けじめ


はっと目が覚めた時、目の前のテレビはブラックアウトしていた。
「えーっと」
左肩の重みに顔を向けると、当然というべきか、奈美がぐっすりと眠り込んでいた。
テーブルの上の小さな時計を見ると、すっかり真夜中だ。
「しまった」
週末、仕事帰りに奈美の部屋に寄って、一緒にDVDを見始めて、どうやらそのまま二人して眠り込んでしまったようだ。
「まずいな」
どう考えても電車が動いている時間じゃない。
ここからタクシーで帰るとなるとけっこうな金額になる。
かといって帰らないわけにもいかない。
僕は奈美が目を覚まさないようにそっと身体をずらした。
「ん・・・?」
「ごめん、起こしたか?」
「・・・章三くん・・・あれ、今何時?」
「3時だよ。すっかり寝込んじまった」
まだ事態が飲み込めていない様子の奈美がぱちぱちと瞬きをする。
「もう電車動いてないよ?」
「だな」
「・・・・泊まっていけば?」
奈美の言葉に、僕はため息をついて、ぺちんと奈美の額を叩く。
「痛い」
「簡単に男に泊まっていけなんて言うんじゃない」
「なによー、3時まで寝てたくせに。明日お休みでしょ?」
そう、今日は金曜日。明日は休み。
一人暮らしを始めた奈美の部屋に何度も来ているけれど、泊まったことはない。
今さら何を言うと、ギイあたりには笑われそうだけれど、自分の中でのけじめみたいなものだ。
だが3時か・・・。
やれやれとため息をついて、僕はぱたりと床に倒れこんだ。
「くそ、けじめが」
「・・・章三くん、そこで寝るの?風邪引かないでね」
言うなり奈美はごそごそと自分だけベッドに潜り込んだ。
そっけない言葉にもうどうにでもなれという気になり、僕は奈美を壁際へ押しのけて、ベッドに潜り込んだ。甘い香りと温かな体温。
背中を向ける奈美を腕の中に抱き寄せた。
「おやすみ、奈美」
「うん、おやすみ」
あまりに眠くておかしな気も起こりはしない。
いろんなことは明日考えよう。
きっと起きたらひどく後悔しているとは思うのだけれど。




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あとがき

一応出来上がってる二人で。一緒に寝るけど何もしないというのがまた萌える。