「あ、あの人かっこいい」 どこからか聞こえてきた女の子の声。誰のことを言ってるのか、顔を上げて確かめなくたって分かる。 待ち合わせのカフェ。通りに面したカウンターに座っていたぼくは、ガラス越しに信号待ちをしているギイの姿を見つけた。 「モデルかなぁ」 後ろの席の女の子たちがギイを見つめているのがよく分かる。 ただ普通に立っているだけでも、まるで映画のワンシーンのように人目を引くギイ。 確かにギイは美男子だよね。普段はあんまり考えたことないけど。 だって同じ男だし、ギイ自身、それほど自分の容姿にこだわってる感じでもないし。 というか、むしろ嫌がってるところがあるから。 もったいないなぁと思うけど、かといってぼくがギイみたいな美男子になりたいかというと全然そんなことはない。何だかとっても大変そうだからだ。 やがてドアを開けてギイがカフェに入ってくる。女の子たちの視線を一身に浴びて、けれどまったく気にする風もなくぼくに近づく。 「待たせたな、託生」 ぼくの隣に座り、ぼくの飲みかけのコーヒーを一口飲んだ。 「何だよ、託生?コーヒー飲んだくらいで睨むなよ」 じーっと見つめるぼくの視線に気づいたギイが苦笑する。 「すごい美男子に生まれるってどんな感じ?」 「はぁ?」 突然の質問に、さすがのギイも目を丸くした。 「ぼくはそんな経験、一生することはないと思うんだけどさ、誰もが振り返るような美男子でいるのって、どういう感じなんだろう?得したなぁって思うことある?」 「おかしなこと考えるんだな、託生」 ギイはぷっと吹き出す。そして片肘をつくと、ぼくを下から覗き込む。 「なぁ託生、オレの顔、好き?」 「えっ」 何なんだ、その質問は! 「どうなんだよ、好きか嫌いか」 「・・・・好き・・だよ?」 ギイの顔を嫌いだなんて言う人いるのだろうか? ギイはぼくの答えに、にっこりと笑った。 「託生が好きって言ってくれるなら、この顔で生まれて良かったなぁって思う程度だな。オレは託生の顔の方が好き」 「・・・・」 極上の笑みを浮かべて恥ずかしいことを堂々と言うギイに、ぼくは赤くなる。 何だかギイの顔を見れなくなりそうで、ちょっと困ってしまった。 |