映画館にて



映画に行こうと誘われて、ちょっと見たかった話題作だったので二つ返事でOKした。
ところが、いざ映画館で席に着くと、ギイが予約していた席は何とカップルシートだった。
「・・・何これ」
「カップルシート。一度座ってみたかったんだ」
ギイはしれっと言う。
ぼくだってカップルシートくらい知っている。
だって周りの椅子の色と違ってピンクだし、後方にあって、ベンチシートみたいになっている。
映画館に入ると、そこに座る仲良さそうなカップルを目にして、ほのぼのするなーなんて思っていたのだ。
だけど、別に自分がギイと座りたいとは思ったことはない。
「ほら、座れよ」
「恥ずかしいよ」
「どうして?」
「だって、いかにもじゃないか」
「別に親子とかでも座るぞ?」
「ギイとは親子じゃないだろっ!」
まぁまぁと宥められて、ぼくはピンクのカップルシートに座った。
隣との肘掛は当然なくて、その代わり、隣のカップルシートとの間にはお互い顔が見えないくらいの仕切りがある。
座ってしまえば二人だけの世界・・・ということか。なるほどねー。
「たまにはいいだろ?」
「・・・たまにはね」
ギイは満足そうに笑うと、ぼくの手を掴んで指を絡めた。
「ここならキスしてもバレなさそう」
ぽつりとつぶやいたギイに抗議する間もなく、ちゅっと唇を奪われた。
誰も見てなかったからいいようなものの、次はないからな!とぼくはぴったりと肩をくっつけてくるギイに、とりあえず文句を言った。



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あとがき

男同士でカップルシート。もしほんとに見かけたらガン見だわ。