秋休み、託生と連れ立って、章三の家に遊びに行くことになった。 オレの目当ては章三の手料理だったが、託生の目当ては、噂でしか知らない奈美子ちゃんを一目見るというものだったらしい。 「下世話だなぁ、託生」 章三の家へ向かう電車の中でからかうと、託生は心外だというように唇を尖らせた。 「だって、ギイは何度も会ってるんだろ?ギイばっかりずるいよ」 「別に会いたくて会ってるわけじゃないぞ」 「赤池くんちに行くと、もれなく会えるんだ?」 「まぁ家が隣だし、同い年だし」 「ふうん」 「何だよ」 「別に」 「気になるだろ」 「奈美子ちゃんには赤池君、奈美子ちゃんには赤池君」 「何だ、そりゃ」 「ヤキモチ焼かないためのおまじない」 託生の一言で、オレは馬鹿みたいに幸せになる。嬉しさのあまり、電車の中だということも忘れて頬にキスしたら、託生にがっつり足を踏まれた。 しかし、である。 奈美子ちゃんは初対面の託生と妙に意気投合して、知らないヤツが見たら、2人は恋人同士かというほどにまで仲良くなってしまった。 もちろんオレは、帰りの電車の中で 「奈美子ちゃんには章三、奈美子ちゃんには章三」 と唱えることになる。 託生はオレばかりがモテていると思っているようだが、実際はそうでもないということにそろそろ気づいてほしい。 |