「私の息子にならないか?」
いきなり何を言い出すか!と差し出しかけた手が一瞬止まった。 隣にいた託生はその意味が分からずきょとんとしている。 「娘がきみを気に入ったようだ」 そう言って、穏やかな笑みを浮かべた某大企業の会長が視線を向けたその先に、可愛らしい少女が立っていた。年頃にして、小学一年生くらいか? オレを見て頬を赤らめるあたり、女は子供でも女なんだなぁと感心してしまう。 「光栄です」 「うん?」 オレの少し先を歩く託生が、振り返りもせずにつぶやいた。 「ギイてば、光栄です、なんて言うから、本気であの人の息子になるつもりかと思ったよ」 「まさか。あの人だって本気で言ってるわけじゃないし」 「よかった。もう少しでヤキモチ焼くとこだった」 笑ってオレを睨む託生の手を取って立ち止まる。 「託生、そういう可愛いこと言ってると・・・」 「言ってると?」 どうするの?と首を傾げる託生の指先にキスをする。 「オレにはもう一生を共にする恋人がいますから、って今度から言っちまうぞ」 「それはだめ」 「こんなに好きなのに?」 まだ秘密の恋をしているオレたち。 もう誰に知られてもいいんじゃないか、と最近思い始めているオレとしては 何の文句を言うでもない託生のことが、時折歯がゆく思えてしまう。 拗ねた風に言ったオレの手を、託生がきゅっと握り返す。 「ぼくも好きだよ、ギイ」 「光栄です」 わざとらしく言うと、託生は楽しそうに笑った。 |