「今夜は七夕なんっすよねー」 大笹の下でさまざまな願いをごとが書かれた短冊を眺めて、しみじみと真行寺がつぶやいた。 たまたまその場に居合わせた三洲は、暢気なつぶやきにくすりと笑った。 「願い事は書いたのか?」 「もちろん書いたっすよ。アラタさんは?」 「俺は書いてない」 「えー、せっかくのイベントなのに?」 「星に願うほどの願いごとがないものでね」 一応生徒会長としてイベントには参加するようにしているので、短冊くらいいくらでも書いてもいいのだが、生憎と書きたいほどの願いごとがないのだ。 「で、お前は何を書いたんだ?」 「えっ!」 いきなりうろたえた真行寺に、三洲が眉をひそめる。 「・・・お前、おかしなこと書いたんじゃないだろうな」 「おかしなことなんて書いてないっすよ。えーっと、まあ・・・その」 あらぬ方向を見る真行寺に、三洲は自分の勘が外れてないことを知る。 「真行寺」 「はい」 「短冊見つけて外しておけよ。おかしな内容の短冊なんて誰かに見られるのはごめんだからな」 「えーっ!!せっかくアラタさんと相思相愛になりますようにって書いたのに!」 「やっぱりか!」 そんな馬鹿げた願い事を誰かに見られるのはまっぴらごめんだ。 「どこに吊るしたかなんて覚えてないっすよ」 「知るか、さっさと外せ」 冷たく言い放つ三洲に、真行寺は勘弁してくださいよーと泣きつく。 「・・・・外した証拠を持って、今夜270号室に来るように」 「へ?」 「どうせ葉山は七夕デートしてるだろうからな」 三洲は言い捨てて歩き出す。 しばらくその意味を考えていた真行寺だったが、やがて大笹に吊るされた短冊の中から、自分が吊るした短冊を意気揚々と探すのであった。 |