思いがけなくギイがぼくと一緒に初日の出を見るためだけに日本へ戻ってきてくれた。 「ゆっくりできなくてごめんな」 と言うギイが始発に乗るのを見送って、ぼくは自宅へと戻った。 家の中はまだひっそりとしていて、コタツの上に残されたギイが使っていた湯のみを見て、何だかちょっと寂しくなってしまった。 さすがに母さんに見つかるとまずいかなと思って台所で片づけをしていると、驚いたことに絶対に起きてこないだろうと思っていた母さんが顔を覗かせた。 「託生、ずいぶん早いのね」 「母さんこそ・・・」 「お正月ですもの。なぁに、お腹でも空いたの?」 「ああ、うん・・」 そういうことにして、ぼくは濡れた手をタオルで拭った。 「父さんが起きてくるまで我慢できる?」 「大丈夫だよ、でももう一回寝ようかな」 「そうね、まだ早いから。起こしてあげるわよ」 母さんはエプロンをして、朝の準備を始める。 「託生」 「なに?」 「今年はいい年になるといいわね」 「・・・うん」 去年のお正月はこんな風に母さんと話をすることはできなかった。 この1年でぼくはずいぶんと変わった。 ギイがいたから、ぼくは変われたんだ。 たった数時間会うためだけに、アメリカから戻ってきてくれたギイ。 自分がどれほど大切にされているのか、今さらのように実感できて、ぼくはまたちょっと泣きたくなる。 ポケットに突っ込んだままの年賀状の、まるで子供が書いたようなギイの絵に笑いが漏れた。 ギイがアメリカに着いた頃に電話してみよう。 何だかとてもギイの声が聞きたくなってしまったから。 |