「ちょっと思ったんだけどさ」 またこいつはおかしなことを言い出すんじゃないか、と持ち前の勘の良さでオレは身構えた。 矢倉は目の前に広げられたスナック菓子を摘むとぽいっと口に入れた。 「男同士ってさ、すっげぇ緊張しない?」 「何が?」 ああ、聞きたくないと思いながらも、仕方なく矢倉を促す。 どうせ聞かされるのならさっさと聞いてしまおう。 「だからさ、セックスする時、普通に女の子とする時より緊張しないか?」 「・・・・・」 「黙るなよ、ギイ」 いや、黙るだろうと思ったが、顔には出さない。 「・・・一応、理由を聞こうか」 「つまりさ、同じ男だから、ああこいつってこういうやり方でするんだーとか、自分だったらもっと上手くやるのに、とか言われたら萎えるだろ?立ち直れなくね?」 「言われたのか?」 「いや?」 「・・・・・」 「・・・・・」 「矢倉」 「ああ?」 「そういうこと言われないよう精進しろ。以上」 矢倉は不満たらたらで文句を言っていたが、オレは完全無視を決め込んだ。 だいたいオレの愛しい恋人はそんなことを言ったりはしないので、矢倉の心配なんてまったくの他人事だ。 でも確かにそういうことを言われたら立ち直れないだろうことは分かるので、 「オレも精進するか」 矢倉には気づかれないように小さくつぶやいた。 |