夜遅くに帰ってきたギイは、めずらしく赤い顔をしていた。 「あれ、飲んでるの、ギイ?」 スーツの上着を受け取ると、ギイはちょっとなーとため息をついた。 「ん?」 ふわりと鼻腔をくすぐる甘い香り。 いつものギイのコロンとは違うその香りに、ぼくは手を止めた。 「・・・女の人の匂いがする」 「えっ?」 あからさまな動揺に、ぼくはふーんとそっぽを向いた。 「託生、ちょっと待て、おかしな誤解するな」 「してません。どうせパーティで一緒になった女の人に『崎さんは結婚はまだしないんですか?』とか聞かれて、適当に誤魔化してたら『私じゃだめですか』とか言われちゃって、抱きつかれたりしたんだろ?」 「・・・・お前、最近鋭いなぁ」 感心したようにギイがうなづく。 そりゃね。 もう何年一緒にいて、何回同じようなことを経験していることか。 「で、その続きは?」 ギイが楽しそうにぼくを抱き寄せる。 「・・・・で、ギイは『オレには恋人がいますから』って答えたんだろ」 「そ。誰よりも愛してる人がいるので、って丁重にお断りしました」 それもお約束の結末だ。 だからおかしな誤解はしないし、ヤキモチなんて妬いたりしない。 「いや、ヤキモチはたまには妬いて欲しいんだけどなぁ」 どこか残念そうなギイの言葉に、ぼくは馬鹿馬鹿しいと肩をすくめて、夜食のお茶漬けを作るためキッチンへと向かうのだった。 |