「葉山、これ頼む」 顔を上げると、そこにはギイがいた。 いきなりのことに、ぼくは本当に心臓が止まるほど驚いた。 図書室の中には誰もいなくて、カウンターにいるぼくが対応しなくてはいけない。 貸し出しカードに、彼が差し出した本の名前を記入する。 ぼくなんかが読もうとは思わないような本ばかりで、ちょっと驚いてしまう。 難しそうな本ばかりだな、と思った。 「それ、けっこう面白いから、葉山も読んでみれば?見た目よりも難くない」 ギイはいつも気軽に話しかけてくれる。 どれだけぼくが返事をしなくても、ちっとも気を悪くした風もない。 「・・・返却期日は1週間後、20日だから」 「・・・ああ。サンキュ」 そっと本を彼へと押し出す。彼の指先に触れないように。 本を受け取っても、彼はその場から動こうとしない。 「なに?」 「一人で平気?」 「・・・・たいてい一人だよ。みんなサボるから」 「平気ならいいんだ。またな、葉山」 まるで気安い友達にするように、軽くて手を上げてギイは図書室を出て行った。 (一人で平気?) 平気じゃないと言ったら、いったいきみはどうするつもり? 優しくなんてして欲しくない。 ぼくのことは放っておいて。 そう思っているのに・・・ ギイの貸し出しカードに並んだ本の名前。 ぼくでも読めそうな本はないかな、と考えている自分がいた。 |