しまった、と思った時には遅かった。 寮の玄関先で、思わず立ち止まる。次から次へと校舎へ向かって出て行く生徒たちの邪魔にならないように少し端へと場所を変える。 困ったなぁ、どうしようかなぁ、あんまり時間ないしなぁ・・・などと思案していると、ぼくの後頭部を誰かが小突いた。 「こら託生、早くしないと遅れるぞ」 ギイが何してるんだ、という表情でぼくを促す。 「どうした?部屋に忘れものでもしたか?」 さすがギイ。何て鋭い。いつものこととは言え、どうしてこうぼくのことが分かるんだろうか。 「何忘れたんだ?教科書か?」 「えーっと、手袋」 「・・・・・」 寮から校舎までものの数分。中にはコートなしで飛び出す人もいるにはいるが、ぼくにはそんな真似は絶対にできない。今だって外を見ると寒そうな気配がぷんぷんしてる。 ぼくにとって手袋は必需品なのだ。 「取りに戻ろうかなって思ってたんだけど・・・」 「却下。ほら行くぞ」 ギイがぼくの手を引く。 ちょ、っと、公衆の面前で手を繋ぐなんて何を考えてるんだよっ!!!! 「手袋くらいで遅刻するつもりか?」 「ぼくにとっては死活問題だよ、って、ギイ、手を離してよっ!ぼくまだ死にたくないよ」 「寒くても死ぬ、手を繋いでも死ぬ、ってなぁ、お前大げさなんだよ」 楽しそうに笑って、だけどギイは校舎まで手を離してはくれなかった。 恥ずかしくて死にそうだった、と言うと、ギイはまた呆れてぼくの頭を軽く叩くのだった。 |