びっくりするほどの人混みだったが、幸いなことにはぐれることはなかった。 というのも、年下の恋人が周りより頭一つ背が高いせいだ。 こいつはいったいどこまで伸びる気だ、と理不尽な怒りが湧いてくる。 ようやくたどり着いた神様の前で、ヤツは神妙な顔つきで手を合わせた。 俺は別段神様にお願いするようなことはなかったが、とりあえず賽銭を入れて、手を合わせた。 (・・・・・受験が上手くいきますように・・ていうのが妥当なところなのか?いや、家内安全とか・・・。いや・・・) 目を開けてすぐ隣で熱心にお参りをする真行寺を見る。 そして、本当に願いたいことはたった一つだったと思いなおす。 「アラタさん、何願いました?」 「家内安全」 「何っすか、それは!俺とずっと仲良くできますようにって祈ってくださいよ!」 「何でそんなこと」 「ひどい」 「じゃあお前は何を願ったんだ?」 「アラタさんの受験が上手くいきますように、って」 「・・・・・」 「あれ?だめでした?」 「・・・べつに」 (お前だってそういうこと願ってるんじゃないか) 思わず言いそうになって、口を閉ざす。そんなこと死んでも言いたくない。 「ここは勉強の神様だっていうから、たぶん効き目ありますよ」 「はいはい」 「アラタさん、ずっと仲良くできますようにっていうのは、やっぱり恋愛の神様にお願いしないとだめっすよね〜、明日一緒に行きませんか?」 「行かない」 「行きましょうよ〜」 駄々っ子みたいに言い募る真行寺に足を止める。心もち上向いて、ヤツを見据える。 「もうさっき祈ったからいい」 「はい?」 「勉強の神様でも、少しくらいは聞いてくれるだろ」 つまらんことで受験勉強の邪魔をするな、と言い捨てて歩き出す。 真行寺の嬉しそうな顔を見るのは気恥ずかしくて、歩く速度を速めた。 |