薬のせいでうとうとしていた。 眠りの淵で、小さく扉が閉まる音がしたような気がしてブランケットの端から顔を出した。 「あ。起こしちゃった?」 託生が小さく笑って、ベッドサイドに腰を下ろす。 「熱どうかな」 冷たい手が額に当てられて、うーんと首を傾げる。 「まだちょっと熱いな」 滅多に引かない風邪を引き、これまた滅多に出ない熱が出て、何年かぶりに昨日からダウンしていた。 どうも風邪を引くと喉に来るようで、どれだけ頑張っても声が出ない。 「汗かいただろ?着替えた方がいいよ。起きられる?」 うなづいて片肘をついて身体を起こした。だるくて思わずため息が洩れる。 「動かなくていいよ。脱がせてあげるから」 「・・・・」 「ごめん、はいらないよ。風邪引いた時くらい甘えてくれよ」 託生はパジャマのボタンを外すと、温かいタオルで汗ばんだ身体を手早く拭ってくれた。 洗ったばかりのぱりっとしたパジャマに着替えると何となく気持ちもさっぱりとした。 出ないと分かっている声を出そうとすると、託生がむぎゅっと唇を摘んだ。 「ありがとうもいらない」 「・・・・・」 「そんなこと言わなくていいから、ゆっくり眠って」 「・・・・・」 ベッドに横たわり、肩までブランケットを引き上げると、託生が身を屈めてちゅっと額にキスをしてくれる。 まるで子供にするような色気のない口づけに、恨みがましく睨んでしまう。 「好きだよ、ギイ」 「・・・・・」 「ちゃんとしたキスは風邪が治ってから」 いつもなら自分から言う台詞を全部託生に言われてしまい、何となく面白くない。 ごめんも、ありがとうも、好きだよも。 今さらいちいち口にしなくてもいいくらいにはお互いのことを知っていて。 だけどそういう一言が大切だってことも分かってる。 言いたい時に言えないのは何てもどかしいのだろう。 託生はそんな考えなどまるでお見通しとでも言うように 「全部わかってるよ、ギイ」 と言って笑った。 ああ、結局、何年たっても、託生には勝てないんだなと思う。 |