どこを見てもまるで童話の中に出てくる建物ばかりで、思わず目が釘付けになる。 「同じ外国でもアメリカとフランスって違うよね」 ぼくが言うと、ギイはちょっと考えたあと、「そうかもな」と頷いた。 ギイにしてみればフランスなんて何度も訪れてる地だから、そんな風には思わないのかもしれないけれど、初フランスのぼくにしてみれば、物珍しいものばかりなのだ。 ヨーロッパって感じがする。 でも、今回は景色に見惚れている場合ではなくて。 「うー、緊張してきた」 じいさんに紹介するよ、と簡単に言って、ギイはぼくをフランスに連れてきた。 友達としてじゃなくて、いわゆる恋人として紹介されるわけだから、緊張しないはずがない。 ギイは大丈夫だなんて気楽に言うけど、ぼくは昨日から眠れないくらい緊張してるのだ。 「ギイのおじいさんてどんな人?」 「あー、オレと似てるかなー」 「え、顔が?性格が?」 「どっちも。割りとサバけた人だから心配いらないよ」 ほんとかなー?男同士だってことを、そうそう簡単に受け入れてもらえるのかなぁ。 それも若い人ならまだしも年配の人ってそういうことに拒否反応示しそうなんだけどな。 黙り込むぼくの頬を、ギイがむにゅっとつまんだ。 「大丈夫、託生はじいさんに気に入られるよ」 「どうして?」 「オレとじいさん、趣味もそっくりだからさ。ん、まずいな、やっぱり紹介しない方がいいかな」 ぶつぶつとつぶやくギイに、ぼくは思わずほっと肩の力を抜いた。 「そか。ギイと似てるなら緊張しなくて平気かな」 「何だよ、それ」 意味が分からんというようにギイが首を傾げる。 「だって、ギイはぼくが困るようなことはしないだろ?ギイと似てるんなら、安心だなって思って」 ぼくが言うと、ギイは何故か困ったような顔をした。 何か変なこと言ったかなと思ってると、ギイは負けましたというように、両手を上げた。 「お前、そうやって何度でもオレのこと骨抜きにするんだよなー」 「何が?」 「あーあ、オレも託生のこと骨抜きにしたいなー」 おじいさん譲りのトレンチコートを粋に着こなしたギイを、すれ違う女性たちが皆ちらりと振り返っていく。 ぼくはどん、っとギイの肩に体当たりした。 「何だよ」 「あのさ、ぼくはとっくの昔に骨抜きにされてますから」 「ん?」 「何度でも、ぼくはギイに骨抜きにされてるよ」 ちょっとした仕草に、何でもない言葉に、その眼差しに。 ぼくは今まで数え切れないくらい恋に落ちてきた。 それなのに、骨抜きにしたいなーなんて、何を馬鹿なことを言ってるんだろう、ギイってば。 ギイはちょっと笑うと、仕返しとばかりにぼくの肩にどんと体当たりしてきた。 「そりゃ良かった。オレばっかじゃ悔しいからな」 「はいはい。そんなことより、お土産ってケーキで良かったのかなぁ」 「何でもいいよ」 ギイはぼくの肩を抱き寄せると、ちゅっと音をさせて頬にキスをした。 「・・・・っ」 「フランス式のお礼な」 フランス式?アメリカにいたらアメリカ式って言うくせに! ぼくはしつこくくっついてこようとするギイを追い払いつつ、石畳の道を転ばないように気をつけながら歩くのだった。 |