「もしぼくが勝ったら」 託生が手元のカードをじっと睨む。 章三と3人で始めたカードゲームは、今のところオレが3勝、章三が2勝、託生はまだ1勝もしていない。 まぁあれだよな。託生は考えていることがそのまま顔に出るから、すぐに分かる。 こういう相手の心理を読むゲームってのは向いてないと思うんだよなぁ。 「葉山が勝ったら、どうするって?」 章三がほいっと一枚カードを切る。 「二人からコーヒー奢ってもらう」 「安上がりだな。そんなんだから勝てないんだ。どうせならギイに豪華なフランス料理のフルコースでも奢ってもらえよ」 「フランス料理って苦手なんだよ」 おいおい、そんな話じゃないだろ、託生。章三も同じことを思ったようで、呆れたように託生を見る。 「・・じゃあイタリアンにする」 「よし。僕はギイに勝ったら、明日の学食奢ってもらう」 「おい、何で2人してオレばかりにタカッてるんだよ」 「葉山に勝ってもあまり達成感がない」 「ちょっと、赤池君、それどういう意味さ」 託生がさんざん悩んだあと、カードを一枚捨てる。 「お、サンキュー託生、それでオレ上がり」 「えーっ!!!」 テーブルの上にカードを広げる。 「ひどいよ、ギイっ!ぼくだってあとちょっとだったのに!!」 「ひどいったって、勝負の世界は非情なものだよ、託生くん」 託生ががっくりとベッドに倒れこんだ。 「相変わらず無駄に勝負強いな、ギイ」 章三がやれやれと肩をすくめる。 「無駄じゃないぞ。さ、そろそろ消灯だ。負けた章三は帰りに270に寄って、三洲に上手いこと言っておいてくれよ」 「上手いことって何だよ。ったく」 「託生は勝ったオレにご馳走してくれること」 「イタリアン?」 「もっと美味しいもの」 悔しくてどうでもいいや、という風情の託生は意味が分からないらしい。 章三はげんなりした表情で、ゼロ番をあとにした。 「託生、美味しいものちょうだい」 ベッドに突っ伏した託生の首筋に口づけると、ぎょっとしたように振り返る。 「今夜は帰さないからな、託生」 「え、え、え???」 まだ分からない様子の託生のシャツに手をかける。 いやいや、無駄に勝負強くてよかった。 |