何か冷たいものが頬に触れた気がして目を開けた。 「三洲くん?」 小さな問いかけは同室の葉山のものだ。 薄暗い部屋の中、どういうわけか葉山がベッドサイドに膝をついて俺の顔を覗きこんでいた。 「どうした、葉山?」 「それはこっちの台詞だよ。三洲くん、うなされてたよ」 「ああ・・・起こしたか・・悪い・・・」 夜半過ぎから胃が痛くなってきて、眠ってしまおうと思っていたのだけれど、たぶん痛みに耐えかねて声が出ていたんだろう。 「中山先生呼んでこようか?」 「いや、いい・・・っつ・・・」 「どこか痛い?」 「ちょっとね、葉山、悪いんだけど机の中に胃薬があるんだ」 「うん、ちょっと待って」 葉山が胃薬と水を持ってきてくれる。 「悪いな。しばらくしたら治まると思うから」 「うん」 痛みをこらえるために丸めていた身体を、労わるように葉山がそっと撫でる。 「三洲くん、力抜いて、楽にした方がいいよ」 言われるままに、体を伸ばしてみる。 「大丈夫、すぐに薬が効いてくるから。眠って」 葉山の手がみぞおちの上に当てられる。ふんわりとした温もりにほっとした。 手当てとはよく言ったもので、人の手の温もりで痛みが引いていくような気がするのだから不思議だ。 (そりゃあ手放せないわけだよな、崎) 別に何ができるというわけでもないけれど、葉山がこうしてそばにいてくれるだけで何となく安心してる自分がいる。 (やっぱり葉山の嫌悪症、俺が治せば良かったかな) 「三洲くん?眠った?」 しばらくすると、ほっとしたように葉山が息をつき、自分のベッドへと戻っていく気配がした。 ありがとう、と言ったつもりだったけれど、声にはなってなかったかもしれない。 お礼に、何か葉山が喜ぶことを・・と考えると、崎まで喜ぶことになるのは面白くないが、まぁそれもしょうがないか、と薄れていく意識の中でぼんやりと思った。 |