人間カイロ



ここのところ、朝晩の空気が冷たく、そろそろ寒いといっていいほどになってきた。
やっといい季節になってきたなぁ、とギイは口には出さずにつぶやいた。
「ギイ」
「うん?」
「あのさ、えっと・・・」
うろうろと視線を彷徨わせる託生を黙って待つ。水を向けてやってもいいのだが、託生の口から言って欲しいので、少しばかり意地悪をしてみる。
しばらく考えていた託生だったが、
「・・・やっぱり、いい」
「こらこら」
ふいっと背を向けた託生にオレの方が慌ててしまう。
「ほら、遠慮しないで来いよ」
毛布の端をめくり上げると、託生はすみませんと笑ってベッドの中に潜り込んできた。
オレからすれば無類の寒がりである託生は、まだ11月になったばかりだというのに、寒い寒いと言っては暖房器具を恋しがっているのだ。
「あったかい」
「一緒に寝るのはいいけどな、たまには自分から『一緒に寝て』って言えよな」
「え、そんなこと・・・」
急に赤くなる託生にやれやれと笑いが漏れる。
恋人同士になってもう半年が過ぎるんだけどなぁ、と言うと、託生は拗ねたようにオレに背を向けてしまった。冷たい託生の身体を背中から抱きしめる。
春が来るまで、オレは託生専用の人間カイロになる。



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あとがき

寒がりってのは便利な大義名分だよなー