いいわけ



日本にいる時はそうでもなかったけれど、アメリカでは本当にギイはよく声をかけられる。
その日もぼくがトイレへと席を外して戻ってくると、そこにはとても綺麗な女性が座っていた。
ちらりとぼくを見て、そして再びギイへととびきりの笑顔を向ける。
そりゃまぁギイはもてるけど、こうして堂々とモーションかけられる女性ってすごいなぁとしみじみ思う。
自分に自信がないとできないよなぁ、と。
このあと食事にでも行きましょうよ、とでも言ってる様子の女性に、ギイが断っているのが英語がよく分からないぼくにも分かる。
ギイはにこりともしていないけれど、女性も負けてはいない。
しばらく積極的にギイに誘いをかけていた女性を、静かにギイが遮る。
そしてにっこりと笑って何かを言った。
次の瞬間、女性はぱっとぼくを振り返り、そして無表情なまま立ち上がりその場を立ち去った。
「あー、しつこかった」
やれやれというようにギイが肩をすくめ、ぼくの手を引いて席に座らせる。
「ギイ、今、何て言ったの?」
今までも同じようなパターンで、ギイは誘いをかけてくる女性を追い払っている。
その度、ぼくは何て言ったのかを聞くのだけれど、ギイは教えてくれない。
一発で女性を撃退できる言葉って何なんだろう?
「ああ、あれね」
んー、と考えながらギイはぼくの頬をきゅっと摘んだ。
「オレ、女性がダメなんです」
「・・・・はい????」
「託生がいる時だとめちゃくちゃよく効く魔法の言葉」
すごいだろ、とギイは得意気に言うけれど。
ちょっと待て。
それってつまり・・・つまり・・・??
「・・・男が好きだって言ったわけ?」
「そんなこと言ってない」
「で、ぼくがギイの恋人だって思われたわけ???」
「それは事実だよな」
うんうん、とギイがうなづく。
今までもずっとそう言って女性を追い払っていたギイ。
その都度、ギイは男が好きで、そして、その相手はぼくだと思われていたってこと???
「ギイのバカっ!」
「てっとり早い方法だろ」
優雅にウィンクなどをするギイに、そのあともさんざん文句を言ったけれど、ちっとも反省などした様子はなく、ぼくはぐったりとうな垂れるしかなかった。



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あとがき

かっこいい人にそんなこと言われたら、すみませんと言うしかない