一本の薔薇を差し出して、ギイが言った。 「託生、逞しくなったなぁ」 しばらく呆然と、いきなり現われた恋人の姿に見入っていたけれど、ふいに我に返って、返ったとたん無意識のうちにギイを蹴り飛ばしていた。 「いてっ」 「なにが逞しくなったなぁだよ」 「だから痛いって、託生」 「ずっと音信不通で、手紙一つよこさないで、生きてるか死んでるかも分からなかったのに」 「ちょ、待て待て、本気で蹴るな」 「どれだけ心配したと思ってるんだよっ」 逃げるギイの足元をこれでもかというほど蹴り飛ばす。 手はバイオリンを持っているから使えない。 それだけでもありがたいと思えって言うんだ。 「ごめんっ、オレが悪かった」 「当たり前だろっ」 「反省してます」 「してなきゃ許さない」 「許してください」 「絶対やだっ」 子供じみた言い合いの間にも、じわじわと涙が溢れてきそうになって焦った。 そんなぼくの身体を、ギイはバイオリンごと抱きしめた。 「本当に悪かった」 「・・・・それしか言うことないの?」 ふわりと香る甘い花の匂い。 ああ、ギイだ、とぼくは時間が遡ったような気がして切なくなる。 「愛してます」 「・・・・」 「オレは、託生を、愛してます」 それはあの最後の日、確かに聞いたギイの告白。 「そんな言葉に騙されないんだからな」 精一杯の強がりは、ギイの唇に吸い込まれた。 |