選択


「託生〜、Trick or treat」

お菓子をくれなきゃイタズラするぞ

ギイが満面の笑みを浮かべてぼくへと手を差し出した。

今夜はゼロ番に来いよな、と約束させられたぼくは、絶対にギイがさっきの台詞を言うつもりだなと予想していた。そして見事に予想的中。
ハロウィンなんて、日本じゃまったく馴染みがない。
だけど、ギイがそう言ってくるだろうことは分かっていた。
だって、去年もそうだったから。
去年はいきなりそう言われたから、ギイに渡すお菓子なんて何もなくて、当然の権利とばかりにぼくはギイにいたずらされてしまった。
思い出すのも恥ずかしいことをいろいろされてしまった。
だから、今年はちゃんとお菓子を用意した。
というか、去年のその話を知った同室の三洲が、ぼくのためにお菓子を用意してくれたのだ。
「これを渡せばイタズラされずにすむだろう?」
崎の好きにさせるんじゃないぞ、と念を押され、ぼくはそうだねとうなづいた。
袋いっぱいのお菓子。子供が喜びそうな大量のお菓子をいったい三洲はどうやって用意したのか、実はそっちも気になるのだが、まぁそれはさておき。
ぼくは差し出されたギイの手に、意気揚々とそれを置いた。
さぁ、どうだ、と言わんばかりに。
「はい、お菓子」
「・・・・」
「一気に食べちゃだめだよ。けっこう量があるから」
小さな子供に諭すようにぼくが言うと、ギイは無表情なままお菓子の袋をぽいっとテーブルに放り投げた。
「ちょっとギイ!」
「ま、お菓子くれたって、イタズラはするけどな」
「えーーーーっ!!!!」
何だよ、それ!
お菓子あげたんだから、それはないんじゃないのか!?
ギイは文句を言うぼくの身体を抱きすくめると、そのまま彼のベッドへ雪崩れ込んだ。
ぼくは逃げようと試みるものの、がっちり腕を組まれて身動きができない。
「ギイってば!ずるいよ、そんなの」
「ずるくない」
「ずるいっ!」
くすくす笑うギイのシャツを引っ張るけれど、びくともしない。
「託生、お菓子は半分こしような」
余裕の笑みを見せて、ギイがぼくの頬に口づける。
「お菓子なんていらないよ」
「んじゃ、お菓子の代わりにオレは?」
「・・・・・・」
妖しく囁かれて言葉につまる。
何だよ、その選択肢は。
お菓子なんていらないから、イタズラしないで欲しい。
何度も何度も小さくキスされて、結局ぼくは諦めざるを得なくなる。

(お菓子をくれた三洲に、いったい何て言えばいいのだろうか)

ハロウィンなんて嫌いだ!


***


山ほどの菓子を葉山に持たせてやったが、この時間になっても帰ってこないということは、やっぱり崎にいたずらされてしまって、帰るに帰れなくなってしまったんだろう。

(まったく、葉山は崎には甘いからな)

この分では、どうやら点呼は誤魔化しておくしかないようだ。
これでまた崎にひとつ貸しができたな、と思っていると、いきなりノックもなしに扉が開き、
「アラタさん、トリックオアトリート〜」
と、馬鹿真行寺がやってきた。
もちろん俺は慌てず騒がす、葉山に持たせてやったのと同じ菓子袋を真行寺に差し出した。
「えー、何ですか、この豪華なお菓子セットは!!」
真行寺がぎょっとしたように顔を強張らせる。
「お前がやってくるだろうと思って用意しておいたんだが?何か不服か?」
「不服ですよー!!いやいや、このお菓子はめちゃくちゃ魅力的なんですが!」
それはそうだろう。
何しろ真行寺が好きそうな菓子ばかりを詰め合わせたのだから。
育ち盛りでお菓子大好きな真行寺は、袋の中の菓子に目を輝かせていたが、すぐに唇を尖らせて俺を見た。
「何だ?」
「お菓子はめちゃくちゃ魅力的ですけど、俺、やっぱりアラタさんの方がいいっす」
そう言って、ずうずうしくも俺の身体を抱き寄せた。

(こいつ、また身長が伸びたんじゃないか?)

ったく、どうせ育つなら中身も少しは成長したらどうなんだ。
などと少しばかり腹が立ったが、ぎゅっと抱きしめられて、その温かさにうっかり目を閉じてしまう。
「確かに俺より菓子を取られるのもシャクだな」
俺の言葉に真行寺がきょとんとした表情を見せる。
こういうところも子供っぽくて、つい笑いが漏れた。
「泊まっていってもいいぞ、真行寺」
「へ?」
「葉山はどうせ帰ってこない」
「ええ?」
「崎も菓子より葉山の方がいいってことだ」
その意味が分かったのか、真行寺が赤くなる。
自分だって同じようなことをするくせに、何赤くなってるんだか。
俺は真行寺の首筋を引き寄せて口づけた。
ひとりしきの甘い口づけに、真行寺が照れくさそうに笑う。
「お前、俺を取ったんだから、あの菓子は置いていけよ」
「ええ!ひどいっすよ、アラタさん」
「うるさい」
「じゃせめて半分こということで」
真面目な顔して、ぱんっと手を合わせる。こういうところも子供っぽい。
苦笑する俺に拗ねた表情を見せて、そしてそっと手を取った。
「好きです、アラタさん」
「・・・・」
「お菓子よりずっとずっとアラタさんの方が好きです」
用意した菓子よりもずっと甘い囁きに、真行寺の手の温もりに、胸の奥が熱くなる。
来年はもうこんな風にハロウィンなんて過ごせない。
だから今日は特別だ、と自分に言い聞かせて、誘われるままにベッドに横になった。



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あとがき

意外と真行寺*三洲でも甘い話が書けるかも!!(笑) 恋人って認めたら腹くくって甘えて欲しいなぁ。あ、ギイ託はいつでも甘くてやっぱり楽しいv