壁ドン



「最近、壁ドンが流行ってるらしいな」
「ああー女子の間で、だろ?」
恒例の昼食会。いつもの屋上の片隅で、各自お弁当を広げている時のことだ。
「何、それ?」
まったく話の見えない託生が小首を傾げると、矢倉がよしよしとうなづいた。
「教えてやるよ、ほら、こうやって」
長い腕が託生の顔の横へと伸びてくる。そして背後の壁に手をついた。
自然と託生の背も壁にくっつく。
「・・・・で?」
「だからこれが壁ドン、なんだって」
「えーと、いちゃもんつけられる時の体勢だよね、これ」
とんちんかんな言葉に、ぶはっとギイが笑い出した。
「何だよ、ギイっ」
「だってお前、いちゃもんって・・、そんな理由で女子が喜ぶわけないだろ?」
「じゃあどうしてこういうのが流行ってるんだよ?」
そうだなぁとギイは箸を置くと、矢倉と入れ替わるようにして、託生の前に身を乗り出した。
そして両腕を伸ばして、どんっと託生の顔の横に手をついた。
いきなり整いすぎるくらい整った顔が間近に近づき、もうさんざん見慣れているというのに、託生は一瞬にして頬が熱くなった。
そんな託生にさらに顔を近づけ、ギイは嫣然と微笑んだ。
「だからさ託生、好きな相手に、突然こうやって逃げられないように壁に押し付けられて、で、こうやって・・・」
キスしようとギイが顔を近づけてくる。
寸でのところで、章三がギイの頭を容赦なく叩いた。
「いてっ」
「公衆の面前ではしたないことをするな」
「何がはしたないんだよ。キスくらいいだろ」
「いいわけないっ」
叫んだのは託生で、その顔は見るも可哀想なくらいに真っ赤になっている。
「ちぇ、俺がやってもまったく普通だったくせに、やっぱりギイだとそういう反応するわけかー」
矢倉が大仰に肩をすくめてみせる。
その言葉にさらに託生が赤くなる。
ぎゃあぎゃあと言い争いをしているギイと章三を横目で見ながら、やっと壁ドンの本当の意味が分かり、そりゃあ女の子たちが胸をときめかせるわけだ、と納得できた託生である。
そして、その場にいた者は、壁どんは好きな相手にされるからこそ、のものなのだということを学んだ。




BACK

あとがき

今は顎くいとかだっけ?いろいろあんのねー。たぶん託生くんはコンプしてるはず。