Missing



夏が過ぎ、ぼくはクローゼットの中の衣服を片付けていた。
音大へ入学して一人暮らしを始め、身の回りのことはすべて自分でするようになった。
祠堂での寮生活のおかげで、そういうのは苦にならないし、毎日が新しいことの発見で、できなかったことができるようになるのは楽しかった。
ベッドの下の衣類箱を引っ張り出して、秋物をハンガーにかけた。
「あれ?」
ポケットの中でかさりと何かが音を立てた。
探ってみると、そこから出てきたのは映画の半券だった。
「・・・ああ・・懐かしいな」
ギイと、最後に一緒に観に行った映画の半券。
文化祭の少し前だった。章三に勧められて二人で麓の街へ行った。
ギイがいなくなる、ほんの少し前のこと。
暗い映画館で、手を繋いでスクリーンを見つめていた。
「何だかずっと昔のことみたいだな」

もう1年がたつ。
ギイがいなくなってから。

「あれ・・・?」
半券の上に落ちた水滴に、ぼやけた視界に、喉元が熱くなる呼吸に、ぼくは自分が泣いていることを知る。
もう慣れたはずなのに。

ギイのいない生活に。
ギイのいない毎日に。
ギイのいない・・・

「・・・・っ」

ギイがいなくても時間は過ぎる。笑うこともできるし、夢中になれるものもある。
それなのに、どうして忘れられないんだろう。
溢れる涙は止まることなく頬を伝い、ぼくはきつくきつく目を閉じた。


BACK

あとがき

そんなシチュの歌がありまして。