胸ポケットの中でぶるぶると携帯が振動した。 いきなりだったので息が止まるほど驚いた。 ギイからプレゼントされた携帯電話。連絡してくるのはギイしかいない。 メール着信のサインを確認して開いてみる。 『何してる?』 ギイってば暇なのかなぁと思いながら、 『宿題』 と返す。するとまたすぐに携帯が震える。 『じゃあテキスト持ってゼロ番においで』 分からないところを聞きにきたという理由があれば、臆することなく来れるだろうというのがギイの言い分なのだ。ぼくは少し考えたあと返事を打つ。 『行ったら宿題できなくなりそうだから』 好きな人と一緒にいて、何もしないでいるなんて、さすがのぼくもできそうにない。 会いたいけど、英語の宿題ができなくなるのはちょっと困る。 返信すると、またすぐにメールが届く。 『宿題終わったら持ってこいよ。答え合わせしてやるから』 だからおいで。 ぼくは思わず吹き出した。どうやらギイは今夜どうしてもぼくをゼロ番に呼びたいらしい。 『わかりました』 これ以上メールしていては宿題が終わらない。思い切って電源を落として、ぼくは机の上に広げた英語のテキストに向き直る。30分後、ぼくは最後の問題を解き終えた。 少しでも早くギイに会いたいと思ったら、いつもより少し早く終わったような気がする。 現金だなぁと自分に呆れつつ、それでもテキストをまとめてゼロ番へ向かう足取りは心なしか軽かった。 |