罪なき願い


その時、ぼくは利久の部屋で久しぶりに将棋の勝負をしていた。
三勝一敗。
なかなか悪くない感じで、ぼくたちは向き合ってパチパチとコマを動かしていた。
「託生ー、それ待った」
「待ったはなしって決めただろ」
「けちー」
「ケチじゃない。利久ってばそんなことばっかり言ってるから強くならないんだよ」
「う、まぁそうだけどさぁ」
ぶつぶつと文句を言いながら利久が次の手を考える。
控えめなノックが聞こえたのは、そろそろ勝負がつきそうになってきた時だった。
「はい、どうぞー」
利久が盤から顔を上げずに声を上げる。
扉が開いて顔を覗かせたのは吉沢道雄だった。
「よぉ、吉沢。どしたー?」
「ああ、葉山くん、ここにいたんだ」
「こんにちわ」
吉沢はどこかほっとしたようは表情を見せて、お邪魔しますと部屋に入ってきた。
「何、吉沢。託生に用事?」
めずらしいな、と利久が首を傾げる。それはぼくも同じで、何かあったかな、と吉沢を見た。
「あー、片倉くんと将棋の最中じゃ忙しいよね、葉山くん」
「え?うん、でも、もうちょっとで勝負つきそうだから・・・」
「何だよ、託生。まだ勝負はこれからだろっ!」
いや、どう見てもぼくの勝ちだろう。なのにさっきからずっと利久はあーでもないこーでもないと考えているのだ。
「何か用?吉沢くん」
「うん、えっと、葉山くんって麻雀できたっけ?」
「麻雀?」
ぼくと利久は同時に声を上げた。
何となく、吉沢と麻雀という単語が結びつかなかったのだ。
寮ではありとあらゆるゲームがそこかしこで行われている。
テレビが各個室にあるわけではないし、ゲーム機器の持ち込みが認められているわけでもない。
となると、もっとオーソドックスなゲーム、将棋、オセロ、囲碁、トランプ、ボードゲームなどなどがメジャーなところだが、麻雀も密かに人気がある。けれど麻雀は覚えることが多いし、点数の数え方は難しいし、なかなかちゃんとできる人が少ないのだ。
そして大っぴらではないけれど、麻雀をするとなると少なからずのお金が動くのだ。
他のゲームだとそんなことは起こらないのに、どうして麻雀だと博打性が高まるのか不思議である。
なので、賭け事とは程遠いイメージのある吉沢の口から麻雀の単語が出てぼくたちは驚いてしまったのだ。
「吉沢って、麻雀するんだ」
「ああ、うん、できるよ。お正月に家族とか親戚とかでやるんだ」
「へぇ、何か驚いた。な、託生?」
「うん、そうだね」
吉沢は照れくさそうに笑った。
「で、託生に麻雀のお誘いなわけ?」
利久が聞くと、吉沢はうんとうなづいた。
「そうなんだ。どうしても一人足りないって。矢倉くんに探してこいって頼まれたんだよ」
「ああ、矢倉か。あいつ好きそうだよな」
矢倉の名前が出て、ぼくもなるほどと納得できた。
今年の1階の階段長の矢倉柾木。彼と話をするようになったのは3年になってからで、正直なところまだ彼のことをよく知るわけではなかった。
八津とのことがあって、彼が見た目ほど軽い男ではなく、むしろ一途な男なのだということは知っているのだけれど、それでもまだ謎めいた・・・と言えば聞こえはいいが、どことなく裏の顔があるというか、胡散臭いところがある印象で、彼なら賭け麻雀をしていても全然不思議じゃない、と思ってしまうのだ。
まぁよく知らないといいながら、こんなこと考えるのも相当失礼だなぁとは思うのだけれど。
とにかく、矢倉はギイとも仲がいいし、八津とのことでもいろいろと関わりあいもあったりで、ぼくも以前よりはずっと矢倉とは気安くはなっていた。
「片倉くんは麻雀できないって知ってたからさ、葉山くんはどうかなって」
どうやらあちこちでメンバーになってくれそうな人に声をかけては断られてきたようで、吉沢は申し訳なさそうにぼくを見る。
「託生って麻雀できんの?」
「え、うん・・・点数数えるのは無理だけど、普通に遊ぶくらいならできる、けど」
「ええ、ほんとか?」
利久が思わずといった感じでぼくを見る。何でそんなに驚くんだ?
ぼくと麻雀ってそんなに繋がらないのかな。
「良かった。じゃ、葉山くん、悪いけど、その勝負が終わったら付き合ってもらえないかな」
「え・・・でも、あの・・・」
「良かった。誰か連れて帰らないと、矢倉くんに何言われるか分かったもんじゃないから」
「よ、吉沢くん、ちょっと待って」
「じゃああとでね、あ、場所は1階のゼロ番だよ。よろしく」
吉沢はぼくが行かないと言いださないように、そそくさと部屋を出ていってしまった。
ぼくは唖然としてしまった。
あっという間に参加が決まってしまったじゃないか。
メンバーも聞いてないというのに。
「矢倉主宰の麻雀大会なら、豪華な面子が集まりそうだなぁ」
のんびりと利久がつぶやく。
豪華な面子?
羨ましいなら、行けばいいじゃないか、利久め。って、麻雀できないんだっけ。
「ギイも来るんじゃないのか?」
「え?」
突然ギイの名前が出て、ぼくは一瞬にして心臓が高鳴った。
利久はさすがにもう勝ち目はないと思ったのか、将棋盤を片付け始めた。
「だって、ギイも階段長だし、矢倉とも仲いいだろ?」
「そうだけど・・・ギイは来ないよ」
「どうして?」
「今日は街へ出かけてるから」
「そうなんだ。託生やっぱり詳しいな」
何気ない一言にはっとした。
「あ、別に直接聞いたとかじゃなくて、あ、赤池くんが、そんなこと言ってたから・・・」
3年に進級してから、ぼくとギイはただの友達という設定で、去年と打って変わって疎遠になったふりをしている。
だけど本当は昨夜、ギイから直接聞いたのだ。

『明日の日曜は所用で出かけるからさ。お土産買ってくるな』

そう言って、愛おしそうな目をして笑ってくれた。
だから、今日は彼は寮にはいないのだ。いたらきっと矢倉に誘われて1階のゼロ番にいることだろう。
ん?でもギイって麻雀できるのかな?聞いたことないけど。
「託生、麻雀強いのか?」
利久の言葉にぼくは首を傾げる。
「どうだろう。普通じゃないかな」
「矢倉がけっこう強いって噂だぜ」
「ああ、でも矢倉くんて何してもちゃんとできそうだよね」
「まぁなー。あとで応援に行くからさ、頑張れよ、託生」
いったい何を頑張ればいいのやら。
しょうがないので、ぼくは利久の部屋を出て、いったん自分の部屋へと戻った。
いないと思っていた三洲が中にいて、机に向かって真面目に教科書を開いていた。
「三洲くん、今日は生徒会の仕事はないの?」
「日曜ごとに呼び出されちゃたまらないよ。たまにはゆっくり勉強もしたい」
ゆっくり勉強だなんて、ぼくなんかは一生口にすることはない台詞だ。さすが三洲。
ぼくは机の引き出しを開けると、この前街に降りたときに買ったお菓子の箱を取り出した。
「あ、三洲くんも食べる?」
「うん?ああ、ありがとう。じゃあ一つもらおうかな」
おすそ分けと言って、ぼくは箱から菓子を一つ三洲の机に置いた。
「また出かけるのか?」
「うん。矢倉くんのとこ。これは差し入れにと思って」
誰が来てるかは分からないけど、ちょうどおやつの時間だし、食べるものがあった方がいいだろう。
わざわざ売店まで買いに行くほどのことではないけれど、買い置きがあったのを思い出したので部屋に戻ってきたのだ。
「1階のゼロ番?珍しいな」
「うん、麻雀の面子が足りないらしくて、吉沢くんに頼まれたんだよ」
「・・・葉山、麻雀できるのか?」
さっきの利久同様、三洲も怪訝な顔をする。どうしてみんなぼくが麻雀できるって言うとそんなに驚くんだよ!
「それ、メンバーは?」
三洲に尋ねられて、ぼくは苦笑した。
「さぁあんまりよく知らないんだよね。吉沢くんが来たんだから、参加してるんじゃないかな」
「吉沢が麻雀できるって知らなかったな。階段長の集まりなら野沢とか崎とか?」
「ギイは・・・今日は寮にはいないから。でも野沢くんはどうかな、もしかしたら参加してるかも」
ふうんと三洲は何かを考えるように黙り込み、そして机に向かうとメモ用紙に何やら書き始めた。
書き終えるとメモを折りたたみ、ぼくへと差し出した。
「なに?」
「これ、矢倉に渡してくれ。おやつもらったお礼だよ」
ぼくのおやつのお裾分けのお礼?
何だろ。
「葉山は読まなくていいから」
「?」
いったい何が書かれているのだろうか?
健闘を祈る、と三洲に言われてぼくは頑張るよ、と返した。
メモをポケットに突っ込んで、ぼくはおやつ片手に一階のゼロ番へと向かった。
ノックすると、中から矢倉がどうぞーと返事をしてきた。
「お邪魔します」
「よお、葉山、参戦してくれるって?」
現われた矢倉が満面の笑みでぼくを迎えてくれた。
部屋に入ると、すでに吉沢はソファに座っていて、どうやらお茶の用意をしている途中のようだった。ぼくはお土産、と言って持ってきたお菓子を手渡した。
「おお、さすが葉山。気がきくなー」
矢倉はサンキューなと笑った。
「それにしても、葉山が麻雀できるなんてなー。思いもしなかったぜ」
「あのさー、どうしてみんなぼくが麻雀できるっていうとそんなに驚くのかな、失礼だろ」
何となく馬鹿にされてるような気がするのは考えすぎだろうか?
矢倉は楽しそうに笑うと、まぁ座れよとと入ってすぐのソファを進めてくれた。
「いやー何となく葉山と麻雀って結びつかないだろ?だからまさか葉山が参加してくれるなんて思わなかっただけで、別に他意はない」
「ほんとかな」
「ほんとほんと」
言いながら顔が笑ってるじゃないか。
「ぼく以外に誰がくるの?」
「あー、野沢と赤池が参加確定。いつも同じ面子じゃつまらないし、交代で楽しくやろうってことになったんで、葉山も誘って、もう一人くらい野沢が誰か連れてくるはず」
「ふうん」
結局・・・・6人くらい集まるってこと?麻雀って4人なのにずいぶん予備要員がいるんだな。
「吉沢は用があるんで途中で抜けるんだよ」
ぼくの考えが読めたのか、矢倉が言う。
「もともと俺が麻雀やりてーって思って、野沢はすぐに乗ってくれたけど、さすがに二人じゃできないだろ?ギイでもいれば最悪3人打ちもできたけど、あいつこういう時に限って出かけてるしさ。吉沢に声かけて、どこかで調達してこいーって頼んだんだよ」
なるほど。何とも気の毒な話だ。
矢倉は手際よくテーブルの上にフェルト生地の麻雀用の布を被せると、ベッドの下から麻雀セットを取り出した。
ぼくも久しぶりの麻雀だったが、あのじゃらじゃらという音を聞くと、何故かわくわくとしてきてしまう。ギャンブラー気質はまったくないはずなのに、おかしいなぁ。
「葉山、強いのか?」
「普通だと思うけど。矢倉くん強いんだって?」
「まぁな。1年の頃は毎週のようにやってたからなぁ」
これといった娯楽がないから、当然といえば当然だよね。
ぼくも準備を手伝っていたら、そこへやってきたのは野沢政貴と章三と、何と真行寺だった。
「あ、葉山さんだ」
真行寺がぱっと明るい笑顔を見せる。
「え、葉山さん、麻雀できるんっすか?」
「だから、どうしてみんなぼくが麻雀できるっていうとそんなに驚くのかな」
「え、いやー、だって葉山さんと麻雀は結びつかないっていうか・・・」
ぼくが不機嫌な声を出したせいか、真行寺が少し困ったように章三を見る。
「確かに葉山は麻雀するタイプに見えないよな」
「ひどいな、赤池くんまで」
「まぁまぁ。良かったよ、葉山くんが麻雀ができてさ」
政貴の台詞にどういう意味だろう、とぼくは首を傾げる。
「ほら、こんな風に大勢でゲームするってなるとできるゲームも限られてくるし。麻雀はルールを知らないと見てても楽しくないだろ?」
「ああ。そうだね」
「ギイがいればもっと良かっただろうけど、まぁたまにはギイ抜きで楽しもうよ」
にこにこと政貴が言うと、みんなそうだそうだとうなづいた。
唯一の下級生である真行寺だけは、先輩だらけの中で少しばかり緊張しているようだけれど、彼は体育会系の人なので、こういう場にも慣れているんだろう。
だいたい年功序列の厳しい祠堂で、先輩が遊んで行けと言えば断れるはずもない。
矢倉も吉沢も章三も、決して怖い先輩でもないし無茶を言う先輩でもないとは言え、3年生ばかりの中で楽しく麻雀なんてできないだろうな、とぼくは気の毒になった。
「あっ、そうだ」
もう少しで忘れるところだった。
「どうした、葉山」
「三洲くんから矢倉くんにメモを預かってきたんだよ」
「三洲から?」
ポケットから取り出したメモを渡すと、矢倉はどれどれと中を確認した。読んで、そして露骨に嫌そうな顔をした。
「どうした?」
章三が矢倉の手からメモを奪い、読み上げる。
「なになに・・・『矢倉へ。俺の同室者をカモにしないこと。今度賭け麻雀をしたら生徒会長としてそれなりの措置を講じるので覚悟しておくように』だって?はは、矢倉、三洲にすっかり見透かされてるじゃないか」
章三がニヤニヤと笑ってメモを矢倉へと返す。
メモの内容に、ぼくは開いた口が塞がらない。
「カモって何だよ。矢倉くん、ぼくからお金を巻き上げるつもりだったのかい?」
「いやいや、葉山相手にそんなことするわけないだろ。ギイにバレたら殺される。けどな、この手のゲームで何も賭けないなんてつまらないだろ?」
「そうかな」
「100円でも賭けてるとやっぱりこう、テンションが違うというか、血の巡りが良くなるというか」
「矢倉先輩、ギャンブラーだったんすね」
はーっと真行寺がため息をつく。
そういえば、真行寺以外のこのメンバーってちょっとした賭け事とかが好きな顔ぶれだ。
風紀委員長の章三でさえ、取り締まるどころか、自分も一緒になって楽しむのだから始末に負えない。
もちろんそれは気が置けない仲間内だけではあるのだけれど。
「まぁ座れって、適当に交代しながら遊ぼうぜ。三洲大先生の忠告通り、今日は金は賭けないってことでさ」
当たり前である。一応ぼくたちは高校生なんだぞ。
矢倉はほらほらとみんなを促す。
最初は章三と野沢以外の4人がテーブルを囲んだ。じゃらじゃらと牌を掻き混ぜて、手際よく並べていく。
「葉山さん、麻雀強いんすか?」
「真行寺くんこそ、強いのかい?」
「どうですかねー、剣道部の仲間の中では一番ですけど」
あっけらかんと言うけれど、それってけっこう強いってことじゃないのかな?
矢倉も強いっていうし、政貴も何となく侮れない。
もしかして、この面子の中でぼくが一番弱かったりするのだろうか。
「まぁ最初はお手並み拝見ってとこだよなー」
「だよね」
矢倉の言葉に政貴がうんうんとうなづく。
何だかまずい面子の中に飛び込んじゃったみたいだなぁ。
ぼくは自分の牌を並べ替えつつ、密かにため息を漏らした。
ぼくの後ろに座る章三はぼくの手の内を見て、ふうんとうなづく。
「赤池、葉山に余計なアドバイスするなよ?」
「しないって。僕は誰かに肩入れするようなことはしない。たとえ葉山が弱かったとしても」
「絶対に勝つ」
明らかに面白がっている章三の口調に、ぼくは力強く牌を切った。


ゲームは滞りなく進んだ。何しろぼくにしてみれば初めての顔合わせなので、みんながどういう手でくるのかイマイチ分からなくて、様子見だったところがある。
そろそろ最終局面を向けて、ぼくが引いた牌を捨てると、それを見た真行寺が、
「すんません、葉山さん、オレそれでロンです」
と申し訳なさそうに言った。
「お、真行寺いい手だなぁ。何だよ、お前、それ持ってたのかー。俺ずっとそれ待ってたのに」
「葉山もあとちょっとだったんだな」
「みんなリーチかけてたし、誰があがってもおかしくなかったってことだね」
最初は真行寺が勝ち、2局目、3局目と進んでいき、途中でおやつ休憩が入り、またゲームが進んでいく。
その間、最近の学校で話題になっている噂や、街で見つけた店や、それぞれがハマっていることや、とにかく何てことのない話で盛り上がった。
一時間ほどすると、吉沢が用があるので、と帰っていった。
その時ぼくは予備要員として面子からは外れて、みんなの手を見ながら、誰が勝つかなーなんて勝手な予想をしたりして楽しんでいた。
ここまでの勝負の結果としては、章三がトップで、次が矢倉、その次がぼくで、続いて真行寺、最後が政貴というところだった。
「あ、ツモだ」
のんびりと政貴が言って、ぱたりと牌を開けた。
「うおー、お前何だよ、その手は!!」
「満貫か。やるな」
「良かったよ、ここまで連敗だったから」
にこにこと柔和な笑みを浮かべて、政貴が点棒を集める。
あーあとみんなが少し凝り固まってきた体を解す。
そろそろ2時間が経過して、だいたいみんなの様子も分かり、まぁ言ってみればここからが勝負と言ったところだろうか。
「なぁやっぱり何か賭けようぜ」
とうとう矢倉がそれを言い出した。絶対どこかで言い出すんじゃないかと思ってたので、ぼくも、他のみんなもさほど驚きはしなかった。
「賭けるって言ってもなー、三洲から釘刺されてるから、金はまずいぞ」
章三がもっともらしいことを口にする。
何しろ真行寺もいるので、さすがに後輩から金を取るのはだめだろう。
「まぁな」
「ジュースとか菓子とかにするか?」
「つまらん」
それくらいを奢ったり奢られたりするのは日常茶飯事なので、矢倉としてはギャンブラー魂に火が点かないらしい。
「負けたら罰ゲームにしようぜ」
「またっ!?」
思わずぼくは叫んでしまった。
このメンバー、ほんとに罰ゲーム好きだよなー。ほんと勘弁してほしいよ。
「何だよ葉山。負ける気満々じゃないか」
「そうじゃないけど。矢倉くんの罰ゲームって厳しいからなー」
「厳しくしないと罰ゲームじゃないだろうが」
そうかもしれないけど、さ。
他のみんなはそれでいいと言うし、ぼくだけ嫌だなんて言うわけにもいかず、渋々ながら承諾した。
「よっしゃ!本気出すぜー」
「矢倉、張り切りすぎ」
「何かめちゃくちゃ怖いんすけど」
「ぼくだって嫌だよ」
みんなぶつぶつと言いながら、じゃらじゃらと牌を掻き混ぜた。
ここからは真行寺が抜け、代わりにぼくが入った。しばらく膠着状態で淡々と順番が回った。

(いい手なんだけどなぁ、でもどうも章三が狙ってるっぽいんだよなぁ)

ぼくは引いた牌を睨んでどうするべきかを考えた。
だけど今さら狙ってる手を変えるわけにもいかないので、意を決して点棒を投げた。
「リーチ」
「ロン」
「ええーっ!!」
ぼくが切った牌で、矢倉がよしっとガッツポーズをする。

(やられた)

矢倉のやつー、ぜんぜんまだまだですみたいな顔してたくせに、しっかり狙ってるじゃないか!

「悪いなー、葉山」
「くーっ、めちゃくちゃ悔しい」
だけどこういうゲームでは焦ったりすると駄目なのだ。心を平静に保って・・・と分かってはいるのに、やっぱり負けると悔しいし。
もしかしたら、そんな気持ちの乱れがよくなかったのかもしれない。
そこからはずるずると負けが続いた。
何だかおかしいな、と思い始めた頃には、
「葉山さん、まずいっすよ」
後ろで見ていた真行寺がぼそっと呟いた。
うん、これは確かにまずい。あれよあれよという間に、最下位になっているような気がする。
どういうわけか、あれからぼく以外のみんなが勝ち始めたのだ。
勝負は時の運というが、どうやら風向きが変わってしまったようである。
「葉山も下手でもないし弱くないけど、あれだな、勝負運がない」
章三がさらりと辛辣なことを言う。
「だよな。何でだろうな?」
矢倉も首を傾げるが、どうもその目が笑ってるような気がしてならない。
何だかすっごく腑に落ちない。
結局そのあと2局が終わって、僅差ではあったけれど、ぼくは最下位で終わってしまった。
いや、厳密にえば真行寺が最後は参加してないので、正しい順位は分からないのだけれど。
「あー。楽しかった。久しぶりに堪能したぜ」
それはそうだろう。
結局合計4時間はやっていたんだから。
ぼくはぐったりとソファに倒れこんだ。いい勝負だったのになー。ああ悔しい。
何だかんだ言っても、男ってこういう勝負には負けたくないって気になるんだよなー。
「さーて葉山。罰ゲーム決定だぞー」
「分かってるよ。何すればいいんだよ?」
こんな賭けをしたなんてギイにバレたら怒られそうだなぁと、何の脈絡もなく思った。
それはある種の予知だったのかもしれない。





休日の食堂は同じ時間に寮生たちが集まるので、けっこうな人混みになる。
ぼくは祈るような気持ちで食堂に足を踏み入れ、ぐるりと中を一瞥した。
「葉山、顔が強張ってるぞ」
「当たり前だろ」
矢倉がニヤニヤと笑いながらぼくの肩をつつく。
章三は白々しく背伸びなんかして、同じように食堂を見渡した。
「ああ、あそこにいるな」
「えっ」
指差す方向を見ると、いつものように1年のチェック組に囲まれたギイがいた。
どうして会いたい時にはいないくせに、会いたくない時にはいるんだろう。
「ほら、行け、葉山」
「や、やっぱりやめようよ。人が多すぎる」
「馬鹿。多くないと楽しくないだろうが」
「そうだぞ、葉山。お前、負けたんだから覚悟を決めろ」
「そうだよ、葉山くん。大丈夫、ちゃんとフォローするからさ」
章三も政貴も他人事だと思って、まったく気楽なものだ。
「は、葉山さん。こうなったら頑張るしかないっすよ」
真行寺までもがどこか気の毒そうな表情をしながらも、どこか楽しそうだ。
「はーやーまー」
「わかったよっ!やればいいんだろ。やれば!!」
ぼくはごくりと喉を鳴らして、重い足取りでギイへと近づいた。
どうしようか。もういっそこのままダッシュで食堂から逃げてしまおうか。
いや。そんなことしたら、矢倉あたりに倍返しされてしまいそうだ。

(だけど、こんなの絶対無理だよ。無理無理・・・)

無理でもやらなくてはならないのが罰ゲームである。
ぼくがちらりと後ろを振り返ると、矢倉、章三、政貴、真行寺が、じーっとこっちを見ている。そんな見張らなくてもちゃんとやるのに。信用ないなぁ。

(ああ、だけど、どうしよう。こんなことなら死んでしまいたい)

なんて思って息を止めてみても苦しいだけだ。
ぼくはのろのろとギイへと近づいた。
周りを陣取る1年のチェック組たちは、相変わらずギイへとあれこれ話しかけ、だけどギイは聞いているのか聞いていないのか、ほぼ無表情だ。
ああいう表情のギイは、案外怒ってたりするんだよなぁと長い付き合いから、ぼくはぼんやりと思ったりした。
ぼくがギイが座るテーブルの脇に立つと、気づいたギイがつと顔を上げた。
ぼくを見て、驚いたように目を見張る。
それはそうだろう。
3年になってからはただの友達のふりをしていて、こんな人目の多いところじゃ一緒にいるようなことはしていないのだ。ましてや1年生たちのいる時に声をかけたりはしない。
ギイの視線に気づいた1年生たちもぼくを見る。
邪魔をするな、とでも言いたげな視線は、けれどこの時のぼくにはまったく気にならなかった。
「託生?どうかしたのか?」
いっそ余所余所しいほどのギイの声色に、胸がぎゅーっと痛くなる。

(あああ、どうしよう)

背中に突き刺さる矢倉たちの視線も痛い。
何だかだらだらと嫌な汗が出てきたような気がして、本当にもう逃げ出したくて涙が出そうだ。
「託生?」
何も言えずにいるぼくに、ギイの表情が心配そうなものに変わる。
それを見たとたん、駄目だと思った。
そんな顔したら、ギイとぼくが親しい仲だとチェック組にバラしてるようなものじゃないか。
ぼくは大きく息を吸い込むと、もうどうにでもなれという気持ちで口を開いた。
「ギイ・・・」
「?」

「ギイ、愛してるっ」

勢いづいて、思ったよりも大きな声になってしまった。
混雑時の食堂でもその声は周囲に十分聞こえるもので、ぼくが言ったとたん、一瞬にしてその場が凍りついた。

(し、し、死ぬしかないっ!!!)

周囲からの唖然としたような、チェック組からは嫉妬めいた視線。
何よりギイの呆気に取られた表情。

(は、恥ずかしいにもほどがある!!!)

もしぼくが戦国時代の武士だったら、間違いなくこの場で切腹だ。
切腹したい!!!!本当にしたい!!!
そんな馬鹿なことしか頭には浮かばない。
顔は真っ赤だろうし、これ以上ないくらい不審人物だ。

「託生?」

ギイが立ち上がり、ぼくへと近づこうとしたその瞬間、がしっとぼくの肩を背後から誰かが掴んだ。
それは矢倉と政貴で。
え、と思う暇もなく、彼らはぼくのすぐそばで、さっきのぼくに負けないくらいの大声で叫んだ。

「俺も愛してるぜ、ギイ!」
「俺も愛してるよ、ギイ」
「・・・僕も愛して・・る」
「お、お、俺も・・・愛してるっす、ギイ先輩・・・」

麻雀メンバーが全員、その場でギイに告白をした。





「いやいや、葉山って本当に生真面目だよなー。最後の最後で逃げるんじゃないかって思ったんだけどなぁ」
めちゃくちゃ楽しそうにのたまうのは矢倉だ。
ここは3階のゼロ番。ギイの部屋だ。
「まったく、何だって僕までギイに愛の告白なんてしなくちゃならないんだ」
章三が納得できないとばかりに吐き捨てる。
「そりゃあ全員で言わないと、これはゲームの罰ゲームですって周りにアピールできないだろ?」
政貴が、ね、と真行寺を見る。
「はぁ・・・確かに、俺たちが言ったことで、その場は一気に和みましたけどね」
真行寺がはぁとため息をつく。
麻雀の罰ゲームにとぼくに科せられたのは
『大勢の前でギイに愛の告白をすること』
だった。
そんな馬鹿げたことできるわけがない、と何度も言ったけれど、罰ゲームなんだから絶対にやれと矢倉に言い切られた。だけどそんなことをしたら、ただ友設定の意味がなくなる。そういい募るぼくに、
「大丈夫、ちゃんとフォローするから」
と、矢倉はどこか得意気に胸を張った。
それがあの、みんなでギイに告白だったのだろう。
確かに、ぼくに続いてみんなが告白すれば、その告白には何の意味もなく、単なるゲームの一環でしかなくなる。実際、チェック組の連中も、なぁんだという顔をして苦笑していた。

「死んでしまいたい・・・」

みんなから見えない位置にあるギイのベッドに突っ伏したぼくは、さっきから泣き出したい気持ちを必死で堪えていた。
確かにあの告白は冗談だと思ってもらえただろう。
けれど、公衆の面前で、ギイに告白をするなんて恥ずかしいことをしたという事実は同じじゃないか!
「はーやーまー、そんなに落ち込むことはないって。人の噂も75日だろ」
「祠堂じゃもっと早く終わるしな」
「そうっすよ、葉山さん。俺たちだって明日はきっとみんなにからかわれるだろうし」
皆口々に勝手なことを言う。
「託生」
ギイがコーヒーを片手にベッドに端に腰掛ける。
「ほら、そんなに落ち込むなって」
「落ち込むよ」
「どうして?」
「だって・・あんな恥ずかしいこと」
ギイはうつ伏せになったぼくの髪をさらりと撫でた。
「オレは嬉しかったけど?」
そっと顔を上げてギイを見ると、その言葉通りギイは嬉しそうな顔でぼくを見ていた。
「あんな風にみんなの前でオレに愛してるなんて言ってもらえるなんて、一生ないって思ってたからなぁ」
「・・・ニヤけすぎだよ、ギイ」
ギイは皆が見てないと思ってか、ふいっと身を屈めるとぼくの頬にキスをした。
「あー、久しぶりに楽しかったなー、な、赤池?」
「まぁな。葉山のあの緊張っぷりは見ててドキドキしたけどな」
くそー、みんな言いたいこと言ってくれるよ。
「葉山、恥ずかしいことさせたお詫びに、三洲には根回ししとくから、今日はゼロ番に泊めてもらえよな」
矢倉がそれじゃ帰るか、と立ち上がる気配がした。
それに続いて章三も政貴も真行寺も立ち上がる。
ギイが皆を見送ろうとしたその時、
「じゃあギイ、これでこの前の麻雀の借りは返したからな」
と矢倉が言った。

(何だって?)

その言葉にぼくはベッドから飛び起きて、みんなの前へと駆け寄った。
「ちょっと待って、矢倉くんっ!!!」
「ああ?」
ぼくはぐるりとその場の全員を見渡した。
どこか気まずそうにしているのは真行寺を除く麻雀メンバーだ。
「・・・今、何だかすごく気になる言葉を聞いたんだけど」
「そうか?気のせいだろ」
「いや、絶対に聞いた。麻雀の借りって何のことだよっ」
ぼくが詰め寄ると、矢倉は明後日の方向を向いて、隣の章三を肘で突いた。
何で僕だよ、というように章三が舌打ちする。
それでもぼくが逃がさないぞというように一歩前に出ると、章三はちらっとギイを見たあと白状した。
「だからさ、1ヶ月ほど前かなぁ。階段長主催で麻雀大会をやったんだよ。その時の勝者がギイでさ、僕たちに出された罰ゲームっていうのが・・・」

『託生から愛してるって言われたいなぁ』

という馬鹿げたものだったらしい。
つまり、どうにかしてぼくに「愛してると言わせるように」という指令が罰ゲームとして出されたのだ。
矢倉たちは唖然としたらしいけれど、ぼくだって唖然としてしまう。何なんだよ、それは。
そりゃ今さらといえば今さらなんだろうけど、一応、みんなの前でも「ただ友」設定じゃなかったのか?
それなのにそのリクエストは何なんだ???
「だから、酒が入ってたんだよなぁ」
ギイが決まり悪げにうんうんとうなづく。
「みんなけっこう酔ってたんだよ。で、罰ゲームのリクエストができるなんて言われたからさ」
「言われたからさ?」
「たぶん、普段押し殺してる欲望が、こう、ぽろっと・・・」
「出たんだ?」
「まぁ、そうだな」
ぼくの怒りを次第に感じてきたのか、ギイもまずいと思い始めたようで、声が小さい。
「つまり」
ぼくは腰に手を当て、なるべく怒りを爆発させないように全員を見渡してゆっくりと確認するように言った。
「1ヶ月前の麻雀大会で勝ったギイの馬鹿げたリクエストに応えるために、矢倉くんたちは今回の麻雀大会を開いて、ぼくにそれを言わせるために・・・・」
「・・・・」
「ぼくのこと、皆で嵌めたんだねっ!」
ようやく気がついた。
だって、麻雀を始めてすぐに思ったのは、ぼくだけがそれほど弱いってわけじゃなさそうだな、ということだったのだ。
そりゃ勝負は時の運だから、同じレベル者同士だって誰かが負けることになる。
それなのに後半は、見事にぼくばかりが負けていた。
あれは、きっとみんなで仕組んだことだったんだ。
「やっぱりバレちゃったね」
緊迫した雰囲気の中、さすがというべきか政貴がにこりと笑う。
「途中で気がつくんじゃないかって思ってたのに、葉山くんぜんぜん気づかないから」
気づくわけないよ。そんなインチキ。
憤るぼくに、まぁまぁと章三が手を上げる。
「騙してたのは悪かったが、こうでもしなけりゃ無理だったからさ」
「何が?」
「だから、葉山に、「ギイ愛してる」なんて言わせるのが、さ」
章三が面倒臭そうに肩をすくめる。
そりゃそうだろう。
もし面と向かってそんなことを頼まれたって、絶対お断りだ。
愛してないからとかじゃなくて、そんなこと頼まれて言うことじゃないからだ。
「ごめんね、葉山くん。だけど、みんなでギイに愛の告白をして冗談にしちゃったし、葉山くんだけが笑われるようなことはないからさ」
政貴が手を合わせる。
ぼくはちらりと真行寺を見た。ぎくりとしたように真行寺が身をすくめる。
「ややや、俺は本当に何も知らなかったっすよ!!!インチキにも加わってませんから!」
「それは本当だぜ、葉山。真行寺はまぁ言ってみればカモフラージュの一人だよ。
ほら。オレたちばっかじゃやっぱりバレるかなーって思ったからさ」
矢倉が悪びれた様子もなく言ってのける。
ああ、と真行寺ががっくりと肩を落とす。騙されたのは真行寺も同じということらしい。
まったく、何ともいい迷惑な話である。
「とりあえず・・・」
ぼくは一つ息をついて、矢倉たちににっこりと微笑んだ。
「悪いけど、三洲くんにちゃんと根回ししておいてくれるかな。ぼくは今夜、ギイとじっくりと話がしたいから、って」
じっくり、という単語に力を込めて言うと、みんな顔を引き攣らせた。
結局、何もかも元凶はギイだったということが判明したのだから、これはもうきっちりと話をつけなくてはならないだろう。
ぼくの笑顔に、逃げるようにして矢倉たちはそそくさとゼロ番を出て行った。
「あの・・・託生くん?」
二人きりになったゼロ番で、ギイが恐る恐るぼくに声をかける。
「託生、怒ってる?」
「当たり前だろ・・・ギイの馬鹿げたリクエストのせいで、ぼくがどれだけ恥ずかしい思いをしたと思ってるんだよっ!」
「まぁまぁ、あんなの誰も本気にしてやしないって」
そりゃ確かに、矢倉を始めとすると階段長に風紀委員長、剣道部のエースという祠堂のトップスターたちが、いかにもって感じでギイに愛の告白をしたおかげで、ぼくの告白なんてみんなすっかり記憶の彼方だろう。
それでも、騙されていたことにはやっぱりちょっとは腹が立つ。
ギイがぷいっとそっぽを向くぼくの顔を覗きこむ。
「なぁ、オレだって、あいつらがあんなことするなんて思ってなかったんだぜ?あんなリクエスト、もうみんな忘れてると思ってたしさ」
確かに、ギイのリクエストなんて反故にしたっていいような内容だ。
それでも、こんな詐欺まがいの真似をしてまで実行したのは、もしかしたらギイを元気づけようと思ったからだろうか。
それってもしかしたら・・・
ぼくはじっとギイを見つめた。
「どうした?」
「ギイ、あんなリクエストしたのって、ぼくがそういうこと言わないから?」
「え?」
愛してるなんて、ギイはまるで挨拶代わりのようにぼくに言ってくれるけど、ぼくは恥ずかしさから言えなくて。
普段押し殺してる欲望がぽろっと出たってギイが言ったのは、冗談じゃなくて本心だとしたら、それってぼくのせいってことなのかな。
ぼくがもっとそういうこと、ちゃんとギイに言ってればあんなリクエストしなかったのかな。
そんなぼくの考えを見抜いたのか、ギイが困ったように小さく笑う。
「何だよ、お前、たった今まで怒ってたくせに」
「だって」
しょうがないヤツ、とギイがぼくをぎゅっと抱きしめる。
甘い花の香り。久しぶりのギイの体温に、ぼくはそっとその背中に腕を回した。
「愛してるって、もう一回言って、託生」
「・・・言わないよ」
笑って、ぼくはギイの胸元に頬を埋める。
「オレは愛してるよ」
「・・・・・」
「世界で一番愛してる」
うん、とうなづいて、ぼくはまたそれをギイにばかり言わせてることに気づく。
ついさっき反省したばかりだというのに、ほんとに自分でも呆れてしまう。
ぼくはそっとギイの腕を解くと、おずおずと彼を見つめた。
「えっと・・・ぼくもちゃんと、愛してる・・・から」
小さな囁きに、ギイの表情がふわりと緩む。
「大好きだよ。ギイ」
照れくさくて、だけどちゃんと彼を見つめてそう告げる。
掠め取るように触れた唇が合図となって、ぼくたちはもう一度抱きしめあった。



ぼくたちの馬鹿げた告白劇は、もちろん次の日には学校中の生徒が知るところとなっていた。
ギイが相手というだけで、
「俺も告白したかったなー」
などという、本気か冗談か分からないような台詞もあちこちで聞いた。
何はともあれ、幸いなことにあの告白が本気のものだと思う人は誰もいなくて、ぼくとギイの仲を疑われることもなかった。
ただ一つ、今回のどたばた騒動の被害者といえば真行寺である。
実は食堂でのあの告白劇の場に三洲もいたらしく、どれだけ裏事情を説明しても、ギイに告白をした真行寺を許してくれないようで、
「葉山さん、何とかしてくださいよー」
と、毎日泣きつかれることとなった。
真行寺は100%被害者なので、何とかしてあげたいとは思うのだが、何しろ相手は三洲である。
「困ったな」
優秀な頭脳を持つ階段長たちもどうしたらいいか分からず、頭を悩ませる日々がしばし続いたのだった。




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あとがき

しまった、結局ウハウハなのはギイだけになってしまった。