怖い夢




怖い夢を見て目が覚めた。
何の夢だったか思い出すことさえ怖くて、両手で顔を覆った。
夢の中で手首を捉まれた感触がまだ生々しく残っていて、心臓がどきどきしている。
嫌悪症が治ってからは初めての、すごく久しぶりの感覚だった。
ギイが、ぼくのことを好きだと言ってくれてから、見ることのなかった夢。
向こうのベッドにはギイがいる。
そう思ったら、たまらなくなって、ぼくはベッドを抜け出した。
安らかな寝息を立てているギイを見下ろして、どうしようかと躊躇する。
ほんのちょっと抱きしめてもらえたら、眠れるような気がする。
だけど・・・
床の冷たさに足が痛くなってきた頃、人の気配に気づいたギイが目を開けた。
ぼくに気づくと、のろのろと身体を起こした。
「・・・驚いた。幽霊でも立ってるかと思った」
掠れた声は、どこまでも優しい。
ぼくが黙っていると、ギイは無言のまま布団の端をめくった。
どうして入らない?とでもいうように首を傾げるから、ぼくは理由を告げることなく、ギイのベッドに潜り込むことができる。
「めちゃくちゃ冷えてるじゃないか、いつから立ってたんだ」
「ごめん、ギイ、寒いよね」
「オレはいいって」
笑って、ギイは冷たいぼくの身体に手足を絡める。
暖かくて、ギイの匂いがして・・ぼくはほっとして、悪夢から解放される。
「・・・託生から夜這いをかけられるとは」
ギイがいつものようにからかう。
「ごめん、起こしちゃって」
「ばーか、毎晩でも大歓迎だっていうの」
夜這いだなんて言いながら、けれどギイはぼくに何をするでもなく、ただ抱きしめてくれている。
「怖い夢でも見たか?」
何でも分かるんだね、ギイ。だからぼくも、うん、と素直にうなづく。
そっか、とギイはぼくをさらに強く引き寄せた。
「夢に見る怖いことってさ、たいがいは実際には起こらないから安心していい」
「え?」
「例えば怪獣に追いかけられたり、殺されそうになったり、ああいうのって現実には起こらないだろ?だから怖がることなんて何もないんだ。ちょっと怖い映画でも見たくらいなもんだ」
「ああ・・・そうだね・・うん」
そうだった。
もうあんなことは二度と起こらないって、分かってる。
だから、大丈夫。何度も心の中でそう唱える。
「次はオレの夢でも見てくれよな」
額に口づけられて、髪を撫でられる。まるっきり子供扱いじゃないか、といつもなら文句の一つも言うところだけれど、ぼくは目を閉じて、心地よさに身を任せた。
大丈夫。
そう思ったらふいに涙が出そうになった。
誰かがこんな風に守ってくれるということは初めてだったから。
そんなことを言えば、またギイに子供扱いされるのだろうか。



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あとがき

こういう時のギイはめっちゃ優しいんだろうな、とうっとり。