いろいろと事件はあったものの、文化祭は無事に幕を下ろした。 去年同様、打ち上げでもしようと誘われて(よくよく考えると、今年は何の委員もしてないのだから打ち上げもないものだけれど)、ぼくはギイのゼロ番でギイ秘蔵の特上梅酒をご馳走になっていた。 ベッドの上で2人並んでちびちびと梅酒を舐める。 すごく美味しいのだけれど、めちゃくちゃアルコール度数が高い気がする。 まずいなぁ、酔っ払ったら部屋に戻れなくなるなぁ、とぼんやりと思いながら、でもやっぱり美味しいのでやめることができない。 「結局、お前、オレの勇姿を見てないんだよな」 「ドラキュラ伯爵?」 「オレ、評判良かったんだぜ?」 ギイがどこか得意そうにぼくに言う。 「うん、すごくカッコ良かったんだろうなぁって思うよ」 素直にそう言うと、ギイは一瞬きょとんと目を見開き、すぐに困ったように笑った。 「評判が良かったのはあれだ。オレの驚かせ方」 「え?」 「別に見た目の話じゃなくてさ」 言いながら、ギイはぼくの首筋に唇を寄せる。 「お前、惚れた欲目のカタマリ」 「え、だって」 「だって、何?」 ニヤニヤ笑いながら、ギイがぼくの身体をベッドに押し倒す。 「だっていつもと違う服装のギイって新鮮だし、そりゃカッコいいだろうな、って思っただけだけど・・・」 「あー、そういやお前、去年もオレのウェイター姿に見惚れてたもんな」 「えっ!!」 いきなりのギイの問題発言にぼくはぎょっとした。 確かに去年、ギイのウェイター姿はそりゃもうカッコよくて、ぼーっと見惚れていた覚えはあるけれど、まさかそれをギイに知られていたとは!! 恥ずかしい!!これはめちゃくちゃ恥ずかしい!! そんなぼくの動揺など気づいているのかいないのか。ギイはうーんと考えるようにぼくに聞いた。 「お前、ウェイターとドラキュラ伯爵、どっちが良かった?」 「はい?」 「だからどっちのオレが良かった?」 何なんだ、その質問は? 「託生、どっちか選べよ」 「どうして?」 「気になるから」 「どっちも好きだよ」 「だめ」 「・・・じゃあ2年のギイ」 「どうして?」 ぼくが答えるよ間髪入れずに聞いてくる。 「え、っと・・・ウェイターのギイはちゃんと実物を見たけど、ドラキュラのギイは想像だけだから」 よし、完璧な答えだ。文句はないだろう、とギイを見る。 ギイは少し考えたあと、床の上に放り投げられていた紙袋の中から何やら取り出した。 「なに、それ?」 「ドラキュラ伯爵の衣装」 「え??」 「使い道ないからって押し付けられたんだよ。いやいや、まさかここで役に立つとはな」 言いながら、ギイはいそいそと着替えだす。 「何やってんのさ、ギイ」 「ドラキュラ伯爵に襲われてみる?託生」 「ややや、けっこうですっ!!そういう怖いカッコウするのやめろよっ!」 ぼくの手から梅酒の入ったコップを取り上げると、黒いマント姿でぼくの上にのしかかった。 すっかりドラキュラになり切って、怪しげな笑みを浮かべるギイは、やっぱりめちゃくちゃカッコいいのだけれど・・・ 「オレ、託生の血に飢えてるから覚悟しろよ」 「冗談じゃないよっ!やだってば、ギイ」 「こういうの、コスプレって言うのかな?」 案外楽しいな、とつぶやいて、ギイはぼくのシャツに手をかける。 そして、ドラキュラだから、なんて言って、ギイはぼくの身体のあちこちに噛み付いた。 それが、過去の自分の方がいいなんて言われて拗ねたギイの仕返しだとは気づかず、 「やっぱりウェイターの方がいい」なんて言ったものだから、結局その夜は部屋へは帰してもらえなかった。 過去の自分にヤキモチ妬くなんて、ほんと勘弁してほしい。 |