「今思っても不思議なんだけどな」 「何が?」 いきなり問われて、ぼくは章三を見返した。 「あの時、どうしてギイと別れなかったのか」 あの時、というのはどの時だろう、とぼくは一瞬考えた。 別れることを考えなくてはならない時がそんなにたくさんあったのかと言われると困るのだけれど、どうもぼく自身はそう思っていなくても、周りが思っていることが多いのだ。 「高校三年生の時?」 「それが一番かな」 「あー、前にも言ったと思うんだけど・・・」 「ギイのことを信じてたから」 「うん、まぁそうかな」 だってそれ以外に何があるんだろう。 「じゃあギイが仕事やめた時は?」 「えーっと、どうせギイはすぐに暇に飽きるだろうなって思ったし・・・」 「思ったし?」 「あのさ、赤池くん、仕事辞めることがどうして別れる理由になるのかな?」 「・・・・別れたいと思う理由にはなるんだよ、普通はさ」 何故か呆れたようにため息をつく章三に、そんなものかとぼくは唸った。 だって結局ギイは3ヶ月もしないうちにまた仕事始めたし、以前よりも忙しくなったくらいだ。 「何があっても葉山から別れるなんて考えないんだろうな」 うんざりしたような章三の言葉に、すみませんね、とぼくは返しておいた。 |