ヤキモチ合戦


「で、託生は何か言ってたか?」
整いすぎるほど整ったギイの容姿は、時折これ以上ないくらい冷たく見える時がある。
例えば一年のチェック組と一緒にいる時。
あんな表情してる人によく何も感じずに話しかけられるものだと、一年生たちの神経の太さにはいつも感心している真行寺である。
自分ならあんな表情のギイと、とても話なんてできないだろうと思っていたのだ。
それなのに、まさかそんな表情のギイと対峙することになろうとは。
「あの、ですね・・・葉山さんは、別に何も言ってなかったっす」
知らずと声が小さくなる。そんな真行寺を、ギイはふうんと見つめ返す。
ああ、怖い。三洲も意地悪モードのときはそりゃもう怖いのだけれど、そういう怖さとはまた違った怖さが、ギイにはある。
綺麗な人ってどうしてこう迫力があるのか。
「託生、真行寺とはすごく仲がいいからなぁ、うっかり本音を言いそうなんだけどな」
「いや、そんな仲がいいわけじゃ・・・」
「真行寺、最近はオレよりも託生といる時間長いだろ?」
「いえいえいえ、そんな滅相も無い」
ぶんぶんと手を振る。
放課後、託生と普通に・・ごくごく普通に世間話をしていたところを、うっかりギイに目撃されてしまった。
どうやら前日、二人はちょっとした喧嘩をしたようで、ギイはここぞとばかりに真行寺を捕まえて、託生は何か言ってなかったか、と真行寺を問い詰めてきたのだ。
まったくもって迷惑な話である。しかし相手は階段長のギイである。
とてもじゃないが、文句なども言えない。真行寺が嫌な汗をかいていると、
「崎、人の飼い犬を勝手にいじめるな」
「アラタさん!」
ふいに背後からかけられた声に、真行寺は助かったとばかりに立ち上がる。
「そんなに葉山のことが気になるなら俺に聞いたらどうだ?俺は葉山の同室者だぞ」
「・・・・」
黙り込むギイに、三洲はしてやったりといった表情を見せる。
「他人に聞くより、直接本人に聞けよ。葉山、今部屋に一人だぞ」
「そうする」
あっさりと言うと、ギイは270号室へと去っていった。
はー、やれやれ、と息をつく真行寺を、三洲が呆れたようにじろりと睨む。
「お前、遊ばれてたんだぞ」
「へ?」
三洲の言葉に真行寺がきょとんとする。
「崎のヤツ、めずらしく暇だったんだろ。暇つぶし半分、ヤキモチ半分でお前のことをからかって楽しんでたんだよ、あれは」
「ええっ!てっきり怒られているものだと思ってたっす」
「鈍いヤツ」
ばっさりと切り捨てられ、真行寺はがっくりと肩を落とす。
いくら暇だからって、こんな仕打ちを受けようとは。
先輩という存在は時々本当に理不尽だ、と真行寺は深くため息をついた。


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あとがき

そして三洲がヤキモチ妬いてることにも気づかない真行寺。