広い大浴場は、朝早いせいかまだ誰もいなかった。 「うわー、寒いなー」 がらりと露天風呂へと続く扉を開けると、託生はぶるぶると身を震わせた。 つま先立ちのままぱたぱたと歩いて早速お湯につかる。 「はー気持ちいい、ギイ、早く早く」 「はいはい」 まだ半分眠ったままの状態で、オレはタオル片手に湯船へと歩き出した。 「ギイ、前隠して」 「何で?オレたちだけしかいないのに」 恥ずかしそうにそっぽを向く託生に、オレは首を傾げる。 「でも礼儀だよ、そういうの」 「オレと託生の仲で?」 別に今さら隠す仲でもあるまいし、とぽちゃんと湯船につかる。 託生はまだ何だかぶつぶつと文句を言っている。 「託生、こっち来いよ」 「やだ。礼儀知らずのギイに何されるか分からない」 離れた場所でタオルを頭に乗っける託生はぷいっとそっぽを向いたままだ。 やれやれ、と湯船の中を泳ぐようにして託生へと近づいた。 「朝から託生と二人で露天風呂。いやー天国だなー」 「ちょっと、くっつくなよ」 「くっつだろ。この状況なら」 昨夜は一人さっさと寝ちまったくせに。 浴衣、肌蹴まくってさんざん誘惑しておいて何もさせなかったくせに。 「今日は近くの神社に初詣して、一日旅館の部屋でゆっくりな。好きな時に温泉入れるし」 「うん」 「休み明けたらまたしばらく会えないから、その分いっぱいさせて?」 「は?」 「ヒメハジメ」 「なに、それ?」 何と。 まさか日本人の託生がヒメハジメを知らないとは!って、まぁそういうヤツだよな。 オレはざぶんと肩までお湯に浸かった。 「じゃあこのあとちゃんと教えてやるよ」 「・・・・嫌な予感がする」 「しないしない」 疑わしそうにオレを見る託生。 寝正月というのも案外楽しい。 |