最初は真面目な顔して絵画鑑賞をしていたのだ。 どれも素晴らしい作品で、ぼくも集中して眺めてたから、ふいに手を握られた時も、正直気がつかなかったくらいだった。 だって、手を繋ぐなんて、まぁよくあることで、とは言うものの人前でそんなことするなんて、いつものぼくなら絶対にないんだけど。 つまりそれくらい目の前の作品に夢中になっていたんだと思う。 メインの作品の前でしばらく立ち止まって鑑賞していると、ちゅっと突然耳元にキスをされた。 それさえも最初は気にならなくて、次に軽く頬にキスされて、最後に唇にキスされてようやくぼくはここが公衆の場だったことを思い出したのだ。 隣に立つギイを振り返り、さすがに大声は出せないので繋いでいた手を解いてその腕をむぎゅっと抓った。 「痛い痛い。何するんだよ、託生」 「それはこっちの台詞だろ。人前で何するんだよっ」 「お前、すっごい集中してるからどこまでできるかなーって思ってさ」 屈託のない笑顔を見せるギイにぼくは唖然としてしまった。 「な、何馬鹿なことを言ってんだよっ。キスするなんてっ」 「でも誰も気にしちゃいないぜ」 ぐるりと周囲を見渡すと、なるほど誰もぼくたちのことなんて見ていない。 そりゃそうだ。美術館は作品を見にくるところなのだから。 「案外と盲点だったな。いい場所発見したなー」 「そんなことするなら、もうギイとは一緒に来ない」 「一人で来たってつまんないぞー、それともオレ以外の誰とデートするつもりなんだ、お前」 ギイがもう一度ぼくの手を繋ぎ、引き寄せる。 「ギイっ」 「大丈夫、素晴らしい作品に感動したら、誰でもそれを好きな人と分かち合いたいって思うものだから」 ぼくが反論するより早く、ギイはもう一度ぼくに口づけた。 ああ、本当にここが日本じゃなくて良かった・・と思うくらいしか、ぼくにはできなくて、昔から章三に「ギイに羞恥心という言葉を教えるように」と言われているのだけれど、やっぱり無理だと改めて実感させられたのだった。 |