ゼロ番の朝


コーヒーのいい匂いがしてきたなぁ、ってことはもう朝なのかなぁと夢うつつで考えていた。
そして、はっと気づいた。
今日って月曜日!?
思わずがばっと起き上がると、それに気づいたギイがひょいと顔を覗かせた。
「おはよう、託生」
「あ。お、はよう・・・」
「寝ぼけた顔して」
ギイは近づいてくると、ぼくの顎に指をかけて上向かせると、ちゅっと音をさせてキスをした。
「・・・・月曜日?」
「そうだよ。昨日は日曜日、久しぶりに託生がゼロ番に泊まって、久しぶりにエッチしました」
「ちょっ・・・!」
一気に昨夜の記憶が甦って、ぼくは顔が熱くなるのを感じた。
そんなぼくにギイはくすっと笑って、けれどそれ以上からかうことはなく、ふわりと制服のシャツを身に纏った。
「コーヒー飲むか?」
「あ、うん、ありがとう」
ぼくはごそごそとシャツを着て、裸足のままベッドを降りた。
まだ早い時間だけど、みんなが起き出す前に、一度270号室へ戻らないとまずいよな。
まさかゼロ番からギイと一緒に登校するわけにもいかないし。
なんてぐるぐる考えてると、ギイがぼくのために持ってきたマグカップを、ベッドサイドのテーブルに置いた。
そしてそのままぼくを抱き寄せる。
「あー、このままもう一回したいな」
「な、何言ってんだよ。もう、ギイってばちょっと、苦しいってば」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ぼくは必死にギイの胸を押し返した。
「なぁ、今夜も泊まりにくる?」
「・・・・そんなの無理だよ」
「そうだよなぁ。じゃあやっぱり今からもう一回・・いてっ」
無茶ばかり言うギイのほっぺをぺちんと叩く。
「ギイ〜」
「わかったよ。今度のデートまで楽しみはとっておくよ」
ギイはくしゃりとぼくの髪を撫でると、椅子の背にかけてあったネクタイを手にした。
「ギイ」
「うん?」
「結んであげる」
手を伸ばしてシャツのボタンを留めて、ネクタイを指にかけた。
ギイはまんざらでもないような表情でニヤニヤと笑う。
「珍しいこともあるもんだ」
「去年も時々してあげてただろ?」
「新婚さんみたいだよな」
そういうこと真顔で言わないで欲しい、恥ずかしいから。
「はい、できた」
「ありがと」
ギイはぼくの頬にキスをすると、机の上に置いてあった眼鏡をかけた。
とたんに、そこにいるのがギイではないような気がして、ぼくはちょっと怯んでしまう。
そんなぼくに気づいたのか、ギイは眼鏡を外すと、身を屈めてぼくにキスをした。
「・・・・ごめんな」
「何が?」
「寂しいだろ?」
ずばりと言われて言い返せない。だけど・・・
「大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「お前、そこはちょっとは寂しいって言ってくれよな」
拗ねるギイに、ぼくは笑う。
早くゼロ番を出ないといけないって思ってるのに、名残惜しくてお互いなかなか「またね」が言えない。
ぎゅっと抱きしめられて、ギイの温もりを忘れないようにと目を閉じる。
大好きだよと言うと、ギイは愛してるよ、と言ってくれた。
寂しくはないよ、大丈夫。
そんな強がりはきっと見抜かれているだろうけど、時々こうして抱きしめてもらえれば、たぶん1週間くらいは我慢ができる。
また週末な、とギイが言う。
ぼくは小さくうなづいた。



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あとがき

託生くんが夜這いするシチュは萌えるね。