイは去年に戻ったのかと思うくらいに、ごくごく普通にぼくに話しかけてくる。さすがに1年のチェック組がいるところではあからさまなちょっかいはかけてこないけれど、こうして気心の知れた仲間たちしかいないと、ほんとこっちが恥ずかしくなるくらいに甘い視線を向けてくる。 文化祭が終わったあたりからだろうか。 いや、もうちょっと前からかな。 ギイ、いったいどういう心境の変化なんだろう。 「ところで、葉山。例の箱はもう開いたのか?」 「まだだよ」 矢倉がデザート代わりのプチシュークリームの袋を開けて、みんなにどうぞと勧める。 「けっこう時間かかってるんだな」 「どうせぼくは不器用ですよ」 章三や矢倉なら、きっと1日で解いてしまうかもしれない、と思うと何だか悔しい。 「ギイ、お前、一度あれを解いたんだろ?」 「ああ」 「そりゃそうだよな、じゃなきゃ中にプレゼントは入れられない」 章三がシュークリームを頬張る。 「で、あと何手なんだ?」 ギイがぼくに聞く。 「んーと、18手かな」 「まだそんなにあるのか、先は長いなぁ」 苦笑して、ギイもまたシュークリームに手を伸ばす。 「そうは言うけどね。一日中にらめっこできるわけじゃないし、いつも寝る前にちょっと頑張るんだけど、すぐに眠くなっちゃうんだよ」 「はは、けどもうちょっと頑張ってくれないと、卒業までに開かないかもしれないなぁ」 「まさか、そんなにかからないよ」 いくらぼくでもそこまで不器用じゃない。 「なぁ、葉山、それ、ちょっと見せてくれよ」 最近は常に持ち歩いている小箱へと、矢倉が興味津々で視線を向ける。 ぼくははい、と小箱を矢倉へ手渡した。 「へぇ、寄木細工か。綺麗なもんだな。・・・ふーん、なるほどね」 「なるほど、って次の手、分かるの?」 ぼくは思わず声を上げてしまった。何だって章三も矢倉もそんな簡単に分かるんだ? 「いいのか?やっても?」 ぼくを見ながら、矢倉はギイへと尋ねる。ギイはうーんと少し考えてから、まぁいいか、と笑った。 「ちょっとくらいのヒントはあってもいいかな。卒業までには開けてほしいし」 「だから、そこまで不器用じゃないってば、ギイ!」 ニヤニヤと笑うギイの肩を拳で叩く。 矢倉は小箱をくるくると回し眺め、そしておもむろに小さな板をくいっと動かした。かたんと音を立てて、板が一枚外れる。 「お、外れたぞ」 「え、ほんとに?」 ほらよ、と矢倉がぼくへと小箱を返してくれる。あー、なるほどここが開いたのか。おかしいな、ぼくも試してみた所なんだけどな。首をかしげていると、矢倉が説明してくれた。要はそこだけを動かそうとしてはだめらしくて、片方の板を押さえたまま、もう片方を動かすと上手くいくらしい。 まったく、何だってこんなややこしい作りになってるんだ? 「で、ギイ。この中には何が入ってるんだ?」 矢倉の問いかけに、ギイは軽く肩をすくめるだけで答えない。 「何だよ、だんまりかよ。うーん、こんな小さな小箱に入っているもので、あの音。ふふん、分かったぜ」 「え、なに?」 ぼくが顔を上げると、矢倉はにんまりと笑った。 「指輪だ」 「ええっ?」 ギイ以外のその場にいた全員が驚きの声を上げた。 「あれだろ、ギイ。ただ友設定がどうにもこうにも我慢できなくなって、葉山に指輪を贈って、こいつはオレのもんだって自己満足に浸りたかったんだろ?」 どうだ、図星だろう、と得意げな矢倉の横で、八津がありえないな、というように首を傾げ、 「男が男に指輪・・・世も末だ」 章三が気味悪げにつぶやく。 「指輪・・・?」 そんなもの贈られても困ってしまう。ぼくがまじまじと小箱を見つめていると、ギイがこつんとぼくのこめかみを突いた。 「誰が指輪だなんて言ったよ。矢倉も勝手なこと言ってるんじゃねぇよ」 「じゃ中身は何だよ」 「ここでバラすわけないだろ?だいたいな、これは託生へのプレゼントなんだから、お前らはそんなに興味持たなくていいんだよ」 「ケチだな、ギイ」 矢倉の言葉に、ギイが呆れたように目を見開く。ケチとは何だ、ケチとは!と仲のいい二人は丁々発止の言い合いを始める。 ぼくはそんな二人のやり取りを聞きながら、手の中の小箱を見つめた。ほんとにこの中には何が入っているんだろう。矢倉の言う通り、箱の大きさからして中に入っているものもそれほどの大きさではないと思われる。からからと音がするってことは何か硬いものだよな。うーん、何だろう。 確かに指輪といわれれば、それっぽい音なんだよね。 「こら、託生」 ギイが黙り込んだぼくの頬をつまんだ。 「そんな怖い顔するなって。別に困らせるために渡したんじゃないんだからさ」 「・・・うん」 「ま、気楽に楽しんでくれればいいからさ」 楽しんで、って言われてもなぁ。 ギイのプレゼントはほんといつだって心臓に悪い。 矢倉が1手進めてくれたおかげで、そのあとまたするすると進んで、残り14手となった。 放課後、温室へバイオリンの練習をしに行く前に、教室の片隅で小箱の謎に取り組んでいると、 「あー、葉山、それが噂のパズルだろ?」 賑やかしい声と共に、目の前の席に高林泉が座り、ずいっとぼくの方へと身を乗り出した。 いきなり周囲がキラキラと眩しくなったような気がするのは、ギイと並ぶほどの美貌のせいなのかな。ギイで慣れたと思っていたけど、また違う眩さがあるな、と密かに感嘆する。 「ほらほら、吉沢、来てみなよ」 手招きされて、吉沢が申し訳なさそうに高林の隣の椅子をひく。 「葉山、それ、ギイからもらったやつだろ?」 「ああ、うん、そうだよ」 「何だ、もっと豪華な感じなのかと思ったよ。ずいぶんと地味なんだなぁ」 「高林くん、失礼だよ」 そっと吉沢がたしなめるものの、高林は聞いちゃいない。 「葉山、もう解けそうなの?」 「え、いやそれがなかなか・・・」 ふうん、と高林がぼくの手元を凝視する。うわ、何か急に緊張してきた。 しばらく無言でぼくがくるくると箱を回していると、呆れたように高林がため息をついた。 「葉山さー、そんなんじゃ開くわけないだろ?」 「え?」 ちょっと貸してよ、と言うなり高林はぼくの手から小箱を取り上げると、しばらくじーっと眺めたあと、「ここだよ」と言って、すいっと板をスライドさせた。 すると、あっけなく板が外れた。 「うわ、すごい」 思わず隣の吉沢が素直な感想を述べる。こんなの簡単だよ、と高林はまんざらでもないように、ぼくへと小箱を返す。そうか、簡単なのか?みんなけっこうすぐにどこがポイントなのか見抜くんだよな。 「ごめんね、葉山くん、勝手に解いちゃって」 「あ、ううん」 高林の代わりに(?)吉沢がすまなそうにぼくに謝る。 「何謝ってんだよ、吉沢!せっかく僕が解いてあげたっていうのに」 ばしっと吉沢の肩を叩き、高林がその頬をぷくっと膨らませる。喧嘩になりそうな気配を感じて、ぼくは慌てて二人に割って入った。 「大丈夫だよ、というか、むしろありがたいよ。次の手が分からなくて止まってたから」 「ほらね、吉沢」 高林の言葉に、吉沢はやれやれというように肩をすくめた。 「それにしても、ギイってば案外と面倒くさいことするよな。どうせプレゼントをくれるなら、さっさと中身が知りたいじゃないか」 「まぁね」 それはぼくも同意見だけれど、こんな風にわくわくしながら中身を考えるっていうのも、本当は楽しいからいいんだけどね。 「僕がそんなプレゼント貰ったら、その場ですぐに開けてくれって言っちゃうけどな。葉山もギイに頼んでさっさと開けてもらえば?」 「高林くん、それじゃあプレゼントの意味がないだろ?」 吉沢が苦笑する。 「きっとギイは、葉山くんに中身そのものよりも解いていく楽しさをプレゼントしたかったんじゃないのかな」 「そうかもしれないけどさぁ、何もこの時期にそんなもの渡さなくたって」 そろそろ受験勉強しないといけないって時に、という高林の言葉にも一理ある。 確かにどうしてこの時期にこんな手間のかかるものを? 「吉沢は僕にプレゼントくれるなら、回りくどいことはしないでよね」 「ああ、うん、分かった」 「約束だよ」 「分かったよ」 何となく二人の間に甘いムードが流れ始めたので、ぼくはカバンを手にすると、それじゃお先にと言って席を立った。 やれやれ。 一応禁止されているにも関わらず、吉沢と高林の仲は周知の事実で、ああやって人前でも平気で見つめあってはそばにいる人間を気恥ずかしくさせるのだ。 ただの友達のふりをしているぼくとギイとは大違いだ。 ほんのちょっと羨ましいような・・・・ いや、でも実際人前でいちゃいちゃするなんてこと、やっぱり恥ずかしくて出来ないんだけど。 ぼくは温室までの道すがらも小箱をあちこちといじりながら、早く解こうと試みた。 その夜、270号室のベッドに寝転んで、小箱をいじっていると、どこで噂を聞きつけたのか、利久が、 「託生ぃ、ギイからすっげぇ宝箱を貰ったんだって?」 と、能天気な笑顔でやってきた。まったくもー、みんなこういうこと大好きなんだよな。自分へのプレゼントでもないくせに、何だってそんなに楽しそうなんだろう。 「宝箱じゃないよ、ただの小箱」 ぼくが訂正しても利久は聞いちゃいない。 ぼくのベッドに腰を下ろして、興味津々で手元の小箱を覗き込む。 「なぁ、託生、あのギイがくれた小箱ってこれ?」 「そうだよ」 「何だ、普通の箱じゃないか」 「どんな箱だと思ってたんだよ、利久」 ぼくは起き上がってベッドの上であぐらをかいた。利久が見せてくれ、と言うのでぼくは小箱を手渡した。利久はしげしげと小箱を眺めまわした。 「だって、あのギイがプレゼントしたっていうから、てっきり宝石とかいっぱいついてる宝箱を想像してたのになぁ」 「利久、そんなわけあるはずないだろ?」 ぼくは呆れて利久を眺めた。 そりゃまぁギイのバックグラウンドからすれば、キラキラの宝石箱を想像してしまっても仕方ないかもしれないけれど、そんなものくれると言われたら絶対に断る。即効断る。 「これ、中に何か入ってるのか?」 「うん」 「宝石?」 「だから、何で宝石なんだよ」 真剣モードの利久に笑ってしまう。 「だーってあのギイだからさぁ」 「利久はギイに夢見すぎだよ」 「そうかぁ?」 まぁ気持ちは分からないでもないけどね。 何をやらせてもパーフェクトで、容姿端麗で。アイドルって言われると本人はすごく嫌がるけど、確かにギイは祠堂のアイドルには違いなくて、利久だってギイのことは大好きなのだ。 利久がここどうなってんだ?なんて触っていると、かたんと小さな音をたてて、プレートが一枚外れた。 「あっ!」 「えっ!?」 何と、何も考えずに触っていた利久は、そうとは知らずに1手進めてしまったようだった。 「わわわ、ごめん、託生。壊すつもりじゃなかったんだけどっ!!」 利久が慌てて小箱をぼくへと差し出す。 「違うよ、利久。これはからくりになってるんだ。手順通りに動かすと、最後に箱が開くんだって。壊したわけじゃなくて、むしろ1手手伝ってもらっただけだから」 「え、そうなのか?あーびっくりした。しっかし、さすがギイ。こういう楽しい細工、好きそうだよな」 まぁ、好きそうだけど、別にこれはギイが作ったわけじゃ・・・・ と思って、ふと考えた。 もしかして、ギイ、これ、特注だったりするんじゃないだろうか?だって30手なんて言ったらけっこう難しい部類だって赤池くんも言ってたよね。お土産なんかで売られているものがそこまで難しいものだとは考えにくい。だとしたら、ギイってばまだ我がまま言ってオリジナルで作らせたりしたのだろうか? だとしたら、やっぱりこの小箱自体もけっこうなお値段がしたりするのでは?? 宝石いっぱいの箱と、実は同じくらいの価値があったり、する?? 「どした、託生?」 「あ、ううん、ありがと利久。次の1手が分からなくて止まってたんだ」 ぼくが言うと、利久は安心したようにほーっと肩で息をした。 「そっか、良かった。なぁそれ中に何が入ってるんだ?」 「さぁ・・?・教えてくれなかったから」 「ふうん、じゃあ無事開いたら、何が入ってたか教えてくれよな」 「分かったよ」 ちょうどそこへ外出していた三洲が帰ってきたので、利久はじゃあなと言って部屋を出て行った。 利久と入れ替わりで270号室へ帰ってきた三洲は、ぼくの手にある小箱を見て、くすりと笑った。 「なに葉山、まだ開かないのか?」 「あー、うん、でも今利久が1手進めてくれたから、またちょっと進むと思うんだけど」 ぼくはうーんと伸びをした。 「けっこう難しそうだな」 「まぁ、ぼくにとっては、かな。だって赤池くんや矢倉くんも、みんな一目でポイントを見抜いて、解いちゃうんだよね。ぼくが考えてると、みんな笑って貸してみろってあっさり解いちゃうから、何だか悔しくて」 「別にみんな馬鹿にしてるわけじゃないって」 「そうかなぁ」 ぼくの不器用さをきっと内心楽しんでるに違いないぞ、あれは。 そう思って首を傾げると、三洲はくすりと笑った。 「葉山は友人に恵まれてるんだよ」 「え?」 三洲は制服の上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた。 「だってそうだろ。行き詰ると誰かが次の1手を解いてくれる。で、また次へと進む」 「ああ、そっか・・・そうだね」 言われてみれば、確かに行き詰ると誰かがそれを助けてくれる。章三や矢倉や利久や。 「そうやって誰かが自然と手を貸してくれるっていうのは葉山の人徳だな」 「そう、なのかな」 「素直に喜んでいいって。俺じゃそうはいかない」 そっか。 小箱を開けるという他愛もないことかもしれないけれど、困ったときに手を貸してくれる友達が自分にはいるのだということが、何だかすごく嬉しかった。 そんな友達ができるなんて、祠堂に入った頃には考えられなかったことだから。 「葉山、あと何手?」 「えっと、11かな」 「もう終盤だな」 「うん、頑張るよ」 「さっさと開けて、受験勉強に励まないとだめだしな」 「ほんとにね」 先に風呂に入るよと言って、三洲は洗面所へと姿を消した。 ぼくはよし、と気合を入れて、箱の謎に取り組むことにした。利久のおかげでそのあとは意外とするすると進めることができた。けれど、今までの経過から考えると、きっと何手か進んだあとに行き詰るんだろう。 そしてその予感は的中して、またもや箱はうんともすんとも言わなくなった。 「だめだ。あとちょっとなのに」 あと5手。 何とか開けてしまいたい気もしたけど、ぼくはどうにも眠くなってきてしまって、小箱を机の上に置いた。 たぶん、明日には開くだろう。 中にはいったい何が入ってるんだろうか。 うとうととしながら、ぼくはギイからのプレゼントについて考えていた。 そういえば、明日はギイがゼロ番においでと言ってくれていた日だった。よし、こうなったら、ギイの目の前で箱を開けてやろう。ちゃんと卒業までに開けられたってところを見せなくては。 次の日の消灯後、ギイのゼロ番を訪ねると、部屋に入ったとたん、ぼくは彼に抱きすくめられた。 「ちょっと、ギイ、びっくりするだろ」 「1週間、長かったから、待ちきれなかったんだ」 悪びれない笑顔でそう言って、ギイはぼくの頬にキスをした。そしてぼくがバイオリンケースを持っているのを見て目を細めた。けれど何も言わず、ぼくの手からバイオリンケースを取り上げた。 ギイはケースを机の上に置くと、ぼくをソファへと促した。 直前まで誰かいたのか、ソファセットのテーブルには二人分のコーヒーカップがあった。 「ああ、野川が来てたんだよ。時間通り帰ってくれてよかったよ。ここで託生とばったり、なんてなったら面倒だしな」 ギイは片手でカップを持ち上げると、洗面所へと片付けに入った。 「そっか、1年生以外にも相談にくるんだね」 「まぁなー、みんなオレのことを無料の人生相談員だと思ってるな、きっと」 水音とともにギイの笑い声が聞こえる。ぼくはソファに座ると、持ってきた例の小箱をテーブルに置いた。 結局、あれから進めることはできなくて・・・いや、集中できる時間がなくて、あのままになっているのだ。 だけどもうあと少し。絶対に大丈夫。 なので、このゼロ番で、ギイの目の前で開けてしまおうと思っていた。 「お、開いたのか、託生?」 洗面所から戻ってきたギイが、ぼくの隣に座って小箱へと手を伸ばす。 「あとちょっと。・・・ねぇギイ」 「うん?」 「この箱さ、もしかして特注だったりする?」 疑問に思っていたことを思い切って聞いてみる。ギイは一瞬瞠目して、すぐにいたずらっ子のような表情をしてみせた。その表情で、ぼくは予想的中したことを確信する。 「どうして分かったんだ?」 「だって、赤池くんが、30手のからくりはけっこう難しいっていうから、これ、お土産としても売られてるんだろ?だとしたらそんな難しいものって珍しいんじゃないかなって思って。もしかしたらギイのことだから、特注したのかも、って」 「へぇ、随分と理路整然と推理したんだなぁ、託生」 どこか嬉しそうにギイがぼくを見る。 「ギイってば、また島岡さんに我がまま言ったんじゃ・・・」 「我がままなんて言ってないって。オーダーメイドを聞いてくれる職人をちょっと探してくれないかって頼んだだけだよ」 「それが我がままだっていうの」 ほんとにギイは島岡さんを好き勝手私用で使うんだから、呆れてしまう。もっとも、聞いている限りでは、島岡さんも特にそれを迷惑がっている風でもなく、むしろ楽しんでいるっぽいんだから、やっぱり二人はいい関係なんだろうな、と思う。 「で、託生、オレの前で箱を開けてやろうって思って持ってきたんだろ?」 「へへ、バレたか。そうだよ。ちゃんと卒業までには開けられるってところを見せないとね」 「はは、じゃ、続きをどうぞ」 ギイは恭しく小箱を僕へと差し出す。ぼくは小箱を受け取ると、1手、2手と解いていった。 次がちょっと悩んだけど、それまでの謎を考えれば全然簡単で、とうとう最後の1手まで進めることができた。ギイはぼくの隣でその様子を見ている。 「・・・・ギイ」 「うん?」 もう箱は開くけれど、もし、もしも本当にみんなが言うように、中に指輪が入ってたら、どうしたらいいんだろう。ギイにしてみれば、軽い気持ちで贈るつもりだったのかもしれないけれど、どう反応すればいいか分からない。嬉しくないか、と言われればそんなことはないけれど、でもやっぱり困ってしまう。 そんなぼくの戸惑いを見抜いたのか、ギイがぼくの髪をくしゃりと撫でた。 「ほら、託生、開けてみろよ」 「うん」 ぼくは意を決して最後の板をスライドさせた。 ぽっかりと開いた小箱。 「あ、開いた・・・」 「お、とうとう。おめでとう」 ありがと、とつぶやいて、ぼくは恐る恐る中を覗いてみた。 「・・・・鍵?」 中に入っていたのは、鍵だった。 どこかで見たことがある・・・っていうか、これ、寮の部屋の鍵なんじゃ・・・? 「・・・・ギイ、これ・・・」 「うん、部屋の鍵」 「・・・どこの?」 「ここ。ゼロ番の」 言われて、まじまじと手の中の鍵を見つめた。 「え、でも部屋の鍵がないと、ギイ困るだろ?」 「あのな、託生。寮の部屋には鍵は二つずつあるんだよ。270号室だって二つあるだろ?」 「そりゃそうだけど、でもそれは二人部屋だから・・・」 同室者と一つづつ。 だけどギイのゼロ番は個室なのだ。てっきり鍵は一つだと思ってた。 「ゼロ番ももとは二人部屋だったんだと思うぜ。だから最初から部屋には鍵が二つあったんだよ。もちろん使うのは俺が一つだけだから、いつももう一つは壁にかかってたんだけどな」 なるほどね。階段長という制度ができたのがいつからなのかは知らないけれど、それまではこのゼロ番も普通に二人部屋だったんだ。 「で、どうしてこれをぼくに?」 まったく意味が分からないと、ギイを見上げるぼくに、ギイは一瞬逡巡して、そして小さく言った。 「託生、最近ずっとバイオリンケース持ち歩いてるだろ」 「・・・うん」 「あれは、託生のせいじゃないって言ったよな」 「・・・だけど・・・」 「本当に、託生が気にすることはないんだ・・って、いくら言ったところで、託生は気にするよな」 「だって・・・・」 ギイはうつむくぼくの顎先に指をかけて持ち上げた。 「だからさ、お前のバイオリン、オレが預かってやるよ」 「え?」 ギイの言葉にぼくはすっと血の気が引いた気がした。やっぱりぼくに貸しておくのは問題があるってことなのだろうか。ぼくじゃバイオリンを守れないから? もうギイの信頼を無くしてしまったって、そういうこと? 動揺するぼくに、ギイはしょうがないな、というように笑った。 「そうじゃないよ。託生のことを信用してないんじゃなくて、不安そうにしているお前を見ているのは、オレが辛いんだよ。だからゼロ番を金庫代わりにすればいい」 「ギイ?」 「もともとオレのものだから、オレの部屋にあってもちっともおかしくはないだろう?で、オレはそれを託生に貸している。だから、託生は好きなときにオレの部屋からバイオリンを持って行っていい。そのためには鍵が必要だろ?いつもいつもオレが部屋にいるとは限らないんだから」 ギイは飄々と言うと、ぼくの身体を抱き寄せた。 「いいアイデアだろ?もっと早く気づけばよかったよなぁ」 オレとしたことが、とギイが低く唸る。 「だけどギイ、そんなことしたら・・・」 ぼくたちがただの友達だなんて、誰も思わなくなる。ギイの部屋の鍵を持って、好き勝手に出入りするなんて、誰か見たって特別な関係だと思うだろう。 「オレ、やっぱりいろいろ間違ってのかもしれないなと思ってさ」 「何が?」 「託生は特別な存在じゃないって周りに思わせるより、託生は別格だから、手を出したら痛い目にあうぞってアピールした方が良かったなって」 「ギイ、痛い目って・・・」 大げさな言い方にぼくは笑ってしまう。 「ま、とにかくさ、元クラスメイトの、元同室者に、バイオリンを貸してたっておかしくないし、もしそれでオレたちの仲を疑われたって、もういいんだ」 「ギイ・・・?」 「誰にどう思われようと、オレが託生のこと守るから」 「・・・・・」 「誰にも傷つけたりさせない」 「・・・ぼくは平気だよ、ギイ」 どこか切羽詰った感じのするギイの頬にぼくはそっと触れてみる。 バイオリン事件のせいで、確かにぼくは一時期ずいぶんと落ち込んだし、ギイに申し訳なくて不安にもなったけれど、だけどそのせいでギイが無理をする必要はないんだ。せっかく辛い思いをしてただの友達のふりをしてきたのに、その方が都合がいいはずなのに、それなのに・・・ 「ありがとう、ギイ。ぼくのこと、心配してくれて」 「当たり前だろ、お前、オレの恋人なんだから」 「うん」 「とにかく、使うにしろ、使わないにしろ、これはお前が持ってろ。しばらくオレの部屋を金庫代わりにしてみたらいいからさ。やっぱり面倒だなって思ったらやめてもいいし」 そう言って、ギイはぼくの手のひらに鍵を握らせる。 「ついでに、オレの部屋にいつでも夜這いにきてくれていいからさ」 いたずらっぽい瞳のギイに、ぼくはうっかり赤面して、ぱちんと頬を叩いた。 「痛いって」 「もう、もしかしてそっちの方が本当の目的なんじゃないの?ギイ」 「あれ、バレたか?」 冗談めかして、けれどギイの言葉は本気っぽくて、ぼくは笑ってしまう。 ああ、だから卒業までには箱を開けて欲しいって言ってたのか。 確かに卒業してからじゃ、鍵は何の意味も持たなくなる。 「ところで託生、これ難しかったか?」 テーブルの上の箱に視線を向けて、ギイが尋ねる。そうだった、とぼくは我に返る。 「難しかったよ。途中で何度も行き詰ったんだ。みんなにも何も受験のこの時期にこんな時間のかかるものって言われたよ」 「・・・・・・」 「なに?」 「あー、いや、まさかそんなに時間がかかるとは思ってなくてさ。まぁ丸1日あれば大丈夫かと思ってたんだよなぁ」 「何それっ!」 それじゃあぼくが本当に不器用だってことじゃないか!!失礼なヤツだな、とぼくが拳を振り上げると、ギイは笑ってそれを軽く受け止めた。 「ごめんごめん、だけどちゃんと解けたじゃないか」 「えーっと、実は一人じゃ無理だったと思う。いろんな人に助けてもらったんだ」 「矢倉とか?」 「最初は赤池君、あとは矢倉くんに高林くん、それから利久にも」 「何だそりゃ、お前、頼りすぎだろ」 ギイが呆れたように笑う。 「そうじゃなくて、ぼくが頼んだわけじゃなくて、みんな見かねて助けてくれたっていうか・・・」 「へぇ」 「三洲くんにさ」 ぼくは三洲に言われたことを思い出した。 「葉山は友人に恵まれてるって言われて、すごく嬉しかった。みんなぼくが困ってたら、笑って手を貸してくれたんだ。それが、小箱を開けるっていうちょっとしたことでも、逆に、絶体絶命の危機であっても、たぶん赤池くんも矢倉くんも利久も、きっと高林くんだって、手を貸してくれようとするんじゃないかって、そう思ったら、何だかちょっと泣きそうだった」 「そっか」 「みんなのおかげで、この箱は開いたんだよ」 何だかぼくとギイのことを、応援してくれてるみたいで・・・本当に勝手な思い込みだけど、そう思えて、ぼくは本当に嬉しかったのだ。 ギイは優しく笑うと、ぼくの頬に手を添えて、そっとキスをした。 「みんな託生のこと好きだからな」 ぼくはその言葉に、そうじゃないと首を振った。 「ぼくのことだけじゃなくて、みんなギイのことだって大好きなんだよ?」 「・・・・・・」 「ギイは、3年になったとき、ぼくのために一人で頑張ろうとしたけれど、本当はみんな手を貸してくれたと思うよ。助けて欲しいって一言言えば、みんなギイのこと助けてくれたと思う」 「ああ・・・・」 「何でも一人で頑張らなくていいんだよ、ギイ」 ぼくじゃ助けにならなくても、章三や矢倉や、ギイの力になれる人はたくさんいるのだから。 ギイはぼくの言葉に細くため息をついた。 「ああ・・・そうだな・・・・やっぱりオレ、いろいろ間違ってたよな。託生のことになると、冷静な判断ができなくなるって、いつも章三に言われてる」 「反省した?」 「しました」 くすくすと笑って、ギイはぼくを腕の中へと招き入れた。甘い花の香りに包まれて、ぼくはほっと身体の力を抜いた。こうしてギイに抱きしめられるのも久しぶりで、すごく安心する。 「だけど、まさか鍵が入ってるなんて思わなかったなぁ。ギイのプレゼントはいつも意外だよね」 「何だと思ってた?」 「え、ぜんぜん分からなかったけど、矢倉くんが言うみたいに指輪だったらどうしようって、ちょっと心配してた」 「心配って何だよ、心配って」 ギイがむっとしたようにぼくの耳を引っ張る。 「だって、そんなの出てきたらびっくりするよ。素直に喜べないっていうか・・・・」 「お前なぁ・・・・」 ギイはがっくりと肩を落として、けれどすぐに顔を上げると、おもむろにぼくの左手を取った。 「指輪は二十歳になったらちゃんと贈るよ」 そう言って、ちゅっと音をさせて薬指にキスを落とす。 王子様のようなその仕草にうっかり見惚れてしまったけれど、ぼくはすぐに我に返って手を引っ込めた。 「い、い、いらないからっ!」 「今度はすぐに開けられる箱に入れて贈るからな」 「だからっ、いりませんからっ!」 「楽しみにしてろよ、託生」 だから話を聞けってば!! さっき冷静になるって言ったばかりなのに、ぜんぜん反省してないじゃないか!! ぼくの文句を口付けで塞いで、ギイはぼくをソファへと押し倒した。 甘く舌を絡められて、抵抗なんてできなくなる。 きゅっと握り締めていたゼロ番の鍵が、手のひらから落ちて、床で小さな音を立てた。 ぼくがやっとの思いで開けた小箱を、ギイはあっという間にまた元の形に戻してしまった。 「ギイはその箱、どれくらいで開けたの?」 「うーん、そうだな、30分くらい?」 しれっと言われて、やっぱり何だか悔しい気がしてならなかった。この箱に関しては、ギイには友達からのヘルプは必要なさそうだ。 箱が開いたと知る級友たちは何が入っていたんだと聞いてきたけれど、さすがにゼロ番の鍵だとは言えなかったせいで、 「やっぱり指輪だったんだろ!」 と矢倉は得意げに言ったが、ぼくもギイもそれには笑って誤魔化すことにした。 手の中に残ったゼロ番の鍵。 それはただの鍵ではなくて、ぼくにとっては自分がどれほど友人に恵まれているのかを思い出させてくれる、大切な鍵となったのだった。 |