七夕(ギイ×託生)




階段長同士の情報交換会を兼ねた夜の散歩。
そこに託生が呼ばれるのは、友人たちのオレへの友情の証に他ならない。
とは言うものの、一応表面的にはただの友達を装っているので、隣に並んで歩いたりはしない。
いつもオレの少し後ろを歩く託生。
必ず誰かが一緒にいて、託生が気兼ねしないように他愛ない話をしている。
時折聞こえる笑い声に、つい振り返ってその笑顔を見たくなる。
「そんじゃ、今日はここで解散なー」
突然矢倉が足を止め、ぐるりとその場にいる連中に見渡した。
ここで?って、こんな場所で?いつもなら散歩の半分くらいの場所なのに?
「じゃ、帰りは各自ということで」
言うなり矢倉は今来た道を引き返し始め、吉沢も野沢も章三さえもそれに倣う。
なるほど、どうやらこれもまた仕組まれていたらしい。
その場に残ったのは、何が何だか分からないできょろきょろする託生と、連中の企みに乗ることにしたオレだけだ。
「えっと・・・ギイは帰らなくていいの?」
託生が上目遣いにオレを見る。
「1週間ぶりの逢瀬だろ。少しくらい付き合えよ」
手を差し伸べると託生はおずおずとその手を取った。
「たった1週間でもこんなに会いたかったのに、彦星たちは1年もよく我慢できるよなぁ」
「あ、そっか、今夜は七夕だ」
思いだしたように託生が夜空を見上げる。
綺麗に瞬く星に目を細め、ぎゅっとオレの手を握りしめる。
その温もりが愛おしい。
「オレに会いたかった?託生」
「うん」
「もし1年に1回しか会えないってなったらどうする?」
オレの問いかけに、託生は少し首を傾げて言った。
「・・・・どうもしない」
「おい」
「だって、ギイが我慢できなくなって1週間後には会いにくると思うから」
くすくすと笑う託生が憎たらしくて、ぎゅっと強く抱きしめる。
「痛いよ、ギイ」
「託生だって我慢できなくなるだろ?」
「だから、1週間後に我慢できなくなって、会いに来てって言うと思うんだ。で、ギイが会いにきてくれる」
なるほど。オレたちは天の恋人たちみたいに、1年も我慢できないよな。
何しろめちゃくちゃ愛し合ってるわけだし。
「よし、このまま七夕デートするか」
手を繋いだまま歩き出す。
来年の七夕もこんな風に七夕デートしようなと言うと、託生は嬉しそうに笑った。


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あとがき

デートの口実なら何でもいいわけですよ。