男は顔じゃありません



「そりゃあもう初めて見たときは、こんなに完璧な容姿の人間がこの世にいるのかーって衝撃だったよ。もしかして整形してるのかな、とか、親はどれだけ美男美女なんだ、とか。みんなは思わなかったわけ?」
自分こそ完璧な容姿を持つ高林泉がぱくぱくと夕食を頬張りながら力説する。
言われた当人であるギイは何とも微妙な表情をし、託生はどうだったかなぁと考える。
「だいたい、この僕が一目惚れするくらい、ギイは眩しかったよ」
高林はうんうんとうなづく。彼は今は吉沢一筋だということは周知の事実なので、託生は心穏やかにその言葉を聞き流すことができた。
「赤池は?同室になって、見惚れたりしなかった?」
「しない。男に見惚れるなんてあるわけない」
ばっさりと章三は切り捨てる。
「じゃあ矢倉は?」
「別に見惚れたりはしなかったなぁ、ずいぶんよくできた顔だなぁとは思ったけどな」
矢倉も苦笑しながら一応答える。
「えー、何だよ、2人ともギイと付き合いたいとか思わなかったわけ?どうしてさ」
高林が心底不思議そうに声をあげる。
どうして、と言われてもな、と章三と矢倉は顔を見合わせると、声をそろえて
「暑苦しいから」
と言った。
言われたギイは「オレのどこが暑苦しいんだ」と異議を申し立てる。
「お前みたいに年中好きだの愛してるだの言われてみろ。いくら好きでも暑苦しくもなるわっ」
章三と矢倉が口々に言い募る。
高林はふうんとうなづいて、ふと託生へと視線を向けた。
「じゃ葉山は?付き合ってみて、ギイのこと暑苦しいって思ってる?」
「え、いや、別にぼくたちは付き合ってるとかそういうんじゃ・・・」
一応ただ友設定は継続中なので、託生が律儀に否定すると、高林は面倒臭そうに舌打ちして、
「じゃ、もしギイと付き合ったら、でいいよ。暑苦しいと思うかどうか教えてよ」
と言った。託生はちらりとギイを見た。
「えっと・・・別に暑苦しくは、ない・・・と思うよ」
むしろちゃんと言葉にして気持ちを伝えてくれるギイのことを、ありがたいと思っていた。
託生自身、あまりそういうこと言わないから、ちょうどいいというところである。
託生の答えに、章三も矢倉も、はーっと大仰に肩を落としてみせた。
こいつはどこまでギイに甘いんだろうな、と感心するやら呆れるやら。
「ギイ、良かったな」
相手が葉山で、と声には出さずに全員がうなづく。
神様はちゃんと正しい相手を結びつけてくれるものらしい。



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あとがき

ギイ、いったいどれだけの美形なんだろう。